2018年を境に、18歳以下の人口が減少期に入る「2018年問題」。今後はこれまで以上に、大学間の競争が激しくなると予想されます。文部科学省の「高等教育の将来構想に関する参考資料」によれば、日本の18歳人口は2005年には約137万人でしたが、2019年は約120万人にまで減少。2032年には100万人を割って約98万人、2040年には約88万人にまで減少すると推計されています。
政府が掲げる大学教育でのICT利活用が鍵
少子化の進展は、大学経営に暗い影を落としています。日本私立学校振興・共済事業団が私立大学582校を対象に実施した「私立大学・短期大学等入学志願動向」によれば、2018年度は約36%の210校で入学者が入学定員を下回る「定員割れ」でした。
大学進学率は上昇傾向が続き、現在は50%を超えています。ですが、2033年に同程度の進学率を維持したとしても、大学進学者数は2015年の約60万人から9万人近く減少します。学生や保護者は、入学を志望する大学の教員や学部・学科、カリキュラムなどに加え、どれだけ先進的な学習環境を整備しているかを、これまで以上に厳しくチェックするでしょう。大学経営において、2018年問題は乗り越えるべき重要な課題だといえます。
2018年問題に対する施策には、どのようなものがあるでしょうか。2018年6月に閣議決定した「第3期教育振興基本計画(計画期間2018年度〜2022年度)」は、その参考になります。同計画には、今後の教育政策に関する基本的な方針として、「学生が主体的に学ぶアクティブ・ラーニングの展開などで教育の質を向上させる」「教育研究のオープン化という世界的な潮流へ対応する」「国内外へ大学の知を積極的に発信する」と明記されています。
また、多様なメディアを活用した遠隔教育やMOOC(Massive Open Online Course、大規模公開オンライン講義)による講義などの推進も示されています。例えば、場所や時間を問わず講義が受けられるようにする遠隔教育や、テレビ会議のようなリアルタイム配信による遠隔教育の導入は、学修の自由度を高め、学生の利便性向上に寄与するでしょう。教室で行う講義と遠隔教育による自習を組み合わせたり、教室の講義とインターネットを使ったグループワークを組み合わせたりする「ブレンディッド型学習」の導入を進める動きもあります。
ICT化に取り組む大学は増加傾向
こうした先進的な教育環境の整備やその運用を支えるため、ICTサービスやそれを支えるICTインフラの強化が求められます。前述の計画にも「ICTの利活用を推進することが求められる」と記載されています。
遠隔教育やMOOCには、実現するためのシステムの導入が欠かせません。例えばブレンディッド型学習で、テレビ会議のようにリアルタイムで学生同士がコミュニケーションを円滑に行うには、有線・無線を問わず、既存ネットワーク基盤の強化が必要になるでしょう。
LMS(Learning Management System、学習管理システム)の導入も、今後の大学教育には必須になると考えられます。教員がLMSを利用して事前に講義資料や参考資料を配布すれば、事前学習が進み、講義への参加が主体的になります。近年は知識の習得よりも問題解決力の向上が重視され、議論や討論を活発に行うアクティブ・ラーニングの導入が進んでいます。LMSはその推進を下支えする役割も担うわけです。
LMSは、より広い範囲で活用できます。出欠管理やレポート提出・受理などに利用すれば、教員の負担を軽減し、学生と向き合う時間の確保に貢献します。より質の高い教育を受けるためにこうしたICTサービスを提供すれば、学生の満足度向上にもつながるでしょう。
遠隔教育システムやLMSなどの導入、ネットワーク基盤の強化を積極的に進める大学では、教育そのものに変化が起きつつあります。例えば、無線LANを整備した大学では、キャンパス内のどこででも、パソコンやタブレットで調べものができる環境が実現します。講義を行う場所が有線LANから開放されるため、教室の机を可動式にしてグループワークでの議論を活性化させるような、フレキシブルな教室環境が整備できるわけです。学生がリアルタイムで回答する双方向型の遠隔教育システムを導入すれば、理解度を把握しながら講義を進められるようにもなるでしょう。ICT基盤を活用することで、アクティブ・ラーニングやブレンディッド型学習のような、従来の教員が一方的に話すだけの講義ではない、先進的な教育環境が実現するのです。
文部科学省の「平成27年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)」(2017年11月)によれば、「多様なメディアを利用した遠隔授業を実施する大学」の割合は2012年には約18%でしたが、2015年には約26%に増えています。LMSを利用した事前・事後学習の推進を実施する大学も約34%から約50%へ、学生の応答による理解度把握システムを使った双方向型授業を実施する大学は約20%から約37%へと増加しています。
これらの調査結果からは、ICTを活用して自学の魅力を高めようとする大学が増えつつあることがうかがえます。大学が生き残るには、自学のブランドを確立し、ほかの大学にはない魅力を高めていかねばなりません。
ICTサービスやICTインフラの充実度合いは、今後、受験生や保護者が進学先を選ぶ際に「魅力的な大学かどうか」の指標の1つとして、より注目されるでしょう。
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