中高年になると、階段の上り下りや、ちょっと走るなどで体力の衰えを実感する機会が増えてきます。衰えた原因の1つには、運動不足による筋力の低下が考えられます。このような体力の衰えが続くと、50~60歳台に差し掛かかったころに、筋肉や骨、関節などの運動器が機能障害を起こす可能性が高いといわれています。
この機能障害が進むと歩行や立ち上がりなどが困難となり、ついには寝たきりとなり日常生活にも介護が必要となります。
このような運動器の機能障害から始まり、寝たきりとなる状態を「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」という概念として2007年に日本整形学科学会が提唱し、予防の啓発を行っています。
しかしロコモティブシンドロームの予防で「運動をしなければ」と、若い頃の感覚で動き始めてしまうと、かえって筋肉や関節、心肺器官などを痛めてしまう危険があります。まずは中高年である現在の体力に相応しい運動から始めることが大切なのです。本記事では、運動不足となっている中高年に適した運動の始め方について紹介します。
体力に自信がある人ほど、要注意
十数年近く運動らしいことをしてこなかった中高年が、一念発起して運動を始めるという場合は注意が必要となります。心肺機能や筋力、柔軟性、バランス感覚などが、運動不足だけでなく年齢による衰えも影響しているからです。そのような状態で若かったときと同じ感覚でいきなりハードな運動をすると、かえって身体を痛めてしまいます。特に若い頃はスポーツで身体を鍛えたという人ほど、このような傾向が強いそうです。
いきなりハードな運動をすると、筋力が低下しているので筋肉痛や腰痛、捻挫などを起こしやすくなっており、骨折も考えられるそうです。また関節の柔軟性が失われているため、関節やじん帯、腱などが急激な運動に耐えきれずに痛めてしまう危険性もあります。さらには心肺機能も低下しているため、動悸や息切れが起きやすく、動脈硬化がある場合には心臓疾患を引き起こす可能性もあるそうです。
中高年に適した運動とは
そのため自分のペースで無理をせずに続けられ、ストレスの少ないジョギングやウォーキング、あるいはサイクリングなどの有酸素運動が中高年には適しているとされています。相手と勝敗や点数を争うようなスポーツは、気づかぬうちに無理をしてしまうので、基礎体力や運動能力が備わるまでは手を出さない方が安全です。
継続も運動不足には大切なことなので、最初は駅までの通勤経路を少し変更し、より多く歩くなどの習慣などが有効とされています。
そしてこれらの有酸素運動を行う際は、負荷をかけすぎないように心拍数をチェックしましょう。福岡大学の田中宏暁教授は、適した心拍数は年齢によって異なると述べています。年齢ごとの心拍数は、「138-(年齢÷2)」という算出式で求められるそうです。たとえば50歳であれば、「138-(50÷2)=113」という式で、1分間に113拍を上限とした運度が適度であるということになります。
中高年が運動するときの注意
他にも中高年が運動を行う際に注意すべき点としては、ウォーミングアップとクールダウンを必ず行うことです。いきなり全力ではなく、徐々に運動を始めると血流が良くなり、呼吸量を増やすこともできるため、心拍数が急激に上がるなどの負担を減らすことができます。
ウォーミングアップではストレッチも欠かせません。ストレッチによって関節や筋肉を痛めたり、ケガをするなどのリスクを減らすことにつながります。しばらく運動をしていないと体の柔軟性が失われ、関節も可動域が少なくなっているので、ストレッチあるいはラジオ体操から始めてみましょう。
さらに運動後も、軽いストレッチやラジオ体操によるクールダウンが有効です。クールダウンを行うと、疲労回復が早まるとされています。運動不足だと疲労を回復する力も弱まっているので、ストレッチとクールダウンは疲れや痛みを残さないためにも大切になります。
無理せず安全に楽しくが中高年流
このように、中高年の運動は、無理せず焦らず、少々物足りないくらいの運動から始めることが良いそうです。またウォーミングアップやクールダウンが、ケガや疲労を回復するには大切なことになります。
これらのことを踏まえて運動すれば、より安全に体を動かすことができ、やがて運動すること自体を楽しめて習慣化できるでしょう。中高年のうちから運動不足を解消すれば、体力維持となり仕事力の低下を防ぐことにつながります。その結果、ロコモティブシンドロームの予防にもなるかもしれません。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月8日)のものです。
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