ファイルサーバー・クラウドストレージのビジネス活用(第4回)

クラウドストレージとは? 企業が知っておきたい基本をわかりやすく解説

 近年、ファイルやデータの保存をパソコンや外付けHDDで行うだけでなく、クラウド上に保存する方法も一般的になっています。スマートフォンの写真をインターネット上のフォルダに保存するような個人利用から、企業が自社のデータセンターではなく外部のサービスにデータ保存する事例も増えています。今回の記事では、クラウド上にデータを保存できるクラウドストレージについて、仕組みやメリット、事例などくわしく紹介していきます。

◆目次
クラウドストレージとはなにか
クラウドストレージのメリット
クラウドストレージのデメリット
クラウドストレージの活用事例
まとめ

クラウドストレージとはなにか

 クラウドストレージとは、インターネット上にデータを保存できる場所やそれを提供しているサービスのことを指し、オンラインストレージとも呼ばれます。パソコンやスマートフォンでは、本体に内蔵されているHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)、また挿入されているSDカードなどにデータが保存されます。会社では自社で所有しているサーバーにデータが保存されるのが一般的です。一方、クラウドストレージはインターネットを経由して、サービスを提供会社のサーバーに保存されます。物理的な記憶装置がなくても、インターネットに接続していれば利用可能です。

 趣味利用などの個人向けのクラウドストレージは、Apple社が提供するiCloudやGoogleフォトなどが代表的です。

 仕事での利用などの法人向けのクラウドストレージは、Google DriveやDropbox、Microsoft 社が提供するOneDriveなどがあります。

 インターネットにアクセスできるパソコンがあれば、場所に関係なくファイルのアップロードやダウンロードが可能で、複数人での共有もできるため、在宅勤務やモバイルワークなどのテレワークに最適です。サーバーの設置や運用費用を抑えたいスタートアップ企業などでは、最初からクラウドストレージを利用することも多いです。

クラウドストレージの種類

 企業が利用するクラウドストレージは、大きく分けてパブリッククラウドストレージ、プライベートクラウドストレージ、ハイブリッドクラウドストレージの3種類があります。

 各種類の違いとしては、オンプレミス(自社で設置・運用)のサーバーやハードウェアを活用するかどうかがポイントとなります。

パブリッククラウドストレージ

 パブリッククラウドストレージとは、自社の専用のサーバーやハードウェアなどを使用せず、サービスとして提供されているクラウドストレージを利用して必要な時だけ自由に使う方式です。導入時のコストが低く、利用しやすいのが特徴です。

プライベートクラウドストレージ

 プライベートクラウドストレージとは、オンプレミスのファイルサーバーなど、自社専用のクラウド環境を構築・運用し、利用する方式です。オフィスでのLAN環境などからアクセスできます。プライベートクラウドストレージの設置時にはサーバーを準備し設定を行い、運用時にはメンテナンスなども必要なためコストが大きくなりがちです。その分、自社用に機能をカスタマイズでき、セキュリティレベルもコントロール可能です。

ハイブリッドクラウドストレージ

 ハイブリッドクラウドストレージとは、パブリッククラウドストレージとプライベートクラウドストレージを組みあせて運用する方式です。自社でサーバーなどのインフラ構築や運用は行わず、クラウド事業者のインフラを利用するものはホステッド型とも呼ばれます。

 自社のインフラやクラウドサービスの良いところを組み合わせることで、設置時や運用時に必要になるコストは削減しつつ、高セキュリティと効率的な運用を両立させることがメリットです。

クラウドストレージのフォーマット方式

 これらのクラウドストレージをフォーマットする方式(保存する方法)には、ファイルストレージ形式、ブロックストレージ形式、オブジェクトストレージ形式の3種類があります。

ファイルストレージ方式

 ファイルストレージ方式とは、PC内のフォルダを参照してデータやファイルを保存・利用する方式です。フォルダの階層をディレクトリ構造で管理します。各ファイルには中身だけでなく、PCのどの場所に保存されているかというデータが付与されており(ファイルパス)、ファイルにアクセスする時にフォルダとファイルパスを利用します。PCのHDD内の保存データにアクセスする時に、どのフォルダの配下にあるかが表示されますが、それをイメージするとわかりやすいです。

 企業で保存しているデータは社内利用を目的にしていることも多いため、通常はアクセス範囲を社内のみに絞ることが多いです。社内LANからのアクセスのみを許可するために、ファイルサーバーを設置する方式や、データセンターを用意して社外からでも安全にアクセスできるVPN(Virtual Private Network)で接続する方式などがあります。

 クラウドストレージだけでなく、ネットワークを通じて外付けHDDにアクセスするNAS(Network Attached Storage)の方式としても一般的です。

ブロックストレージ方式

 ブロックストレージ方式とは、ファイルやデータをブロックという単位で管理する方式で、各ブロックに番号が振られています。ファイルにアクセスするときは、該当するブロックの番号を呼び出すだけで済むので、他の方法よりもやり取りするデータ量が少なく、転送が早いことがメリットです。

 NASと同様に、ストレージにネットワーク経由でアクセスするSAN(Storage Area Network)で使われる方式です。両者の違いは、このストレージの方式の違いと、それによるネットワークのスピードなどが挙げられます。

オブジェクトストレージ方式

 オブジェクトストレージ方式とは、ファイルやデータを「オブジェクト」という単位で扱う方式です。ディレクトリ構造をとらず、すべてをフラット(均等)に保存します。ファイルストレージ形式では保存されたファイルの内容と、その場所を示すデータが別になっていますが、オブジェクトストレージ形式では一律で保存されています。

 ファイルストレージ形式よりもデータにアクセスしやすく、保存できるデータの上限がないためビッグデータなどのサイズの大きいデータも保存できます。ファイルの保存場所の指定が必要ないため、大量のデータ移行もしやすいです。

クラウドストレージのメリット

 クラウドストレージを活用するメリットについて説明していきます。

パソコンやUSBなどの物理的デバイスの容量を気にする必要がない

 クラウドストレージは、オンライン上にデータを保存できるため、保存デバイスが不要です。パソコンを個人・法人で利用する際、本体内蔵のHDDやSSDの容量には上限があり、それは持ち運び用のフラッシュメモリやSDカード、外付けHDDなども同様です。

 機器の空き容量がない場合は、データの整理や削除、新しいデバイスの増設などが必要ですが、クラウドストレージでは利用プランをアップグレードすれば物理的なスペースを圧迫することなく容量を増やせます。

場所に関係なく利用できる

 従来の社内LANを利用して自社所有やレンタルのサーバーへアクセスする方式は、基本的にオフィスにいないとアクセスできませんが、クラウドストレージでは在宅やモバイルオフィスなどのネットワークなどを利用して基本的にどこでもアクセスできます。

 たとえば、営業が社外で最新ファイルが必要な際、クラウドストレージであれば最新資料をすぐに活用できます。出勤しなくてもファイルにアクセスできるため、コロナ禍でのテレワークに適しています。

メール添付が不要で、外部アクセスも制御できる

 社外の取引先などへファイル共有をする際は、メールでロックされたファイルとそのパスワードを一緒に送ることが多く、手間がかかります。

 クラウドストレージでは、パスワードを設定して別途メール送信する必要がなく、URLなどの格納場所を共有する手間だけで済みます。ファイルにはURLやフォルダ単位でアクセス制限をかけることができるためセキュリティ的にも安心で、クラウドのフォルダ配下にファイルを追加するだけでアクセス可能になるので利便性も良いです。

共同でのファイル編集が可能

 クラウドストレージ上のファイルの内容が変更された場合、ネットワークを通じてリアルタイムで更新されます。そのため、会議中に一緒に資料を確認・修正する際に同時編集することも可能です。

自社サーバーより初期コストが低い

 オンプレミス型の自社サーバーを構築したり、データセンターなど物理的な環境を用意したりするのは導入時の費用・時間・工数のコストが必要です。クラウドストレージは、サービス提供ベンダーの環境を利用するため導入コストが低く、予算や人員が少ない企業でも導入できます。

自社サーバーより運用工数が少ない

 オンプレミス型は導入後の機能の追加・セキュリティの管理・アクセス権限の付与・各従業員からの質問や対応などの運用工数が大きく、情報システム担当への負担が大きくなりがちです。クラウドストレージでは、設計・構築・運用も基本的にベンダーに任せられるので工数が少なく、人員が少ない企業でも無理なく運用できます。

最新の機能が利用できる

 クラウドストレージのサービス提供者は、UI/UX(ユーザーにとっての使いやすさ)を向上させるためにサービス改善を日々行っているため、最新の便利な機能を利用できます。例えば、ファイルやフォルダごとに保存・編集・閲覧などの権限のレベルを変えて付与していた共有URLの設定を、他のクラウドサービスや業務アプリと連携して登録しているアカウントに自動的に付与するなどが考えられます。

容量の追加が容易

 クラウドストレージでは利用できる容量が足らなくなった場合、プランのアップグレードをすればすぐに追加できます。パソコンの内蔵ストレージが上限に達した場合は不要ファイルの削除や外付けHDDの購入などが必要で時間がかかりますが、クラウドストレージであれば忙しい時でも手間なく業務をスムーズに行えます。

安心の自動バックアップ

 クラウドストレージでは、基本的に自動的にファイルがバックアップされます。そのため、物理的な保存デバイスの破損によるデータ消失などの心配がありません。

災害時のリスクが低い

 地震や浸水などの自然災害が起きた際には、自社のデータセンターやサーバー、保存デバイスが故障する可能性がありますが、クラウドストレージを利用すれば災害時にもサービス提供会社のデータセンターが無事であればデータが消失することはありません。

 サービス提供会社のデータセンターは、強固な防災対策が施されていたり、災害の少ない地域に存在している、またはバックアップ用として複数の場所に設置されていたりするケースもあります。データ保存をサービスとしているため、災害時のリスク管理がされていることが多いです。

クラウドストレージのデメリット

 便利なクラウドストレージのメリットをたくさん紹介していきましたが、ここからはデメリットについて紹介していきます。

インターネット回線のスペックに左右されることがある

 クラウドストレージはインターネット上にファイルを保存するため、利用時にはネットワークにアクセスする必要があります。そのため、オフラインの環境では利用できません。

 また、インターネット回線のスペックが低い場合や利用回線の混雑状況によってはアクセスするスピードが遅くなる可能性もあり、作業に支障が生じる場合があります。

自社用のカスタマイズがしにくい

 クラウドストレージは自社で細かい設定を行う必要がない一方で、オンプレミス型の自社ストレージと比較するとカスタマイズ性が低いです。もちろん、クラウドサービスのベンダーは最新で多用な機能を提供していますが、基本的な機能は多くの利用ユーザーに共通して使われるものを想定されています。そのため、各社それぞれでデータを扱うにあたり、特有の設定が必要な場合、要件を満たせない場合があります。

費用が人数に比例する

 クラウドストレージは、設置や運用のために必要な時間と手間が少ないですが、その分の利用費用はかかります。多くのサービスやプランでは、利用しているユーザー数やアカウント数が多いほど費用が高くなります。小規模なチームや企業で利用する場合はそれでもオンプレミス型に比べて費用が安いことが多いですが、利用ユーザーが多い大企業の場合は長い年月で考えた時のコストが大きくなる場合があります。

利用可能なデータ量の上限に注意

 クラウドストレージではデータのアップロードが簡単なため、気がつくと利用可能なデータ量の上限に達していることがあります。上限データ量はプランをアップグレードすれば増やせますが、早急に共有が必要なときに残り容量が残っていないケースも。無駄なデータの削除を習慣づけましょう。

セキュリティ面

 クラウドストレージは基本的に社内のLAN環境でアクセスを管理しないため、IDとパスワードがあれば多くのネットワークやデバイスからアクセスできます。社外からの不正な第三者のアクセスや、従業員の不正利用などのリスクが想定されます。また、退職者にアクセス権限が残っていることも。導入時にはセキュリティルールを定めて研修などを行いましょう。

海外サーバーを利用しているものもある

 サービスの提供者がデータを保存するために設置しているサーバーが海外にある場合、セキュリティ面や事業の継続性(BCP)などの観点からリスクを伴うケースがあります。クラウドストレージのサービスを導入する際に、国内にサーバーがあるか、海外でも信頼できるサーバーであるかを確認しましょう。

クラウドストレージを比較するときに知っておくべきポイントを徹底解説

クラウドストレージの活用事例

 クラウドストレージを活用した事例を紹介します。

北星交通株式会社

 北星交通株式会社では、パソコンデータのバックアップは社員個人がそれぞれのUSBで行っていたため、情報漏えいやウイルス感染のリスクが有り、業務が非効率な部分がありました。

 クラウドストレージの利用に移行することで、データ消失や盗難のおそれのあるUSBの利用には制限をかけ、バックアップはクラウドストレージで安全に行えるようになりました。またバックアップ業務は手動から自動になり、業務効率の上昇につながったそうです。

クラウドストレージを比較するときに知っておくべきポイントを徹底解説

まとめ

 今回の記事ではクラウドストレージについて、関連する別のファイル共有の方式も交えた仕組みの説明、活用するメリット・デメリット、事例の紹介をしていきました。

 コロナ禍で在宅やモバイルオフィスでのテレワーク活用を検討している場合、クラウドストレージは簡単に導入できてセキュリティ面も対策でき、テレワークでも問題なく業務を行うことに役立ちます。

 クラウドストレージについてより詳しい内容はホワイトペーパーもありますので、ぜひダウンロードしてみてください。

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