2023.06.14 (Wed)

自治体が抱える課題とは(第3回)

自治体DX加速を導くローコード・ノーコードの可能性

 2020年に閣議決定された「自治体DX推進計画」により、住民サービスの電子申請など行政手続きのデジタル化が急ピッチで進められています。一方、申請書の処理や予算執行など、行政機関のバックオフィス業務ではExcelへの手入力や紙帳票で承認・管理するものが未だに多いのが現状です。そのような中、自治体DXを加速させるべく広まりつつあるのが、プログラミング知識不要のローコード・ノーコードツールの活用です。本記事では、行政機関における活用事例とそのメリットを紹介します。

コロナ対応を機に自治体で広まるDX内製化

 ローコード・ノーコードとは、コンピュータに指示を出すソースコードのコーディングが最小限、またはコーディングなしでできる開発手法です。専門的なコーディング知識がなくても、一定の機能が備わったテンプレートを用いて簡単に開発できることから2021年9月時点で国内企業の約40%が導入しており、自治体での活用も増えはじめています。

 少子高齢化に伴う職員数の減少や予算縮小、多様化する市民のニーズへの対応を課題とする自治体にとって、ローコード・ノーコードを活用してシステムやアプリ開発が内製化できれば、さまざまなメリットが生まれます。職員による内製のため、外部事業者への発注にかかる金銭的コストを削減できるだけでなく、発注や調達に必要な要件定義や入札などの承認プロセスが省けるため、開発からリリースまでの期間が短縮できます。また、ローコード・ノーコードツールは職員間や部署間での共有もしやすいため、一部の職員への業務過多や業務の属人化を防ぐことも期待できます。

 APIを介した外部システムとの連携など、必要に応じてカスタマイズできる点も、共通した業務課題を抱える自治体同士が知見を共有するうえで役立っています。一例として、大阪府はプログラミング初心者の職員が、新型コロナウイルス感染者の健康情報管理アプリをわずか1週間で制作し、ほかの自治体にも提供。そのシステムを転用・カスタマイズした埼玉県川口市でも、1週間でシステムを稼動させたといいます。

職員数名のアプリ開発で業務負担を大幅削減

 ここからは、業務改善やサービスの向上にローコード・ノーコードツールを活用している自治体の例を紹介します。

 大分県別府市は、新型コロナウイルス対策の一環として、ローコード・ノーコードツールを用いて、避難所運営支援システムを構築。職員2名の内製で、避難所ごとの避難者数をインターネットから登録・公開できるシステム、および避難者が避難予定を登録するシステムをつくりました。避難者数の集計作業はそれまで電話で行っていましたが、自動化したことで業務負担が軽減し、市民へのタイムリーな情報公開が可能となりました。同市ではほかにもプレミアム付き商品券予約販売システムのほか、RPA(パソコンで行う業務をロボットにより自動化する仕組み)のシナリオの大部分を内製したことで6,000時間相当の業務効率化を実現したそうです。

 兵庫県神戸市も新型コロナウイルス対応で健康局職員の業務がひっ迫するなか、検査や体調に関する相談を受け付けるチャットボットや、感染者情報の管理やワクチン接種券の発行などを行うアプリなどを内製し、リリースしました。同市では、以前から保健所事業の業務改善のためにローコード・ノーコードでアプリを作成するなど、職員のDX内製化が推進されていたのです。このほかにも紙帳票やExcelで行っていた公用車の運転日報をアプリ化し、大幅なペーパーレス化と集計作業の削減につなげるなど、自前のDXでさまざまな業務改善を導いています。

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持続的な自治体DXにはサポート体制の工夫が不可欠

 ローコード・ノーコードツールを活用した内製でのアプリ・システム構築は、つくりながら修正・改善できるという手軽さが魅力のひとつですが、導入する際には留意すべきこともあります。それは既存の業務課題を棚卸しし、改善に向けて業務プロセスや体制を見直すことです。現状を踏まえたうえで、ツール導入でどんな業務改善が期待できるのか、その特性をよく理解して内製化を検討することが重要です。

 また、導入当初は担当職員やシステム課など一部の利用にとどまるものであっても、その成功事例やノウハウの周知を組織全体で徹底し、職員がサポートし合える体制をつくることが、持続的な運用のためには欠かせません。その実践例として、先に紹介した神戸市はICTに関する相談ができる有志職員のコミュニティを立ち上げ、職員のローコード活用を継続的にサポート。埼玉県川口市のように、専用の相談窓口を設けてシステム課と担当課の二人三脚の体制をつくって、職員による活用促進に成功しているケースもあります。

 ローコード・ノーコードツール活用は、運用体制の工夫しだいで、業務効率化だけでなく、組織全体のICTリテラシーの底上げにつながります。その結果として、新しいアイデアが生まれ、市民サービスの向上に還元されていくことも期待できます。

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