デジタル技術を活用し、行政の在り方を大きく変革しようという取り組みのことを「デジタル・ガバメント」といいます。2021年9月には、デジタル庁が設立。これに伴い自治体にも、行政システムの見直しや変更を含めた、より高度なICT戦略の立案が求められることになりました。
とはいえ自治体の現場では、既存のシステムや機器への対応などに忙殺され、ICT戦略の立案どころではないケースもあるでしょう。自治体がデジタル・ガバメントをスムーズに進めるためには、どのような課題を解決すればいいのでしょうか。国内・海外の事例を含めて紹介します。
納税も投票も不動産売買もオンラインでできる時代
世界では、すでにデジタル・ガバメントの成果が出ている国々があります。
国連の電子政府調査で、2019年に続き2020年も1位となったデンマークでは、日本でのマイナンバーに相当する「CPR(Central Persons Resistration/国民識別番号)」を、全国民が取得しています。さらに、CPRに紐づく電子IDである「NemID」についても、90%以上の国民が保有しています。これらを使えば、税の支払いや行政手続き、国民投票、さらには不動産の売買や携帯電話の契約、銀行口座の利用などがオンラインで行えます。
デンマークでは、さらにデジタル化を進めるため、2022年には「NemID」が廃止され、スマートフォンアプリのログイン手段としても使うことができる「MitID」が導入される予定となっています。
イギリスでは、政府ではなく、生活者を中心に据えて行政サービスを構築する「GaaP(Government as a Platform/プラットフォームとしての行政)」の推進に力を入れています。
GaaP推進の要となるのが、ユーザーの声を聞きながら進められる、アジャイル型のシステム開発です。イギリスでは多くの行政サービスが、ユーザーテストを繰り返しつつ、「UX(ユーザーエクスペリエンス)」を重視したデザイン思考的な開発プロセスを採り入れ、システム開発を行っているといいます。
ほかにも、韓国、アメリカなど多くの国々が先進的な手法で行政のデジタル化に取り組んでいます。
日本でもデジタル・ガバメントが進みつつある
日本におけるデジタル・ガバメントの動きは、今から20年ほど前の2000年頃から、IT基本法の施行やe-Japan戦略の発布などによって推進され続けてきました。
ところが、官公庁独特の紙文化や複雑な申請手続きなど、長い間続いてきた慣習はなかなか変わらず、デジタル化も進みませんでした。
しかし2020年以降、行政のデジタル化に関する指針や戦略が全面的に見直されました。2020年12月には『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』が閣議決定され、翌2021年9月には、デジタル庁が創設。これに伴い自治体にも、マイナンバーやマイナポータルを基軸としたICTシステムを構築することが求められるようになっています。
総務省の「令和3年 情報通信白書」によると、クラウドを導入している自治体は、2012年の550団体から、2019年の1182団体へと約2倍に増加。2023度末までに1600団体への導入が目指されています。
2022年度末には、原則すべての自治体でマイナポータルからオンラインの申請をできるようにする目標も政府から発表されており、今後は日本でもデジタル・ガバメントが進むことが予想されます。
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「行政のデジタル化」を阻むものとは?
とはいえ、日本のデジタル・ガバメントの推進には課題もあります。特に多くの自治体では、デジタル化を推進するための人材探しに苦慮しており、「令和3年 情報通信白書」では、1788団体中1474団体が「人材を見つけられない」と回答しています。
デジタル化を推進する人材がいたとしても、適切な報酬が支払えない、勤務条件が折り合わないなどの問題を抱えるケースもあるようです。このほかにも、「個人情報保護の取り扱いのハードルが高い」「情報政策課が多忙すぎる」といった声も上がっています。
もし自治体のリソースだけでのデジタル化の対応が難しい場合は、外部のICT専門企業に業務を委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も検討すべき選択肢のひとつです。
来るべき人口減少社会と高度デジタル化社会にスムーズに対応するためにも、自治体は、外部からの知見を効率よく採り入れる方法や、職員の手間とコストを大幅に省くような施策を今から考えておく必要があるでしょう。
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