2024.03.29 (Fri)
生き残る大学となるために(第6回)
「大学・高専機能強化支援事業」とは?実施状況や各大学の取り組みを解説
国内の人口減少・少子化などを背景に、大学経営は厳しい状況に直面しています。大学への支援策の一つとして、文部科学省によって大学・高専機能強化支援事業が創設されており、すでに複数の大学が学部の新設などに取り組んでいます。この記事では、大学・高専機能強化支援事業の概要や実施状況、各大学の取り組みについて解説します。
大学が直面している課題
近年の大学経営は、以下のような課題に直面しています。
人口減少・少子化
日本国内では人口減少と少子化が進み、2023年度の出生者数は約75万人と過去最低を更新しており、持続的な大学経営に対して財政面等の影響が懸念されています。
理系人材不足への対応
デジタル社会において理系人材の重要性はますます高まっていますが、若者の理系離れやグローバル化に伴う人材獲得競争の激化により、理系人材の確保が難しくなってきています。これに対応するため、大学においては学部の再編や転換、新学部の創設などが求められています。
産学連携の強化
地域における研究開発の促進や地域の大学発のイノベーション、実践的な人材育成のためには、新産業の創出や産業構造の転換に地域の大学が積極的に貢献し、産学連携を強化していくことが求められます。
成長分野で活躍できる人材輩出に向けて
デジタルやグリーンといった成長分野で必要な人材を輩出するためには、教員の育成や教育方法の改革を行い、大学の教育の質を向上させることが必要です。また、学生一人ひとりに合わせた柔軟なキャリア形成支援も重要な課題です。
こうした課題を解決していくには、学部の新設・再編や教育人材の確保などが必要ですが、予算や人的リソースなどの事情により、大学だけでは対応に限界があるのが現状です。
大学経営の課題解決を目的とした「大学・高専機能強化支援事業」
文部科学省は、デジタル・グリーン等の成長分野をけん引する高度専門人材の育成に向けて、意欲ある大学・高専が成長分野への学部転換等の改革を行うのを支援する「大学・高専機能強化支援事業」(成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金)を創設しました。
大学・高専機能強化支援事業は、デジタル化の急速な進展や世界的な脱炭素の潮流を背景に、デジタル、グリーンなどの成長分野をけん引する高度専門人材の育成に向けて大学・高専への支援を行うものです。日本は諸外国と比べて理系学部の学位取得者の割合が低いことも本支援事業の創設の背景にあり、大学・高専が成長分野への学部転換などの改革を行うことを継続的に支援します。
大学・高専機能強化支援事業は、以下の2種類に分類されます。
- ・支援1:学部再編等による特定成長分野(デジタル・グリーン等)への転換等
- ・支援2:高度情報専門人材の確保に向けた機能強化
支援1は、私立・公立の大学の学部・学科(理工農の学位分野)が支援対象で、学部再編などに必要な経費が20億円程度まで定率で補助されます。受付期間は令和14年度まで、支援期間は原則8年以内(最長10年)です。
支援2は、国公私立の大学・高専(情報系分野)が支援対象で、大学の学部・研究科の定員増などに伴う体制強化や高専の学科・コースの新設・拡充に必要な経費が10億円程度まで定額で補助されます。受付期間は原則令和7年度まで、支援期間は最長10年です。なお、規模や質の観点から極めて効果が見込まれる「ハイレベル枠」に認定された場合は、20億円程度まで支援されます。
大学・高専機能強化支援事業の実施状況
大学・高専機能強化支援事業の実施スキームは以下の通りです。
※引用:文部科学省「デジタル人材の育成等について(政府予算関連等)」
まずは文部科学省と独立行政法人大学改革支援・学位授与機構(NIAD)の間で、基金の造成や基本方針の策定、実施方針の認可が行われます。その後、NIADと大学・高専との間で公募や助成金の申請・計画書の提出、審査・選定が行われます。そして選定された大学・高専は、文部科学省に対して設置認可申請を行い、認可された後に学部の設置等を実施します。
大学・高専機能強化支援事業の初回公募実績は以下の通りです。
支援1(学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援)
- ・件数:67件(公立:13件、私立:54件)
- ・デジタル分野の学部・学科への改組割合:約64%(43/67件)
- ・デジタル分野の学部・学科の入学定員増:最大で6,000名程度
支援2(高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援)
- ・件数:51件(国立:37件、公立:4件、私立:5件、高専:5件)
- ・入学定員増:学士1,131名・修士1,682名・博士190名・高専:206名
- ・ハイレベル枠:7大学
大学・高専機能強化支援事業の支援期間は最長で2032年度までの10年間ですが、初年度に250件の採択件数に対して初年度に118件が選定されています。
大学・高専機能強化支援事業の活用事例
大学・高専機能強化支援事業の活用事例として、「デジタル」分野ではデータサイエンス学部や情報学部、「グリーン」分野では食健康科学部や食環境学部、農学食科学部などが次々と新設されています。
申請取り組み概要から見ると、ある医療系の大学では、新たに健康デジタル学科を開設予定です。同学科では、健康・医療ビッグデータ分析を通じた医療の質向上やデジタルヘルスアプリの開発、健康・医療DX推進人材の育成などを進めて、IT・データサイエンスによる課題解決とスポーツテクノロジーの活用の実現をめざしています。
ある女子大学は、食品生命化学科の設置を申請し採択されました。同学科では、バイオ技術による低環境負荷の食品生産・調達技術開発や、食品の流通・消費のデータ連係などを学ぶカリキュラムを展開する予定。さらに地元企業と連携した寄附講座やインターンシップ制度の充実や、米国の大学との連携を通じて女子学生の理系進学率向上に貢献する方針です。
ほかにも大学・高専機能強化支援事業を活用して、すでに複数の大学が学部の新設や国際的な産学連携、学生に合わせた柔軟なキャリア形成支援などに取り組んでいます。デジタル化やSDGsなどの地球環境問題への対応といった社会的な時流に沿ったものとなっています。
国内の人口減少・少子化等が進む中で各大学が生き残るためには、大学・高専機能強化支援事業のような国の支援を最大限に活用した施策・取り組みが求められるでしょう。
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