テレワークと営業
営業はテレワークでも機能する?メリットや導入ポイントを紹介
営業はテレワークに移行しやすい職種のひとつです。対面でのコミュニケーションからWeb商談ツールの利用による営業活動のオンライン化をしている企業も増えています。
今回の記事では、営業をテレワーク化するメリットや運用時の課題、導入するにあたってのポイントや成功事例について紹介していきます。
1. 営業でテレワークを導入するメリット
①生産性の向上やコスト削減
営業でテレワークを導入することで、コスト削減や生産性向上が期待できます。営業職はそもそも一日の多くを自社オフィスではなく社外での商談や顧客訪問に時間を使っているにもかかわらず、オフィスへの出社や帰社をするための移動時間が発生しています。
朝の朝礼や提案書などの資料作成、部署での会議などはテレワーク化が可能な業務内容です。テレワークで移動時間を減らすことができればアポイント数の増加が見込め、一つひとつの商談の準備・振り返りの時間を増やすことで成約率の上昇が期待できます。
さらに、営業職が利用する固定デスクのスペースを無くして、空いている席として自由に活用できるようにフリーアドレス化すれば、オフィススペースの効率的な利用が見込めます。営業部門の人数が多い場合は、オフィスの縮小にもつながり賃料や光熱費などのコスト削減にも貢献します。
②優秀な人材の確保
優秀な営業マンは引く手あまたで、より良い条件の企業への転職や、外部からのヘッドハンティングといったかたちで、市場の流動性が高いです。そのような優秀な営業人材は選択肢が多いため、職場選びのポイントとして働きやすさや柔軟な環境、古い伝統的なやり方ではなく効率的な新しい方式を取り入れているかどうかは企業の採用力向上や、離職防止につながります。
③振り返りによる営業力向上や商談の質的向上
商談をオンライン化することは移動時間が減少するだけでなく、売上向上が期待できます。Web商談ツールには録画機能があり、商談ごとの振り返りがしやすいです。自分以外のメンバーからの具体的なフィードバックや、商談が良い内容であれば研修資料として部署の資産となります。
資料を紙で説明したりモニターに写したりしていると、細かい部分まで商談中に見てもらえないことが多いですが、画面共有機能では相手のPCに直接表示できるため伝わりやすいというメリットもあります。
④営業対象の拡大
営業活動は直接訪問できる範囲までとなっていることが多いですが、対面ではなくオンラインで商談を行うことで対象を全国まで広げることが可能です。直接行ける距離であってもやや遠い場所は優先度が落ちがちですが、優先度に合わせて対面とオンラインを使い分けることで、商談数やアポイント数を減らさず営業効率を高められます。
テレワークに移行し、従来までの訪問営業ではなく、「訪問しない営業=インサイドセールス」へシフトする企業も増えつつあります。インサイドセールスとは、電話・メール・SNS・Web会議ツールなどを利用して、非対面で顧客とコミュニケーションをとって営業を行うことです。
詳しくは後述しますが、見込み度の低い訪問営業などの工数を削減して、より成約可能性の高い見込み顧客に対してアプローチすることが可能になります。
2. テレワークで営業を行う際の課題
テレワークで営業を行う際、Web商談ツールを導入すればすぐにスムーズに移行できるわけではありません。ここでは代表的な課題を紹介していきます。
①商談時などの顧客とのコミュニケーション
Web商談では、対面との会話に比べて言葉以外の情報が入りづらく、双方の意思疎通が難しい場合もあります。ビデオ会議上での会話では、通信のタイムラグや聞き取れる情報量に限りがあるため、より丁寧にコミュニケーションする必要があり、結果として時間あたりの情報量が少なくなりがちです。
表情や動作など非言語でのコミュニケーションから汲み取れる情報も不足するため、先方の反応に合わせて話す内容を変更したり、伝え方のニュアンスを調整したりするなどの繊細なコミュニケーションも難しくなります。
また、自社・顧客の体制として、電子契約などによるペーパーレス化が双方で進んでいないなどの理由で、手続きのオンライン化が難しい場合は、郵送物をオフィスで受け取るなどの対応が必要になります。
日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2020年10月に実施した調査によると「テレワークを利用する際に不便・不安と感じる点や、テレワーク利用の阻害要因になると思う点」について「取引先や顧客とのコミュニケーションに支障がある」を選んだ人は20.6%とのことです。
②部署内でのコミュニケーション不足・他部署との連携
営業だけでなく他部署もあわせてテレワーク化する場合、部署内だけでもコミュニケーションや連携は大変ですが、仕組みや制度が違う他部署との連携はより大変です。
たとえば、見込み顧客が自社サービス以外にも相見積もりをとっていてスピーディーな対応が成約に結びつくような場面において、法務担当との契約内容の確認・修正や、技術部署や製品担当部署との案件ごとの細かいカスタマイズについてのやりとりなどを全員がテレワークをしている状況で行うためには工夫が必要です。
日経BP総合研究所イノベーションICTラボが2020年10月に実施した調査によると「テレワークを利用する際に不便・不安と感じる点や、テレワーク利用の阻害要因になると思う点」について「同僚(上司や部下を含む)とのコミュニケーションに支障がある」は48.0%とのことで、約半数の人が課題を感じています。
③営業状況や案件詳細の共有・可視化
オフィス勤務では、口頭でのコミュニケーションや紙ベースでの情報共有に依存することが多くなりがちです。そのためコミュニケーション頻度が下がりやすいテレワークでは、案件ごとの進捗状況、担当者・属性情報・予算・課題感などのリサーチや商談で得た顧客情報などを、営業部内でうまく共有できず属人化しやすい傾向にあります。
また、営業ノウハウの共有によるスキルアップや、共通認識にすべき注意点のストックなどが漏れやすく、適切なタイミングでのアドバイスや指示ができないため結果的に機会損失になり売上低下につながる可能性もあります。
④営業メンバーのマネジメント
テレワーク時では部下のマネジメントが難しくなります。オフィス勤務時よりも勤務態度を見る機会が減るため、業務管理や評価が難しくなることや、部下やメンバーの不満・悩み・相談事をキャッチアップする頻度が減ることによる、モチベーションの低下や、離職につながることがあります。
営業においては、見込み顧客からの着信時に担当者が在席中か離席中が不明のため、オフィスなら迅速に対応できたことも、時間がかかってしまうなど、労働状況の管理・把握が難しいことによる生産性の低下も起こりえます。
⑤通信環境が直接成績に影響しやすい
テレワークでは自宅のネットワーク回線や、モバイルオフィスの回線、支給されたモバイルWi-Fiルーターなどさまざまな回線を利用する可能性がありますが、これらの通信回線はオフィスにあるものと違い、通信状況が悪くなる場合があります。
商談をオンラインで行う際、通信環境が悪いとビデオ通話が止まってしまったり、タイムラグが発生したりして大事な言葉を聞き逃すなどの、ディスコミュニケーションが発生することがあります。
こちらの情報がうまく伝わらない、相手のニュアンスがわからない、などの理由からいつもなら問題なくできていたやり取りがうまくいかず、結果として成約率への影響も懸念されます。
また、クラウドツールの操作一つひとつに長い読み込み時間が必要になることや、必要な資料のダウンロード・アップロードに時間がかかるなどの面でも業務効率への影響が考えられます。
3. 営業におけるテレワークの導入方法やポイント
前章で紹介した課題を解決して、営業活動を問題なくテレワーク化するためには、どういう工夫をすればよいのでしょうか? 7つ紹介します。
①オンライン営業を前提にツールや営業方法を見直す
オンライン営業では、対面でのコミュニケーションに比べて特有の傾向があります。たとえば「会話の間が一定必要になり、時間あたりの会話量が少なくなる」「細かいニュアンスを汲み取りにくい」「関係性の構築が淡白になりがち」などです。
そのためオフラインでの商談よりも「積極性」が重要になります。営業スクリプトやアジェンダづくりの見直しなどを行い、活発な情報交換やアクティブなヒアリングができるような仕組みをつくりましょう。
また、導入するWeb商談ツールは自社の状況にあったものを意識して選択しましょう。社内利用のWeb会議ツールを外部用で使う場合は、先方が事前にソフトウェアの準備が必要な場合もありますが、Web商談に特化したツールでは事前準備が必要ないものもあります。自社の商材の性質や、ターゲットとなる顧客のITリテラシーなどを想定して使うツールを変更しましょう。
ツールを選ぶポイントとして他に挙げられるのは、マウスポイントで営業側がどこを注視しているかを先方にリアルタイムで伝えられるなど「画面共有機能の豊富さ」、先方が大人数で参加しても問題がない「参加人数の上限」、「振り返り用の録画機能の有無」などです。このような機能があるかも確認しましょう。
②新しいコミュニケーションの仕組みやルールを設ける
テレワーク時に課題となるコミュニケーションを円滑に進めるための仕組みやルールの整備を行いましょう。
上司と部下が定期的に1対1で実施する「1on1ミーティング」では、営業メンバー個人とのコミュニケーションに役立ちます。売上目標とその中間プロセスの確認や、それぞれの進捗管理を随時行うことができ、案件ごとに必要になる確認事項の漏れを防げます。営業メンバー個人の営業課題に向き合いアドバイスができればオフィスでなくてもスキルアップが可能です。
もちろん、営業活動に関すること以外でも、部下が抱えている不満や悩みについて相談の場にするなど、気軽にコミュニケーションをとることでチームビルディングに役立ちます。
また、案件進捗を共有する定例や関連する他部署を横断したチャットツールのチャンネルをつくることなども円滑な業務につながります。
③クラウドツールの利用
営業資料や見積書・契約書などのペーパーレス化を進めるための、電子契約などのオンライン上での契約締結ツールの利用も視野に入れましょう。
また、営業活動に特化したツール以外で、汎用的な業務で利用できるクラウドツールもテレワークでは役立ちます。以下が一例です。
- コスト管理や経費精算ツール
- タスク管理やプロジェクト管理ツール
- 在席・離席・勤怠確認ができる労務管理ツール
- 自動カレンダー登録ができるスケジュールソフト
- ナレッジ共有ができるドキュメントやファイル共有ツール
- コミュニケーションの円滑化につながるチャットやビデオ会議ツール
営業部門だけでなく、他の部門でもツールを導入すれば、製品開発部門へリアルタイムに要望を伝えたり、アップデートされた資料の共有、詳しい担当へのスムーズな取り次ぎなどの業務効率化につながります。
④営業支援ツールや顧客管理ツールの導入
(1)SFA(セールスフォースオートメーション)
SFA(セールスフォースオートメーション)は、営業活動をオンライン化するにあたり役立つ営業支援ツールです。アプローチを行っている顧客ごとに、営業プロセスがどこなのか(パイプライン)、次に起こすべきアクションは何なのか、担当者・該当プラン・抱えている課題、ヒアリング内容などが一元管理できます。
メール内容や送受信日時などのログが自動的に残るので、テレワーク中に口頭での確認が減っても属人化を防いで業務を進められ、急な担当の変更時にもスムーズな引き継ぎが可能になります。
営業プロセスの管理・分析・改善、目標達成のグラフ化や数値化などにも役立ち、成約数の上昇のために必要なことも支援してくれます。
(2)CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)
CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)は、営業部署以外でも利用できる顧客管理ツールです。マーケティング部門がWeb経由での資料ダウンロードや、セミナーや展示会での名刺交換などで獲得したリード(見込み顧客)の管理や、受注済みで既存顧客となっている顧客リストを管理できます。
利用するのは営業部門だけでなく、開発部門・カスタマーサポート部門・カスタマーサクセス部門などが既存顧客の情報管理に利用することもあります。
上記の2つのツールを併用し、両方の機能を利用することで、顧客情報の管理と業務プロセスの進捗管理を同時に行うことができます。
⑤マニュアル作成などのナレッジ化
話すべきスクリプト内容などの営業マニュアルの作成・更新はもちろん、オフィス時には意識しなくても伝わっていた内容を積極的にドキュメント化してナレッジにしましょう。オフィス勤務は何気なく口頭でアドバイスをしあえる環境ですが、テレワークではそのようなコミュニケーションが減少するため、大事な情報が抜け落ちる可能性があります。都度、会話をしなくてもそれぞれが確認できるように情報を集約させることが重要です。
営業提案時における承認者の情報・営業フロー・各メンバーの営業テクニック・やってはいけないルールなど、こうした情報を蓄積していくことで、コミュニケーションの機会が少なくても営業部内で共通認識を作れます。
新しいメンバーが加わった時の教育もテレワークでは課題になりやすいですが、こうしたナレッジは教材としても活用できます。
⑥環境整備
自宅やモバイルオフィス・コワーキングスペースでテレワークでも、問題なく業務を行うための環境整備を行いましょう。営業職は他の職種と比較しても整備すべきツールが多いです。
- 自宅回線やモバイルWi-Fiルーターなどのインターネット環境
- 会社支給のPCや、遠隔でオフィスPCを操作するリモートデスクトップシステム
- 個人のスマートフォンを内線化できるPBX(構内交換機 )の導入
- 十分な広さのあるデスクや体に負担のかかりにくい椅子
- 品質が十分なWebカメラ、マイク、イヤフォン・ヘッドフォン
- サブモニターでのマルチモニター化など
⑦インサイドセールスの導入を検討する
テレアポ・DM・訪問営業・お問い合わせフォームに対して営業メールを送る、などのアウトバウンドセールス(フィールドセールス)をメインの営業手法にしている場合、見込み顧客をインバウンドで獲得して営業するインサイドセールスの体制をつくることも検討しましょう。
インサイドセールスとは訪問しない営業のことで、電話・メール・Web商談・SNSを活用するのでテレワークと相性が良いです。
インサイドセールスでは、主にマーケティング部門が獲得した見込み顧客に対して営業アクションを行っていきます。
大まかなインサイドセールスのステップは以下です。
- Web上に設置した資料ダウンロードフォームへの入力やセミナー申込みによるリード獲得(リードジェネレーション)
- メールマガジンの配信や動画コンテンツの提供などによるリード育成(リードナーチャリング)
- コンテンツやWebサイトの閲覧履歴やメールの開封ログなどの行動計測によるリードのスコア化と選別(リードクオリフィケーション)
- スコアが高くなっている見込み顧客(ホットリード)に対するメールや電話などの営業アクションの実施
インサイドセールスの効果を高めるためには、マーケティング部門との連携が必要です。1〜3を実施するためにはMAツール(マーケティングオートメーション)の導入やスコアリング設計などが必要となり、顧客のカスタマージャーニーを整備して共通認識を作ることなどが必要になってきます。
体制構築に手間はかかりますが、商談創出の方法としてうまく活用できれば、成約可能性が高い顧客を優先的に選んで営業アクションを起こせば、成約率の向上が期待できます。
4. 営業活動にテレワークを導入し成功した事例
①NTT東日本
NTT東日本宮城事業部では、営業活動における「移動距離の長さ」と「社員減少」による営業効率の低下という課題がありましたが、訪問営業やテレマーケティングとは別の「テレビ通話システム」を活用することで訪問件数や成約率といった数字の上昇を実現させています。
②株式会社シナノインターナショナル
株式会社シナノインターナショナルは2020年4月の緊急事態宣言をきっかけに全面的にテレワークに移行し、オフィスを縮小しました。移行時のポイントとして、オンラインツールやサービスの活用が挙げられます。NTT東日本の「ひかりクラウドPBX」で従業員のスマートフォンを内線化し、「おまかせ はたラクサポート」で勤務管理環境も整備しました。
また、オンライン営業ではツール活用だけでなく、オンライン営業用に資料をブラッシュアップするなどの対策も実施しました。
結果として、オフィス縮小によるコスト削減や働き方改革の実現だけでなく、新時代に必要な営業力の強化にもつながっているとのことです。
5. まとめ
今回の記事では営業のテレワーク化について、メリット・課題・導入する時のポイント・事例をまじえて説明していきました。
営業職はテレワーク化しやすい職種のひとつであり、そのためのITツールやノウハウもたくさんあります。
コロナ禍での対面営業による感染リスクを抑えるだけでなく、生産性の向上や売上アップ、従業員の満足度の向上にもつながりますので、ぜひテレワーク化を検討してみてください。