2020.12.18 (Fri)

【特別企画】キーパーソンが語るビジネス最前線(第3回)

米名門大で睡眠研究を成功させた西野精治氏の仕事術

posted by 株式会社Playce(プレイス)

 本日Biz Driveがお話を伺ったのは、世界の睡眠医学をけん引するスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)の所長を務める西野精治氏。大学院時代にシリコンバレーの中心にある同大学に留学し、以来33年にわたり研究を続けています。

スタンフォード大学医学部精神科 教授
同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長
株式会社ブレインスリープ 代表取締役 兼 最高研究顧問
医師 医学博士 西野 精治氏

 著書『スタンフォード式 最高の睡眠』は日本で30万部を突破。2019年には、当時、スカルプDを販売するアンファー株式会社で商品開発の責任者を務めていた道端孝助氏と出会い、共同で、睡眠に特化したコンサルティングを行う株式会社ブレインスリープを設立しました。また、近著『スタンフォード式 お金と人材が集まる仕事術』では、アメリカで研究を続ける中で学んださまざまな知見を紹介しています。

 

 本日は書籍の主題となったスタンフォード式の仕事術に加え、睡眠とパフォーマンスの関係についても話を伺いました。スタンフォード大学で西野氏が歩んできた道のりにはどんな困難があり、どう乗り越えてきたのでしょうか。

アメリカの大学での研究所立ち上げは、日本の“起業”と同義

――西野先生は、なぜスタンフォード大学で睡眠の研究をすることになったのでしょうか?

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所

 私は、脳の機能に興味があり、大阪医科大学の大学院で生物学的精神医学の研究をしていました。大学院4年生の頃に、所属する研究グループとスタンフォード大学との共同研究の話があり、当時、学位論文もほとんど書き終わっていたことから、私が派遣されることになったのです。その研究の中に睡眠プロジェクトがあり、そこから睡眠、特に「ナルコレプシー」という、日中、突然強烈な眠気に襲われる病気の研究をすることになりました。

 スタンフォード大学への派遣期間は、3~6カ月という話でした。しかし、当時は英語も堪能ではなく、文化の違いもあったため、実験はなかなかうまくいきませんでした。さまざまな事情が重なり、結局、目標としていた研究の成果が出たのは2年後で、私もその日までアメリカにいました。研究が終わり日本に帰国するつもりでしたが、在籍していた睡眠研究所から残ってほしいと言われ、給料も出るとのことだったので、残ることにしたのです。

――そこから30年以上研究を続けてこられたのですね。スタンフォード大学で研究をする中で多くの困難があったと思いますが、最も大変だったのはどんなことでしょうか?

 研究所を立ち上げること、そして存続させることには今も苦労しています。私もスタンフォード大学に来るまでは知らなかったのですが、アメリカの大学で研究所を立ち上げるのは、日本で起業するのと同じようなものです。研究所の運営には人件費などを含め年間およそ50万ドルもの金額がかかるのですが、大学からは1セントも出ません。研究所を立ち上げるPI(主任研究者)が、自ら国や企業から研究資金を集めてくる必要があるのです。それこそ、零細企業の自転車操業のごとく、研究資金をやりくりし、研究員のマネジメントを行わなければならない。資金が調達できずに、辞めようと思ったことは何度もありました。

 大金が動くわけですから、国や一般企業を確信させることは簡単ではありません。最も重視されるのは研究のフィジビリティ(実現可能性)です。研究の成果が出なければ、研究所は潰れるしかないため、研究者は必死で成果を出そうとします。こういった起業型のシステムだからこそ、アメリカから有意義な研究が多く生まれているのではないでしょうか。

――それは日本ではあまり知られていないことですね。そういった苦労があっても研究を続けてこられたのはなぜでしょうか?

 スタンフォード大学の個人主義、成果主義なところが私に合っていたからだと思います。スタンフォード大学に限らずシリコンバレーでは、誰も仕事を与えてはくれません。自分のことは自分でやるしかありません。自分が何をしたいのか、それはどうすれば成果が出るのか、自ら人とお金を集めて、計画を立てて実行します。うまくくいかなければ分析して修正し、再度挑戦します。成功も失敗も、すべて自分の責任です。誰もが自分自身のプロジェクトを猛スピードで実行しているので、他人に仕事を与える暇はありません。これを「厳しい」と感じる人もいるでしょうが、私は、人から「ああしろ、こうしろ」と指示されずに、自由にやらせてもらえるところが性にあっていたのかもしれません。私の研究所の研究員にも自由にやってもらっていますが、クリエイティブに自分で動ける人には合っているし、指示されないと動けない人には合っていないと思います。私がここまで長い間睡眠研究を続けてこられたのは、スタンフォードの「自由と自立の文化」があったからだと感謝しています。

会議は15分で十分なことも。スタンフォード式仕事術

――スタンフォード大学で研究する中で身に付けた仕事術で、日本のビジネスパーソンのヒントになりそうなものを教えてください。

 例えば、ブレストではない通常の会議の場合、時間は15分で十分なことが多いと思います。事前にアジェンダを送り、その会議で決めるべきことを全員が共有して会議に臨めば短時間で会議を終えることができます。出席者が揃うまでの待ち時間や挨拶の時間など、不要な時間をなくすことも重要です。日本のビジネスパーソンは、他人を気遣うあまり、無駄なことに多くの時間を使う傾向があると思います。他の人がまだ会社に残っているからと、帰れずに残っている人もいると聞きますが、そういう時間が最も無駄だと思います。日本は長らくデフレが続いており、先進国の中では平均収入も低い。この状況に危機感を持っている人は少ないように感じます。効率的な時間術、仕事術を意識して、生産性を上げていかなければ、日本は衰退していってしまうのではないでしょうか。

 それから仕事でフィジビリティをもっと重視する必要があると感じます。先述の通り、スタンフォード大学をはじめ海外では「努力したがプロジェクトを遂行できなかった」というのは許されません。実現の可能性がどの程度あるかが投資の判断基準になります。どんなに著名な研究者でも有名大学でも、フィジビリティがなければ投資を受けることはできないのです。しかし日本はトップダウン型が多く、実現性が低くても権威ある人を信頼して、何億という資金を投じることがあります。権威ある人にではなく、独創性があり、フィジビリティのある仕事や研究をする意欲ある若者に資金を投じるようになるといいですね。

――シリコンバレーでは“Fail first”といってどんどん失敗させると聞きますが、そういった文化を実感されたことはありますか?

 どんどん失敗させるというよりも、すべてにおいてスピードが速いので、2倍3倍仕事をすれば、当然失敗も増えてくるということだと思います。物怖じせずに次々と具体化していけば、すべてうまくいくはずがないので、当然失敗する件数は増えるでしょう。

 30年以上スタンフォード大学で過ごしてきて感じるのは、絶えず課題解決をするシステムができているということ。例えば大学までの道路の渋滞問題も、1台の車に何人かで同乗して来たらお金が貰えるシステムにしたり、バスを無料にしたりすることで解決してきました。いろんなことに問題意識をもってすぐに解決していくところが素晴らしいと感じています。

――絶えず課題解決するシステムをつくるには何が必要なのでしょうか?

 スタンフォード大学の校訓は、「Die Luft der Freiheit weht(自由の風が吹く)」。自由な校風であることが影響しています。何を言っても大丈夫という心理的安全性があるから、課題解決にも積極的に挑戦できるのです。

 また、仲間意識の強さも影響しているかもしれません。学生から「話を聞きたい」と言われれば、時間を取る教授が多いと思います。そういう相談しやすい環境があるのも、課題解決につながるいい文化だと感じています。

日本の女性は、世界一睡眠時間が短い

――睡眠についてもお話を伺いたいのですが、日本と海外で睡眠障害の種類などの違いはありますか?

 睡眠障害の起きる頻度や種類については、世界中で大きな差はありません。日本の特徴は、睡眠時間が短いことと、睡眠は取れているけどスッキリしない人が多いこと。心配ごとやいろいろな要因で質の良い睡眠が取れていない人が多いですね。

 現時点で、日本は睡眠時間世界ワースト1位。欧米では女性の方が男性よりも10分~20分長く寝ていますが、日本・韓国・インドなどアジア諸国では女性の方が短いのです。特に日本の女性は、世界一睡眠時間が短いという調査データが出ています。

 また、ブレインスリープが全国1万人の有職者で調査した結果(※)によると、日中眠くて仕事が進まないことがある人が36%いることもわかりました。睡眠時間や睡眠の質は、仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与え、企業の損失にもつながっていることがわかっています。産業事故の多くも、睡眠不足や睡眠障害が原因で起きているといわれています。

※調査概要
対象条件:全国男女 20~60 代 有職者
調査期間:2020年3月
調査方法:ブレインスリープ実施アンケート
有効回答数:10,000名

――日本における睡眠の課題はどこにあると思いますか?

 日本人は睡眠に関する意識が海外に比べると低く、そもそも、正しい情報が広まっていません。睡眠の専門家ではない人が主導する睡眠ビジネスが広がってしまうことは、日本人にとって大きな損失になります。ひとつ懸念しているのは、睡眠改善プログラムが、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの睡眠障害に与える影響です。それらの睡眠障害に必要なのは早期診断と医学的な治療です。睡眠改善プログラムで治るわけがなく、むしろ治療を遅らせてしまうこともあります。治療が必要な人を、しっかり医療機関へ導く必要があります。

 日本では睡眠の質も量も不足しているのに、それを改善する方法が正しく伝えられていません。「日本の睡眠をなんとかしなければならない、睡眠に関する正しい情報を伝える必要がある」と痛切に感じています。そのような想いから、ブレインスリープを立ち上げることにしました。

 私が所長を務めるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所のOB・OG50名近くが現在、日本全国の睡眠医療、睡眠研究の場で活躍されています。彼ら、彼女らと連携しながら、最先端・最前線の知見と経験をもとに、国民の睡眠衛生の改善をはかり、日本国民全員が「最高の睡眠で、最幸の人生」をおくることができるように願い、力を結集したいと思います。

株式会社Playce(プレイス)

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