ビジネスパーソンには、1日が終わってくつろぐために自宅で晩酌や、仕事帰りに自分を労うお酒、あるいは上司や同僚、お客さまと一緒にお酒を飲む機会があるでしょう。
年齢を重ねてもお酒を無造作に飲んでいると、二日酔いが多くなり仕事力を落としてしまい、場合によっては健康にも影響を与える可能性があります。しかし、お酒は適量とアルコール代謝のメカニズを知れば、仕事力を落とさずに楽しく続けられるのです。本記事では、厚生労働省が示した「飲酒のガイドライン」をもとに、仕事力を落とさないお酒との付き合い方を紹介します。
節度あるお酒の適量とは?
アルコール代謝機能や年齢などにより、お酒の適量には個人差がありますが、厚生労働省の示したガイドラインを参照すると、節度ある適度な飲酒量は1日平均で、純アルコール換算で20グラムとされています。
純アルコールで20グラムとは、おおよその目安としてビール中ビンで1本、日本酒で1合、チュウハイ(アルコール度数7%)350mL缶1本、ウィスキーダブル1杯に該当します。ただし、高齢者や女性、あるいは飲酒後にフラッシング反応を起こす人は、これより少なめにすることが推奨されています。
フラッシング反応とは、コップ1杯のビール程度の飲酒でも、顔面紅潮・吐き気・動悸・眠気・頭痛などを起こすことで、2型アルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人に多く見られる反応です。
この厚生労働省のガイドラインにある20グラムという数字は、大規模な免疫学研究でアルコール消費量と総死亡率の関係を調査して割り出したものという点で注目されています。
加齢とともにお酒に弱くなる?
アルコールの摂取量を示すとともに厚生労働省は、2016年に「アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究」の一環として公開した「市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン」において、高齢者が年齢とともにアルコールを分解する能力が低下する理由を解説しています。それによれば、加齢によって体に占める水分の割合が低下するため、若い人と同じ量のお酒を飲んでも高齢者のほうが血中濃度が高くなりやすいとしています。
水分の割合が低下すると、お酒が脳や体に与える影響も大きくなりやすく、さらに飲酒量が多い場合は、認知症になる可能性が高まることを警告しています。
同様にWHOアルコール関連問題研究・研修協力センターでもある独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターのウェブサイトによれば、25歳から60歳の間に体に占める脂肪の割合が高まるため、アルコールを溶かしやすい水分が減少し、逆に解けにくい脂肪が増えるそうです。そのため高齢者になるほどアルコールの血中濃度が高くなると説明しています。
さらに加齢によって胃の粘膜が老化し、粘膜に存在するアルコール脱水酵素が失われるそうです。そのため胃のアルコール分解能力が低下することも、高齢者の血中濃度が高くなる原因の1つと解説しています。他にもアルコールへの耐性が形成されにくくなるなどもあり、年齢を重ねると酒に弱くなるそうです。そのようなことから、高齢者へ飲酒に対する注意を呼びかけています。
仕事終わりのお酒が疲れを取るわけ
加齢によりお酒に弱くなるメカニズムを紹介してきましたが、飲み方によってはお酒が仕事力を高める味方になるという朗報もあります。
マブチメディカルクリニック院長である馬渕知子氏の著書『朝のコーヒー、夜のビールがよい仕事を作る』では、アルコール代謝のメカニズムに注目し、仕事力を高めるお酒との付き合い方を紹介します。
まず1日中忙しく働いたビジネスパーソンは、自律神経のうち交感神経が優位になりがちで、これが続くと体調不良を起こす可能性があると馬渕氏は述べています。
自宅での晩酌などで適量のお酒を飲むことは、副交感神経とのバランスを取り戻すことにもつながるそうです。就寝前に少量のお酒を飲むと、脳内の抑制性神経伝達物質であるGABAが増え、興奮を鎮め、血圧を安定させてくれます。つまり副交感神経が優位となり、心地よい眠りに誘導してくれるのです。ただしビールを就寝直前に飲むと、利尿作用によって就寝中に目が覚めやすくなってしまいます。
晩酌ではなく、仕事終わりなどのお酒の席では、最初にビールが適していると馬渕氏はいいます。ビールは血流を促進する二酸化炭素を含んだ炭酸水なので、胃腸の働きを促進し消化・吸収を助けてくれます。さらにビールのホップが持つ苦み成分は、胃腸の消化酵素の分泌を活性化する働きもあるのです。
また食前酒にアルコール度数が6%前後のビール選ぶことは、アルコール度数が12%前後と高いシャンパンなどを選ぶよりも、悪酔いするリスクが低いため、同僚や部下、お客さまの前で失態を犯すリスクが減るとしています。
そしてビールには種類によってちがいがあるものの、糖質やビタミン、ミネラルが含まれています。糖質は唾液や胃液などの消化酵素の分泌を促すものです。さらに糖質は、ビタミン類とともにアルコール代謝の手助けになる栄養素です。
このことからも馬渕氏は、ビジネスパーソンがお酒の席で最初に「とりあえず生!」と注文することは科学的に正しいと述べています。
仕事力を下げない飲み方
最初にビールならば悪酔いするリスクが少ないといっても、今夜は大事な接待なので仕事力を下げたくないという場合もあるでしょう。そのような日は、アルコールへの事前の準備も大切です。
まずは昼から水分を多めに摂るように心がけましょう。血中の水分を増やしておくのです。前日の夕食や朝食、昼食などでは、肝臓のアルコール代謝を促すために、タウリンの多めなカキやイカ、アジなどを食べておきます。またシジミのお味噌汁に含まれているオルニチンも摂りましょう。肝臓ではアルコールを分解する過程でアンモニアが発生しますが、オルニチンはその分解を助けるもので肝機能を高めてくれます。
次に接待が始まったら、まずビールを最初の一口を飲んで3分待ちます。肝臓は急に機能が活発化する臓器ではないので、ピッチが早いとアルコール代謝が追いつかずに不調を招くことになるからです。
飲み始めてから注意したいことは利尿作用です。トイレに行くと体内の水分が失われてしまいます。そのまま飲酒を続けると血中のアルコール濃度が高まるだけでなく、脱水症状の恐れもあります。そのためアルコールと、同量の水も合わせて飲むようにしましょう。
お客さまとのお酒の席では、アルコール摂取をゼロにするわけにはいかないこともあるでしょう。そのような場合には、アルコール代謝のメカニズムを理解すれば、酔い過ぎや気分が悪くなるなどの失態を防げる可能性があります。適量、加齢による変化、身体の仕組みを理解して、仕事力を下げない飲み方を実践してみましょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年4月18日)のものです。
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