2016.02.01 (Mon)
経営者をトラブルから守る法律知識と手続き(第4回)
トラブル、自力で解決しますか。
会社経営をしていると、必ず何らかのトラブルに遭遇します。トラブルといっても、原因、程度・規模、経営に与える影響、緊急性の有無等様々で、それにより対処方法・解決方法は異なってきます。また、原因も感情的なものから、法的トラブルまで様々です。
今回はそうしたトラブルの解決法を、経営者が自ら解決してゆく方法を中心に整理してゆきます。
今回のテキスト
『下請契約トラブル解決法』(石原俊也・佐藤千弥他・自由国民社刊)
トラブルの解決に至るまでの代表的な流れ
トラブルの発生から
経営者はトラブルに遭遇すると、解決方法について検討することになります。
これまでの経歴や実績・経験等により対応の仕方は異なってきますが、まずは経営者として自分や社内で解決することを検討するのが通常でしょう。いつどのような方法を選択するのかは、トラブルの原因、程度、相手方の出方、業界の慣習、方法等様々な要素を総合的に考慮して決定されます。そしてこの段階で解決できれば、大きな問題に発展しないで済み、時間も労力も費用も低廉ですますことが可能です。
手紙の場合、内容はともかく相手方に届いたことを証明できる書留以外に、発送した内容まで郵便事業株式会社が証明してくれる内容証明郵便の制度があります。この内容証明郵便は同じ内容の文書を3通作成し、1通は送付する相手方、1通は、自分の控え、残りの1通は郵便事業株式会社の控えになり、相手方に発送した事実だけではなく、どのような内容の文書を発送したかも郵便事業株式会社が証明してくれます。ですから、後に訴訟になった場合に証拠として提出されることがあります。
すべてのトラブルが自力で解決できるとは限りません。
トラブルについては、他者がよい智恵を貸してくれることも少なくありません。
しかし分野が専門的であったり複雑であったり、場合によっては、簡単に話しづらいこともあり得ます。
外部の専門機関に相談することが次のステップといえます。
外部といっても様々ですし、トラブルの原因によって窓口は異なってきます。その中で、行政機関に相談に行くことも有効な手段のひとつといえます。最近は行政機関も行政サービスとして比較的丁寧に相談に乗ってくれる傾向にあり、特に下請けに関するトラブル相談では、中小企業庁(相談窓口として駆け込み寺を設けております)や公正取引委員会などへの相談も有効な場合が少なくありません。
また、税理士や弁護士などその道の専門家にアドバイスを求めることも有効な手段といえるでしょう。そこで、法的トラブルの場合には、法律専門家である弁護士への相談が考えられます。弁護士への相談は時期、依頼する内容により異なってきます。
弁護士への相談
弁護士が相談を受けた事件への関与の仕方としては、大きく二つに分けることができます。まずは相談者が必要な時機に、必要な相談をし、それに応じ法律専門家である弁護士がアドバイスをしていく方法です。この場合には、依頼者がいわばトラブル解決の最前線にたち、法的な助言を受けながら解決にあたる方法です。弁護士は、いわばバックヤードに控えている形です。トラブルの相手方も弁護士に依頼せず自ら交渉の場に出ているケースや時機がくるまで弁護士が前面に出て行かないケースなどが想定できます。
これに対し2つ目は、弁護士が相談者の依頼を受け相談者の代理人として、対応するケースです。このケースでは、弁護士がトラブル解決の最前線に立ち、相手方と交渉等を行うことになります。この場合は、相手方に弁護士が代理人としてついている場合のみならず、相手方が一般の方では交渉自体困難な場合、依頼者がトラブルの相手方との直接の交渉を望まない場合などが考えられます。
弁護士による解決
こうして依頼を受けた代理人の弁護士が法的な根拠やそれを裏付ける証拠を吟味しながら、相手方と交渉したり書面のやりとりをしたりして解決点を探っていきます。しかし、双方の主張に開きがあり話が平行線を辿ったり、互いに譲歩ができないケースも少なくありません。
裁判所による調停
こういう場合には、第三者を双方の間に入れて解決するプロセスが有用です。
その代表的な例のひとつが裁判所による調停という制度です。調停制度は、裁判所が判決という一方的な判断を示す裁判とは異なり、調停委員という第三者を介し、あくまで当事者双方の話し合いによる解決を目指す仕組みです。紛争の種類によっては裁判の前に調停を実施すべきことが義務づけられている種類の紛争もあります。
調停等による第三者を介する話し合いでも紛争が解決しない場合には、紛争の最終的な解決手段である裁判のプロセスにすすむことになります。
裁判は調停制度と異なり、訴えた者の請求内容に対し、必ず裁判所の結論が出されます。調停はお互いの互譲が基礎になりますが、裁判は証拠に基づいて事実関係を認定していきます。訴訟を提起した当事者の主張が、どの程度認められるか否かです。もちろん、裁判においても和解はあります。しかし、この和解が成立しなかった場合には、最終的には判決を行うことになります。ここが前述した調停制度と決定的に異なるところです。そして、訴えた者の請求の全部又は一部が認められた場合に、相手方がその内容に従わない場合には、財産の差押えや不動産の強制的な明け渡しのための手続きを裁判所に申し立て、財産を換価してその代金を受領したり、不動産の明渡しを行うことができます。国の力を借りて権利を実現する訳です。これを強制執行といいます。不動産の競売や預金の差押え、給与の差押え、不動産の明け渡し等財産の種類に応じた手続きを行います。
このように裁判の内容は、最終的には国家による強制的な手続きにより実現することが可能なのです。
中堅中小企業における下請に関してのトラブル
下請取引の公正を図り下請事業者の利益を守るために、公正取引委員会の各地の下請課や取引課、また中小企業庁の各地の経済産業局の産業部中小企業課などが相談窓口となって、親事業者に対し下請法に基づく書面調査、立入検査、改善勧告、改善の公表、警告などの措置を行っています。
このように、下請に関するトラブルに関しては、専門の行政機関による勧告、警告などを通じて解決を図ることも可能で、行政機関による迅速な対応が期待されるところです。ただ、行政機関は弁護士と異なり下請業者の代理人として対応してくれる訳ではなく、あくまで下請法の遵守のために下請法に基づき各種の措置を遂行するものです。
まとめ
以上のように、トラブルが発生した場合には、①当事者同士での解決→②弁護士、行政機関等への相談→③弁護士を代理人としての解決→④調停等の第三者機関による話し合い→⑤裁判所への訴え提起→⑥強制執行という流れが想定できます。また上述したとおり、下請法に基づき行政機関による改善勧告や警告等により解決できる場合もあります。トラブル、事件により解決の方法は様々ですが、トラブル解決のために代表的な例としてご理解頂きたいと思います。最後に、裁判の項で出てきた調停について補足説明しますのでご参考にして頂ければと思います。
調停、裁判外紛争解決手続(ADR)について
調停
調停は、第三者である裁判所が関与して紛争を解決する手段のひとつで、裁判所から任命された調停委員(通常は2人)が、裁判所内の非公開の場で、当事者双方からそれぞれ話をじっくり聴き、その紛争・事件に最も相応しい解決方法を探っていく方法です。
実施方法としては、通常、調停委員に対し、それぞれが順番で交互に話をしていきます。それぞれの言い分を相手方がいない場所でじっくり調停委員に話すことが可能です。そして、当事者双方が合意できる案が提案され、当事者が合意に至れば、合意内容を記載した調停調書という文書を締結します。この調停調書は判決書と同様の法的効力があり、調停調書の内容に違反した場合には裁判所に違反を申し立て、違反した者の財産を差し押さえることができます。
この調停制度の特徴は、あくまで当事者双方が解決のために歩み寄り、合意を目指していく点です。逆に話し合いを継続しても、もはや合意に至らない場合には調停を打ち切り不調として、調停を終了致します。
調停に向く事件、向かない事件
このように、調停制度は、裁判所の一方的な命令である判決と異なり、当事者間において合意を形成していき、紛争を解決する制度なのです。
従って、お互いの話をじっくり聴きながら少しずつ解決方法を模索していくケースなどが調停に適しております。また、弁護士の代理人をつけず当事者が直接参加して解決していくことも少なくありません。これに対し、複雑な事件や、証拠関係が複雑だったり、証人から話を聴かなればならない事件などは、調停には一般には向きません。
調停のプロセス
調停は、おおよそ毎月1回程度ごとにその期日が入り、調停委員が当事者双方からそれぞれ話を聴くので、一回の期日で2時間程度時間をかけることも少なくありません。この点で、お互いの主張を書面を中心として行い、証人尋問や和解手続きを除き比較的短時間で毎回の手続きが終了する訴訟手続きと異なります。
なお、費用は弁護士に依頼する場合の弁護士費用を除けば、申し立てに要する実費や交通費などで済むことが通常で、低廉な費用で利用することが可能です。
裁判外紛争解決手続(ADR)
ADRとは、Alternative Dispute Resolutionの略で、裁判に代替する紛争解決手段と翻訳されたりしています。
裁判によることなく紛争を解決する手段の総称であり、広い意味では前述した調停もそのひとつといえるでしょう。
我が国では平成19年4月1日に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が施行されました。同法1条の目的によりますと「この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、裁判外紛争解決手続(訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続をいう。以下同じ。)が、第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続きとして重要なものとなっていることにかんがみ、裁判外紛争解決手続についての基本理念及び国等の債務を定めるとともに、民間紛争解決手続の業務に関し、認証の制度を設け、併せて時効の中断等に関する特例を定めてその利便性の向上を図ること等により、紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資することを目的とする。」と規定されております。
要は紛争の解決を図るのにふさわしい手続の選択を容易にして国民の権利利益の適切な実現に寄与するために、民間事業者による紛争解決手続に関する法務大臣による認証等のルールを定めた法律といえます。
この法律に基づき、既に一部の弁護士会や事業再生に関するADRなどが認証されております。
ADRの特徴
この各種ADR は、紛争の内容に応じて各種専門家がその主体となり、民間事業者が推進する点で、裁判官が主体となって民事訴訟法という国の定めたルールにより遂行する裁判より、柔軟な手続きの進行を可能としております。また、裁判と異なり非公開で行われることも特徴のひとつといえます。
もっとも民間事業者による紛争解決の手続きですから、裁判と異なり強制執行などは行えませんが、一定の要件を満たした場合には、時効の中断の特例が認められていることが特徴といえます。
下請に関するトラブル
弁護士会のADRを活用することが想定されます。前述したとおり、国家機関ではなく民間事業者による和解の仲介ですから、その手続きや進行等につき柔軟に定めることができ、紛争の迅速な解決に資することが可能となります。なお、費用は各ADRが定めるところに従うことになります。
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