2016.02.01 (Mon)

経営者をトラブルから守る法律知識と手続き(第6回)

「抜かりなく、怠りなく!」

 企業間の関係において、過去からの経緯など双方の信頼関係等に基づき、明確な契約行為を実施しないあいまいな状況でも取引が進んでいくことはめずらしいことではないかもしれません。今までの関係性等を鑑た上で「今更、書面による契約の話は切り出しにくい」などの事情もわからなくはないですが、備えあれば憂いなし。また、抜かりなく。
 今回は基本にかえり、企業行為や手続について整理しておきましょう。

※採用するテキストは『起業するならこの一冊』(自由国民社)

取引の管理で注意すること

取引先管理をしっかりと
 取引先は仕入先であれ、販売先であれ、あなたの会社に重要な影響を及ぼします。販売先が突然倒産して、売掛金の回収ができなくなったり、仕入先が倒産して商品調達ができなくなったり、といったことは企業運営上起こりうるケースです。
 また取引先の経営状況に問題がなくても、長年付き合ってきた大口販売先から突然、「あなたの会社の商品は高いからもう取引しない」と通告されることも、可能性としてなくはありません。
 取引先管理とは、そうした取引先の経営リスクを管理するというだけではなく、今後も取引先と長期的に関係を維持できる状態になっているか、言い換えれば「取引することが双方にとってメリットのある関係になっているか」を常に確認しておくことです。例えば、大口の販売先などは、自社の商品が本当に満足してもらえているかをきちんと把握しておくことで、突然の取引停止などに陥らずに済みます。
 またリスクをできるだけ少なくするためには、販売先にしろ仕入れ先にしろ、少なくとも3社以上の取引先を確保しておくこと、また取引に関する法的知識を身につけておくことがよいでしょう。

取引先に関する最低限の法的知識をもとう
 いざという時のために、契約書、債権といった取引に関する法的知識を身に付けましょう。たとえば契約書にきちんと残しておかなかったばっかりに大きな損失を被ったというのはよく聞く話です。
 逆に自分では正式に契約したつもりなど全くない口約束でも、相手から正式な契約行為があったと指摘されれば、それに従わざるを得ないこともあります。
 世の中には最初から悪意を持って近づいてくる業者も存在します。起業したからにはそのような業者とも対等に渡り合っていかなければなりません。そのためには取引に関する知識を持ち自分の身を守ることが大切です。

手形管理に注意しよう
 商取引の世界では、現金支払いではなく手形や小切手による支払いがしばしば用いられています。しかし、手形(あるいは先日付小切手)は現金支払いと違い、手形記載の支払日にしかお金になりません。
 その間に手形振出しの企業が倒産すれば手形は不渡りとなります。不渡り対策としては、常日ごろから取引のない企業や、経営状況に不安のある企業からは、手形ではなくなるべく現金で支払ってもらうことです。また、手形を悪用した取込み詐欺などにも注意が必要です。

契約について知っておくこと

契約は口頭でも成立する
 事業を始めれば取引先と様々な契約を結ぶことになります。たとえば「月末までに商品を100個納品するので、翌月末に代金として50万円を払ってください」といった具合です。この時、契約書などを作成していなくとも、双方の合意があれば契約は成立します。
 たとえば、契約後に仕入れに予想外の費用がかかってしまい、とても50万円の代金では足りないことがわかったとしても、先方の同意なしに契約は変更できません。
 「口頭でも契約は成立する」ことを肝に銘じ、取引条件を話し合う時には、細心の注意を払うことが必要です。
 契約は口頭でも成立しますが、「言った、言わない」のトラブルを避けるために契約書をきちんと作っておくと安心です。トラブルがあったときに、契約書が「契約があったこととその内容」を証明する有力な手段となります。
 では契約書にはどのような記載が必要なのでしょうか。実は契約書の作成にあたっては、特にこのように書かなければいけないといった決まりはありません。しかし、トラブルになった時に証明したい事項は記載しておかなければなりません。契約の種類にもよりますが、先に挙げたような売買契約の場合、最低限以下の内容は記載しておくべきでしょう。

・対象となる商品の特定(売買する商品名、数量など)
・商品引き渡しの方法と時期(先方にいつまでにどのような方法で納品するか)
・代金の額と支払時期、支払方法(消費税の扱いなども含めた正確な金額、支払時期、入金口座などの明示)
・売主と買主の名前

会社としての契約には
取引相手が法人であり、こちらも法人として契約する場合には、双方の名前の欄に以下のような記載が必要になります。

・会社名
・代表資格(代表取締役等の肩書)
・代表者名

印鑑のもつ意味
 法律上は署名だけでも契約書は成立します。
 「まだ捺印していないから契約書としては不完全」と思って、作成した契約書の管理を怠ってはいけません。
 捺印(押印)はすでに法的に有効である契約書の効力を増すために行うものです。
 印鑑には実印と認印(三文判)があります。実印は役所に印鑑登録をしてあるので、トラブルがあったときに「確かに〇△社の実印が押されている」と証明することができます。しかし認印でも印鑑としての機能・効力は十分に果たしますので、軽々しく扱うことはできません。

 以上、取引の管理で注意すべきことをみてきました。
 ここから先は、前回のテーマにも関連して、会社設立にあたり必要な手続きについて、改めてみていきましょう。

会社として届出が必要なこと

まずは会社登記後の届出から
 会社の設立には登記の申請が必要ですが、 会社の登記が完了したら次に諸官庁への届出を行います。届出については、主に以下のようなものがあります。

①税務署への届出
②労働基準監督署への届出
③公共職業安定所への届出
④社会保険事務所への届出
⑤営業許可などの役所への届出
⑥銀行等への届出

 各書類については届出期間が決まっているもの、添付書類が必要なもの、あるいは届出の書式が決まっているものなどがありますので、間違えないことが大切です。

法人設立時の官公庁への届出一覧

税務署への届出 ①法人設立届出書
②法人青色申告の承認申請書
③たな卸資産の評価方法の届出書
④有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書
⑤減価償却資産の償却方法の届出書
⑥給与支払事務所等の開設届出書
⑦源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:[地方税・東京都]事業開始等申告書、[それ以外]法人設立申告書
労働基準監督署への届出 ①労働保険保険関係成立届
②労働保険概算保険料申告書
③就業規則届
④時間外労働・休日労働に関する協定書
公共職業安定所への届出 ①雇用保険適用事業所設置届
②労働保険関係成立届
社会保険事務所への届出 ①健康保険・厚生年金保険新規適用届
②新規適用事業所現書
③被保険者資格取得届
④健康保険被扶養者(異動)届
役所への届出 業種によって異なる
銀行等への届出 ①当座取引約定書
②印鑑届

会社設立後も、従業員の雇用など、様々な場面で届出が必要となります。以下では、届出先ごとにその内容をみてゆきます。

税務署への届出
 税金関係の届出は、会社を設立してまず届けなければならないものです。国税関係の届出と地方税関係の届出があります。これは、会社を設立したことを知らせるための届出です。官公庁に所定の用紙がありますので、これに必要事項を記載し、添付書類は自分で用意します。
 税務署への届出の注意点は、会社設立から届出までに提出期限があるということです。

・1か月以内…「給与支払事務所等の開設届出書」
・2か月以内…「法人設立届出書」
・確定申告締切りまで…「たな卸資産の評価方法の届出書」「減価償却資産の償却方法の届出書」「有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書」
・3か月を経過した日か事業年度末のいずれか早い日の前日まで…「青色申告の承認申請書」

 このように、提出書類の届出の期間は同一ではないので注意する必要があります。
 なお、個人事業主で起業する人は以下の申請書を提出します。

・個人事業の改廃業等届出書:
提出納期:事業開始日からーか月以内
・所得税の青色申告承認申請書
提出納期:開業が1月15日以前の場合は、その年の3月15日まで。開業が1月16日以降

 法人に課される税金には、国税と地方税とがあります。国税については各地の税務署、地方税については都道府県の税務事務所(東京の場合は都税事務所など)に届け出ることになります。

年金事務所への届出
 社会保険には、健康保険、厚生年金保険、労働災害補償保険、雇用保険などがあります。このうち社会保険事務所では、健康保険と厚生年金保険を扱っています。
 健康保険は、会社で働く人が病気やケガをした場合に医療給付や出産の場合に手当金の給付をするなどの制度です。厚生年金保険は、障害者になったときの障害年金、被保険者が死亡したときの遺族年金、老後の生活のための老齢年金の給付を主な内容とする制度です。
 健康保険と厚生年金保険の加入については、従業員を1名以上雇用するすべての法人に義務づけられています。これは、労働災害補償保険や雇用保険と異なり、代表者(社長)も被保険者として加入することができます。
 こうした社会保険にきちんと加入することは、求人をする場合などに重要です。社会保険が完備していることは応募する側にとっては、それだけ労働条件がよいことになり、魅力的だからです。

年金事務所への届出一覧

提出先 提出書類 添付書類
管轄の年金事務所 ①健康保険・厚生年金保険新規適用届
②新規適用事務所現況届
※提出期限、その他の問い合わせは年金事務所へ
被保険者資格取得届
被扶養者届
登記簿謄本
給与規定
※1 労働者名簿
※2 賃金台帳
※3 出勤簿またはタイムカード
※4 総勘定元帳か現金出納帳
※5 源泉所得税の領収書
保険料納入誓約書
口座振替依頼書
厚生年金保険被保険者証(年金手帳)
営業証明善・事業所の写真・賃貸借契約書の写しなど

労働基準監督署への届出
 従業員を雇用する場合には、労働基準監督署へ、以下の届出が必要になります。
 これらについては従業員を雇用するようになったとき、遅滞なく届出をしなければなりません。

・労働保険保険関係成立届:従業員を雇用した日から10日以内
・概算保険料申告書:保険関係成立から50日以内

 また、常時10人以上の従業員を雇用する場合には労働条件等を定めた就業規則および社員代表の意見書を作成し、提出する必要があります。
 就業規則には、以下のような内容を盛り込む必要があります。

・始業および終業の時刻、休憩時間、休日休暇に関する事項
・賃金(臨時の賃金を除く)の決定、計算および支払方法、賃金の締切りおよび支払時期ならびに昇給に関する事項
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 また、従業員に時間外労働や休日労働をさせる場合は、従業員の代表と書面による労使協定を結び、労働基準監督官に届け出る必要があります。

労働基準監督署への届出一覧

提出先 提出書類 添付書類 提出期限 問合わせ先
労働基準監督署 1.労働保険概算保険料申告書   労働者を使用するようになったとき遅滞なく 監督課
2.就業規則届 1.就業規則
2.意見書
常時10人以上の労働者を使用している場合、速やかに 監督課
3.時間外労働、休日労働に関する協定書 労働者代表との書面による協定書の写し 時間外または休日に労働させようとする場合、速やかに 監督課
4.建築物、機械等設置・移転・変更届 機械などの設置に関する書面または図面 指定製造業で、特殊な機械の使用や設置などの工事を開始する場合、30日前まで 安全衛生課
5.建設工事、土石採取計画届   建設業、土石採取業で定めのあるものを開始する場合、14日前まで 安全衛生課
6.労働保険保険関係成立届   労働保険関係が成立した場合、その翌日から10日以内(一元適用事業と労災保険に係る二元適用事業) 労災保険課
7.その他 ボイラー設置届、クレーン設置届、エレベーター設置届、建設用リフト設置届など      

公共職業安定所への届出
 従業員を採用したら労働基準監督署だけではなく、公共職業安定所へ雇用保険の届出も必要になります。
 雇用保険とは従業員が会社を退職した場合に、一定の期間、一定金額の失業給付がなされるものです。
 この雇用保険を扱うのは公共職業安定所(ハローワーク)です。労働保険番号は労働基準監督署で与えられた番号です。この労働保険番号は、保険関係成立届に記載され、今後、会社が行う労働保険関係の届出には必ず必要となるものです。
 従業員がいない場合には、この手続きは不要ですが、もし、従業員がいるのにこの手続きを忘れていると、この従業員が退職することになった場合に失業給付がもらえないことになり、トラブルになることもありますので、手続きは忘れずにしましょう。
 届出期限は、従業員を雇い入れた日から10日以内です。雇用保険に入ると、雇用保険被保険者証が発行されます。
 なお、会社の役員は、一般には労働保険の対象外とされています。しかし、代表権がなくて取締役ではあるが、従業員として働いている人の場合には、どちらの性格が強いかによって判断されます。役員報酬を定めたものや、社員総会や株主総会の議事録などが判断の材料となります。

公共職業安定所への届出一覧

提出先 提出書類 添付書類 提出期限 問合わせ先
公共職業安定所 ①雇用保険適用事業所設置届 登記簿謄本
労働者名簿
賃金台帳
出勤簿またはタイムカード
雇用保険の適用事業所となった場合10日以内 事業所課適用係
②労働保険保険関係成立届   労働保険関係が成立した雇用保険に係る二元適用事業で、その翌日から10日以内 事業所課適用係

以上のように、起業に伴い必要となる契約や届け出の知識には様々なものがあります。

 企業運営については「うっかりしていて大きなトラブルになってしまった」ということのないよう、正確な知識を身につけることが重要ですね。

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