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2016.02.01 (Mon)

経営者をトラブルから守る法律知識と手続き(第9回)

著作権には気をつけて!

社会全般にウェブが浸透し、インターネット関連の業務を行う企業ではなくても、ホームページをもつなど、何らかのかたちで情報を作ったり、発信することが求められるようになりました。これからは多くの企業にとって、テキスト・音声・動画・データなどを自らがビジネスに使ってゆかねばならなくなってきたのです。そこで気をつけなければならないのが著作権に関する法務。今後は、メディア企業だけでなく一般の中小企業もこの分野の知識とノウハウを身につけてゆかねばなりません。 一方、爆発的に情報流通量が増えるなか、著作権法務自体も過渡的情況にあります。今回は事例に即し、著作物をビジネスで使ういくつかのケースについての可/不可を解説してゆきます。

著作権侵害によって起こりうること

多くの人が個人で気軽にウェブを利用している現状からすると、今回紹介する著作権保護についての法律は、意外なほど重く感じられるかもしれません。

著作者には、著作権を侵害したものの差止請求(侵害の排除)、損害賠償請求、名誉回復措置(謝罪文の掲載など)請求をする権利があります。

また、著作権法には、権利侵害者に対する刑事罰の規定があり、最高で10年以下の懲役若しくは1,000万円(法人は3億円)以下の罰金、またはこれらが併科されます(119条)。ただし、処罰を求めるには警察や検察庁への告訴が必要です(親告罪)。

事業活動の一部としてこういう事態に陥ってしまえば、大変困ったことになりかねませんので、どういう行為が著作権侵害となっているか知っておくべきです。

公共団体HPなどの記事・イラストなどは無断で使用してよいか

政府官公庁や地方公共団体の発行する刊行物やホームページの内容は、「公的なものなのだから、自由につかってもよいのではないか」と思う人も多いかもしれません。実際はどうでしょうか。

答え:行政の広報資料は原則として自由に転載できる

国や地方公共団体(都道府県、市町村)の機関、あるいは独立行政法人や地方独立行政法人が作成した広報資料(政府広報など)や調査統計資料(人口動態統計など)、報告書などにも、他の著作物同様、著作権があります。ただし、以下の①~⑤を満たす場合には、その内容を新聞、雑誌、その他の刊行物に自由に転載することが可能です(著作権法32条2項)。

①一般に周知させる目的で作成された資料であること
②行政機関等の著作として公表された資料であること
③利用者が説明の材料として転載すること
④原著作物に転載禁止の表示がないこと
⑤原著作物の出所を明示すること

イラスト、写真、コラムなどは、別に著作者のいる場合があるので、転載に際しては確認が必要です。
ちなみに、一般企業によるホームページや印刷物などの著作物は、もちろんこの条文は適用されず、許諾が必要です。

自社のことが書かれた論評記事はHPに掲載して構わないか

「他の人が書いているとはいえ、書かれているのはまさに自分の会社のことだ。自由に使っても大丈夫だろう。」さて実際はどうでしょうか。

答え:掲載には原則として著作者の許可が必要

論評も著作物ですから、HPに掲載するにはその著作者(または著作権者)の許可(許諾)が必要です。無断で掲載すると、著作権(複製権、公衆送信権)の侵害になります。
ただしこれには、2つの例外があります。ひとつは、引用する場合(著作権法32条1項)、もう1つは、論説の転載です(同法39条)。どちらも、以下の条件が満たされれば無許可で掲載できます。

■著作者に無断でできる引用
著作権法上の引用とは「自分の主張を立証あるいは説明するために、他人の著作の一部を自分の著作にそのまま掲載すること」。
次の条件をすべて満たした場合
・引用する著作物がすでに公表されたものであること
・引用が、公正な慣行に合致すること
・報道、批評、研究などの引用の目的上、正当な範囲内であること
・引用部分が、それ以外の部分と明確に区別されていること
・引用部分と新しい著作物との主従関係が明確であること
・引用を行う必然性があること

■新聞社・雑誌社の許可がいらない論説の転載
次の条件をすべて満たした場合
・新聞又は雑誌に掲載された論説であること(新聞の社説など)
・政治上、経済上、社会上の時事問題に関する論説であること(学術的な性質を
 有するものを除く)
・他の新聞雑誌への転載、放送、有線放送、放送対象地域を限定した入力に
 よる送信可能化による放送の同時再送信であること
・転載・放送などを禁止する旨の表示がないこと
・転載した記事の出所を明示すること評論家などの論説記事や社説以外の新聞
 記事は、転載の対象にはならない。

論評の掲載が上記条件に沿うものであり、「引用」か「論説」に該当すれば、執筆者(著作者)の許可は不要です。しかし、自社に関する論評または記事というだけの理由で掲載するものは、著作者の許可を得る必要があります。

もっとも、許可が無用の場合でも、他人の論評を自社HPへ掲載する場合には、念のため、著作者に断りを入れておく方が、後々のトラブルを防げます。
ちなみに記事を掲載するのではなく、リンクをはることは著作権の侵害にはあたらないとされています。
【参考】http://www.cric.or.jp/qa/multimedia/

「買い切り」なら何度も使うのは自由か

イラストや原稿を著作者から買って使う場合に「買い切り」という方法があります。出版物でいうところの「印税方式」(売れた分、製作した分に対し、予め決めた割合で都度支払う方式)」に対する方式のひとつです。その場合は自由に利用していいのでしょうか。

答え:使用期限や目的を定めている場合は、買い切りといっても勝手には利用できない。

買い切りとは支払方法のことで、著作権そのものは著作者に残ったままです。また、「買い切り」の場合でも、何に使うか、どの期間に使用するかを定めて売り買いする場合もあります。期限付きのライセンス契約である以上、その期間を超えて使用すれば著作権(複製権)の侵害になります。
著作物は複製が可能で「使い終わったから実物を返す」ということが形にならないので、こういうトラブルはありがちです。

トラブルになったら

著作権について迷ったら、どこに相談すればいいのでしょうか。また、トラブルになってしまった場合は弁護士など法律の専門家に相談した方がよいでしょうか。

答え:著作物利用で迷ったら各団体に問い合わせましょう。
また、もしトラブルになったら法律専門家へ相談しましょう。

著作権侵害については上記のように、著作権者等から刑事上の処罰を求める告訴がなされる場合もあります。
さてその場合、交渉ごとを自分でするか、問題が起きたら、早い段階で専門家(弁護士や著作権関連機関)に相談するのがよいでしょう。トラブルになれば、法律の解釈も必要だからです。

●著作権についての相談先

法テラス (日本司法支援センター)
http://www.houterasu.or.jp/

文化庁長宮官房著作権課(法律の内容)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index.html

社団法人著作権情報センター
http://www.cric.or.jp/

法律相談センター(各地の弁護士会)日本弁護士連合会
http://www.nichibenren.or.jp/

都道府県等の自治体  都道府県等自治体に問い合わせ

日本放送協会(NHKライツ・アーカイプセンター)
http://www.nhk.or.jp/archives/chosakuken/service/index.html

社団法人日本民間放送連盟(デジタル推進部)
http://www.j-ba.or.jp/

日本音楽著作権協会(JASRAC)
http://www.jasrac.or.jp/

社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)
http://www2.accsjp.or.jp/

社団法人日本映像ソフト協会(JVA)
http://www.jva-net.or.jp/

株式会社日本国際映画著作権協会
http://www.jimca.co.jp/

社団法人日本書籍出版協会
http://www.jbpa.or.jp/

一般社団法人日本写真著作権協会(JPCA)
http://www.jpca.gr.jp/

法テラスはどこに相談すればよいか分からないときに相談する機関です。また、弁護士会の法律相談センターは法律全般を扱う機関ですので、事件として依頼すれば、調べてもらうことができます。

これまでは、著作権侵害は、出版物間での記事盗用、盗作、楽曲の勝手な利用など、メディア業界のなかではよく訴訟となっていましたが一般には馴染みの薄いものでした。昨今では、ウェブ上で個人、法人が情報を発信しやすくなったと同時に、ウェブ検索で「オリジナルと同じ文章や画像がないか発見しやすくなった」こともあって、社会の著作権に対する意識が格段に上がってきています。

自社には関係ないこととして打ち捨てず、対策を練っておくとよいでしょう。

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