コロナ禍を背景に、デジタルマーケティングに取り組む企業が増えています。様々な上場企業の決算資料で「デジタルマーケティングの強化」が今後のテーマとしてあげられ、アメリカの世界最大規模のデジタルマーケティングにおける市場調査の専門会社である「eMarketer」の調査結果でもBtoB企業における広告費全体の予算は削減傾向にある中、デジタル広告の費用は上昇しています。
BtoB営業・マーケティングのデジタル化を支援する株式会社才流(サイル)を経営している筆者は、様々な企業から営業・マーケティング関連のご相談をいただきます。相談内容を見ていると、2020年のコロナウィルスの感染拡大によって展示会やテレアポ、郵送DMなどのオフラインのチャネルが使えなくなり、多くの企業が一斉にデジタルマーケティングにシフトしている流れを肌で感じています。
しかし、いざ蓋を開けてみると「ウェビナーを開催してみたけど、受注につながらない…」、「MAツールやSFAツールを導入してみたけど、活用方法がわからない…」といった課題を抱えている企業が多いのも事実です。
本稿では、デジタルマーケティングに取り組む企業の皆さんが少しでも成功確率を上げられるよう、デジタルマーケティングに投資したものの成果が出ない企業に共通する5つのパターンとその解決策を解説していきます。
失敗パターン(1):顧客を理解せずに、デジタルマーケティングに投資
「デジタルマーケティングを強化する」、「DX(Digital Transformation)に取り組む」というお題目ではじまってしまうと、どうしても「デジタルで営業・マーケティングすること」や「DXすること」が目的になってしまいますが、これらは手段に過ぎません。
本来は自社の事業・マーケティング上の課題を解決するための手段として、「DX」や「デジタルマーケティング」がありますが、手段が先行した結果、顧客が置き去りになってしまうのは失敗パターンの1つです。
例えば、顧客がデジタルのチャネル(GoogleやYahoo!の検索エンジン、FacebookやTwitterなどのSNSなど)で情報収集していないにも関わらず、検索広告やFacebook広告に取り組んでも成果は出ません。
また、顧客が営業パーソンに相談しながら商品/サービスを選びたいと思っている場合、営業を介在させずにオンラインのみで販売しようとしても、商品/サービスは買われません。
一部のマーケターやDX推進担当は、
・ダッシュボードの数値やグラフ
・事業責任者や営業部長から下りてくるターゲット企業のプロファイル(「売上100億円以上の会社」「従業員数1,000名以上の製造業」)
などだけでしか、顧客を理解していません。しかし、デジタルマーケティングで成果を出す上でまず重要になることは、「顧客を理解すること」です。
営業に同行する、過去の問い合わせ内容を閲覧する、ペルソナに近い人物にデプスインタビューを行うなど、BtoB事業でも顧客を理解するためにできることは多々存在します。ツール導入やデータダッシュボードを整える前に、顧客に会いに行く仕組みを構築しましょう。
失敗パターン(2):スモールすぎる、スモールスタート
デジタルマーケティングへの投資をはじめた後、最もよくある失敗が、良し悪しを検証できるほどの投資をせずに途中でやめてしまうことです。
・数十万円だけリスティング広告を出稿してみる
・1回だけウェブメディアに記事広告を出稿してみる
・2、3回だけウェビナーを開催してみる
など、投資リソースが少なすぎると、PDCAが回り成果が出る前に「成果が出ないので、投資をストップする」という判断が下ってしまいます。
デジタルマーケティングの手法の中には成果が出るまでに一定の期間と量が必要な施策が存在します。
デジタルマーケティングへの投資が新しい取り組み、新しいチャネルの開拓になる企業であれば、十分な予算を用意し、PDCAを2回転、3回転と回せる程度の予算とリソースは確保してからはじめましょう。
失敗パターン(3):施策のつまみ食い
「スモールすぎる、スモールスタート」にも関連する3つ目の失敗パターンが、施策をやりきることなく、次から次へ、新しい施策に手を出してしまうことです。
この失敗パターンにハマった企業は、施策Aの徹底度が40%→成果が出ない→施策Bにも手を出す→施策AもBも徹底度が40%以下になる→成果が出ない→施策Cにも手を出す、、という無限ループに陥ってしまい、いつまでも成果が出ません。
書くと当たり前ですが、意外にやりがちで「施策のつまみ食い」をしている状態になっています。顧客理解を徹底した上で、自社や自社の顧客に適したデジタルマーケティング施策を選定した後は、その施策を最低でも3ヶ月~半年間はやりきるつもりで取り組みましょう。
失敗パターン(4):壮大すぎる、テーマ設定
コンサルティングファームが介入するような大規模なDXプロジェクトになると、まずはデータ基盤を整理して、「個」客のデータを蓄積した上で、One to Oneのマーケティング・コミュニケーションをやっていこう、という話になりがちです。一見、正しそうな話ですが、「DX」や「デジタルシフト」の名の下に、デジタル営業やデジタルマーケティングに過度の期待を抱いてしまうことも失敗パターンの一つです。
ウェブサイトや営業資料をわかりやすくして、顧客のニーズを捉えたコンテンツを作り、営業パーソンがこまめに連絡すればよいだけの話が、「DX」や「デジタルを活用したCX(Customer Experience)改善」の話になると常人には扱えない難易度の話になってしまいます。
もちろん、後者のテーマ設定が適している場合もありますが、不必要に話を難しくすると誰にも解けない課題になりますし、前者のテーマ設定でも十分に大きな成果を上げることができます。
「スモールすぎる、スモールスタート」、「施策のつまみ食い」とは逆に「壮大すぎる、テーマ設定」も考えもの。顧客が情報収集しているチャネルにコンテンツやメッセージを露出し、顧客の興味・関心があるメッセージをわかりやすく伝える、という基本の徹底を心がけましょう。
失敗パターン(5):デジタル完結への過度な期待
最後の失敗パターンが、マーケティングファネルの認知から成約までのすべてをデジタルで完結させようすることです。
安価な商材や使う側のITリテラシーが高い商材、経営者が自ら情報収集~意思決定する商材の場合を除き、デジタルですべての購買の意思決定が完結する場合はほとんどありません。
日本の商習慣上、ボトムアップでの情報収集→社内調整→予算や稟議申請のプロセスが一般的ですし、その中でどうしても提案活動や決裁完了までのフォローなど「営業」のプロセスは必須です。
「営業ゼロで売れる仕組み」ができたら素晴らしいですが、それが成立する条件はほとんどないことを理解し、人による「営業」のプロセスを前提に、デジタルでそれをどう支援・補強できるかを考えていきましょう。
デジタルマーケティングにおける失敗を避けるために
ここまで
・顧客を理解せずに、デジタルマーケティングに投資
・スモールすぎる、スモールスタート
・施策のつまみ食い
・壮大すぎる、テーマ設定
・デジタル完結への期待
の5つの失敗パターンを紹介しましたが、逆に言えば、デジタルマーケティングで成果を上げるためには、
・顧客を理解した上で、デジタルマーケティングに投資する
・一定以上の投資を行い、PDCAを回しながら成果を出す
・やると決めた施策をやりきる
・組織として取り組みやすい粒度でテーマ設定をする
・デジタル完結ではなく、営業が介在することを前提に組み立てる
ことが重要になります。
筆者は10年以上、BtoBのデジタルマーケティング業界にいますが、10年前に比べて、はるかに先人のノウハウが世の中に出回り、使える手法やツールも増えています。成果を出すための環境は整ってきていますが、本記事も、皆さんがデジタルマーケティングで成果を出すための一助になれば幸いです。
栗原 康太(株式会社才流)
2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上
げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッ
ションに株式会社才流(https://sairu.co.jp)を設立。アドテック東京などの
カンファレンスでの登壇、宣伝会議・広報会議など主要業界紙での執筆、取材実
績多数。
ほかにもビジネスに役立つ記事・セミナー情報を定期配信しています。詳しくはこちら
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