「日本人は働きすぎ」「休みを取るのが下手」「仕事の効率が悪すぎる」──。このようなことが指摘され始めて数十年が経過するが、いまだ日本企業の生産性は向上していない。少子高齢化が進み、グローバル化を意識しなければ生き残れない今、多くの企業にとって、「海外企業と戦うための世界基準の生産性」を手に入れることは喫緊の課題である。いったいどのような取り組みを行えば欧米諸企業のような高い生産性を確保することができるのか、そして働き方改革が劇的に進むのか? 業務改善のプロとしても活躍する経営コンサルタントの勝間和代氏に、そのポイントを語っていただいた。
仕事の時間・業務量を1/3に圧縮せよ
生産性を上げるには、思い切って仕事を減らすしかありません。まずは現在やっている仕事を1/3に圧縮してください。余計な雑務や政治的配慮による無駄な作業を排除すれば、1/3の時間・業務量で、十分仕事は回るはず。多くの企業の業務改善に携わってきた経験から、「仕事に関わる時間は、ざっくり1/3で足りる」と断言できます。
仕事量を減らすためにまず取り組んでほしいのが、1つひとつの案件に対して、「どのぐらいのクオリティの仕事が求められているか」を確認すること。日本人は多くの仕事に対して、過剰な品質を提供しがちです。2、3カ所誤字があったところで問題にならないはずの社内文書に時間と人数をかけて校正をしたり、数分のプレゼンテーションのためにびっちりと文字で埋め尽くされた書類を作ってしまったりなど。こうした作業は、すべてオーバークオリティ。仕事に取り掛かる前に、毎回必ず求められるクオリティを確認し、「比重の軽い仕事には時間をかけない」という意識を持つことが大切です。
また仕事単位ではなく、顧客単位で「比重」を見極めることも有効です。私が以前勤めていた外資系企業では、顧客を「プレミアム」「A」「B」「C」といったカテゴリーに分け、各カテゴリーの顧客に提供すべきサービスの一覧表を作成するという取り組みをしていました。利益率の高い仕事を多く発注してくれるプレミアムの顧客にはさまざまなサービスを提供するけれど、Cの顧客に提供するサービスはここまで、というように比重を見極めていました。これを全従業員で共有し、意識しながら営業をしていたんですよね。
日本の企業は顧客が支払っている代価を考えずに、「とにかくやってあげる」ことが多いように感じますが、これはとてもよくないこと。なぜなら、プレミアムの顧客が支払っているお金を、Cランクの顧客に流していることになるからです。公平にサービスを提供しているようでいて、代価の面ではかえって不公平なことをしているのです。
多くの企業が、お金にならない仕事に時間をかけすぎています。「全業務の20%である重要度の高い仕事が、全売上の80%を占める」というパレートの法則を用いた例で、よくマーケティング戦略のあり方を説くことがあります。つまり生産性において、重要な20%の仕事をしっかりとやって、そうでないものは極力やらないようにすることは肝要だと思います。
経営者や管理職は、現場仕事をしている場合じゃない
「仕事を思い切って減らすこと」と同じぐらい大切なのが、「評価をきっちりと行うこと」です。マッキンゼー、JPモルガングループの勤務時代に両社で学んだのが、「経営者や管理職は評価に3割ぐらいの時間をかけるべき」ということでした。
組織のトップに立つ人は、取り組んだ仕事が役に立ったのか、立たなかったのかについて、もっともっと真剣に考えたほうがいい。きちんと評価し、その評価を給与や人事に厳しく反映させPDCAを回さなければ、生産性は上がりません。生産性の低い会社は、これからどんどん淘汰されていきます。管理職には、今一度、真剣に評価制度を確立させて運用しないとどうしようもないところまできている、細かな文字の修正や現場仕事をしている場合じゃないということを理解していただきたいなと思います。
効果的に評価を行うため意識してもらいたいのが、上司だけでなく、本人、顧客、同僚や他部署の社員なども交えた「360度評価」を行うこと。評価は上司だけが行うと非常に歪みます。できるだけ歪みなく、客観的に、正しく評価するためには、多くの人のさまざまな視点を取り入れることが欠かせません。たとえば評価担当者を立てて、顧客へ定期的にヒアリングを行う、他部署に対してアンケートを行うなどして、幅広く評価の根拠を集めるよう心掛けましょう。
その他、ゆるいミーティングの場を設けることも有効です。オフサイドミーティングやランチミーティング、サークル活動などなど。社員が集まり話す機会をたくさん設けることで、互いの立ち位置や活躍の度合い、関係性などがグッと見えやすくなることでしょう。
よく管理職から「ミーティングやサークル活動の場は設けているが、人が集まらない」「義務感で参加している社員が多く機能していない」という声を聞くことがありますが、それは、それこそ忙しすぎるから。そう思うなら、仕事を減らしてくださいね。
こうして行った評価は、必ず給与と連動させなければいけません。評価が上がれば給与が上がり、評価が下がれば給与も下がる。信賞必罰をきちんと実践することで、従業員も真面目に評価と対峙して業務改善を行うようになるのです。
「外資のような仕組みはちょっと」「日本企業に厳しい評価制度はなじまないのではないか」という人もいらっしゃるかもしれませんが、それは甘えでしかありません。「できない」というなら、できない理由を紙にすべて書き出して、1つずつ潰していきましょう。グローバリゼーションの時代に「日本だから」は通じません。日本の人事・評価制度は、欧米企業に比べ20~30年遅れていると言っても過言ではありません。危機感をもって、言い訳をせず、真剣に制度改革を行う企業だけが、中長期的に生き残ることができるのです。
従業員への権限移譲と、得意なことで成長する
仕事の削減、評価制度の確立とともに進めてほしいのが、権限の委譲です。経営者や管理職の人間は、原則として現場の判断をしてはいけません。チェックはするけれども決定はせず、あくまで意思決定は、現場の従業員にやってもらうようにするとよいでしょう。
また、従業員に得意なことを担当させることも重要です。日本の企業は従業員に得意なことをやらせない傾向が強く、そのため、成長が鈍化してしまうことが少なくありません。従業員に合わせて売るものを変え、仕事の領域を増やし、会社をカスタマイズする。そんな柔軟性のある企業が、今後、大きく伸びていくものと思います。
こうして権限委譲を進め、モチベーションを上げていくと、自然と従業員の側から業務改善のアイディアが出てくるようになります。出てきたアイディアは、たとえば投票などで順位をつけ、上位には賞金などのインセンティブを与えるなどの制度を設ければ、より注目されて盛り上がりますよね。すると適当なアイディアを出すのではなくて、真剣に考える人が増えてくる。どんどんよい循環が生まれ、生産性がアップしていくのです。
「ITがメイン」の時代で企業に必要なインフラ
生産性のアップを語る上で避けて通れないのがITの力。「ITの助けを借りる」とか「ITを活用する」とかではなく、今や、「ITがメイン」の時代です。そう遠くないうちに、ITが肩代わりしてくれるような定型仕事はなくなり、ITよりも生産性の低い従業員は必要とされなくなることでしょう。
では、今、企業に必要なITインフラというのはどのようなもので、どんなツールやシステムが注目されているのでしょうか?
そのような質問をしてくる時点で、すでに時代に大きく置いて行かれているということを自覚すべきだと、私は考えています。ネットワーク環境やクラウドといったITインフラはすでに整えていなければなりませんし、必要なツールは採り入れているのが当たり前です。それを採り入れていないのであれば、すぐにでも整えるべきです。もし自身で必要なツールがわからないなら、ITの専門家を雇うなり、専門企業に確認するなどしましょう。
勝間和代(かつま かずよ)
1968年東京生まれ。早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務する。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。 現在、株式会社監査と分析取締役、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」選出。著作多数、著作累計発行部数は500万部を超える。
連載記事一覧
- 第1回 働き方改革を実現する!生産性アップ術/勝間和代 2018.03.23 (Fri)
- 第2回 従業員が気持ちよく働ける場をICTで実現/津田大介 2018.03.30 (Fri)
- 第3回 米名門大で睡眠研究を成功させた西野精治氏の仕事術 2020.12.18 (Fri)
- 第4回 ブレインスリープとNTT東日本が挑む、健康経営支援 2020.12.23 (Wed)
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