2021.09.30 (Thu)
【特別企画】キーパーソンが語るビジネス最前線(第6回)
なぜBPOはスタートアップに注目されているのか?
企業が自社のコア業務以外を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)ビジネス。経理や人事など特定の業務を丸ごと外部企業に委託することで、限りある経営資源をコア業務に集中させることができるほか、専門的なスキルを有する企業に任せることで法改正への対応や最新技術の導入などを速やかに行える、人件費や固定費などコストの削減にもつながるといったメリットが多く、注目を集めています。
ここでは、スタートアップやベンチャー企業がBPOを活用するメリットと必要性、また、実際にBPOを活用してビジネスを成長させたカケハシの事例を、同社代表取締役CEOの中川貴史氏と、テクニカルサポート櫻木基充氏のコメントを交えつつご紹介します。
2025年の市場規模は1兆円超!? 成長を続けるBPOビジネス
ICT専門調査会社が2021年に発表した国内BPOサービス市場予測によると、2020年の国内BPOサービス(人事/財務経理/カスタマーケア/調達購買)の市場規模は、前年比3.9%増の8,484億円。新型コロナウイルスの感染拡大により、従業員の在宅ワークを推進すべく、多くの企業で自社業務の見直しが行われたことも、BPOの導入が加速した一因となっているようです。こうした流れは2021年以降も続くと見込まれており、2020~2025年のBPO市場の年平均成長率は4.9%で、2025年の市場規模は1兆785億円に達する見通しとなっています。
今後も拡大が見込まれるBPOビジネスですが、従業員1,001名以上の企業と50名以下の企業では、1,001名以上の企業のほうが20%程度、導入率が高くなっており、企業規模が小さくなればなるほど、BPOサービスの導入率が低下するという調査結果があります。
しかし一般的には、規模の小さい企業ほど人材リソースに限りがあり、一人ひとりの業務負担が大きくなる傾向があります。業務負担が増え、本来コア業務に割くべき時間を十分に捻出できないと、スタートアップやベンチャー企業の本来の強みであるスピード感をもった事業拡大の妨げになってしまいます。それどころか、人材リソース不足がコア業務の質を下げ、顧客満足度の低下を引き起こし、売上の低下、そしてさらなるサービスの質の低下につながるという悪循環も起こしかねません。
BPOを活用することで、たとえば経理やICTなどの専門知識を持った人材の採用や育成にかかる時間・コストが削減できるほか、その分のリソースをコア業務のブラッシュアップや新規コア事業の開発に割くことができます。事業拡大のスピードアップや効率化、新規ビジネスの開拓に力を注ぎたいスタートアップやベンチャー企業にとって、BPOは力強いパートナーとなるでしょう。
スタートアップカンパニー、カケハシのBPO導入事例
実際に、ノンコア業務を外部にアウトソーシングしたことで、事業規模の拡大に成功した企業があります。ここからは、株式会社カケハシ代表取締役CEOの中川 貴史氏と、テクニカルサポート櫻木 基充氏のインタビューも交えながら紹介します。
カケハシは、2016年3月に創業したスタートアップカンパニーです。創業から約1年後にリリースした薬局体験アシスタント「Musubi」は、薬局の業務を大きく変革させるとして大きな支持を集め、現在、導入店舗数が毎月10%以上の割合で増えています。 各薬局への設置対応を急ぐ必要がありましたが、同社はまだ成長段階にあったため、対応できる人員はわずか5人という状況。そこで人員不足による従業員への負担を軽減し、さらには事業拡大のスピードアップを図ることを目的に、Musubiの設置・設定業務をNTT東日本に委託することを決めました。
当時の状況やBPOの活用を検討するに至った背景について、中川氏は次のように話します。
「弊社では、営業や導入後のサポートなどは基本的にオンラインで対応を行っているものの、唯一、Musubiの設置・設定作業については現場に赴き、ローカルネットワークを構築して、レセプトコンピューターとの接続を担保する必要がありました」
その作業を行っていたのが、櫻木氏率いるテクニカルサポートチームです。メンバーは5人と少数精鋭でありながら、Musubiの設置・設定だけでなく、アフターフォローやハードウェアに関するトラブル対応なども担当しています。しかし、薬局は全国に約6万店舗。都市部だけではなく、離島にも存在しています。これまでは自社だけで設置対応を行ってきましたが、導入数が伸びれば伸びるほど、現地に足を運び、導入支援を行う負担が大きくなっていきました。
負担を軽減するため、過去に設置・設定業務をアウトソーシングしたことがあるものの、「期待した結果が得られなかった」という同社。
「薬局には、ICTに詳しい方がいないケースが多いため、薬局内のネットワークがどのようになっているのかを確認・理解したうえで、Musubiの接続・設定を行う必要があります。過去にアウトソーシングした企業は、環境確認を行っていただけなかったのが最大のネックでした」と櫻木氏は話します。
ネットワークの環境確認を自社で続ける必要が残った結果、メンバーが全国各地を飛び回るというスタイルは改善されなかったため、契約は終了。再び5人ですべての設置・設定業務を行う日々が続いていました。そんな中、新たなアウトソーシング先として名乗りを上げたのがNTT東日本でした。
NTT東日本へのBPOを決めた理由とは
過去のBPOで満足する結果が得られなかった中、NTT東日本のBPOソリューションを導入しようと決めた理由はどこにあったのでしょうか。
「BPOソリューションを導入するにあたり、大きな条件となったのは、北海道から沖縄まで、全国をカバーしていただけるかという点。そして、ネットワーク構成を理解できるようなスキルを有した人員を確保していただけるかという点でした」と中川氏。
また、櫻木氏も「薬局によっては、いろいろなところにルーターが設置されていて、何の用途で使われているのか誰も知らないような状況下で、さらにMusubi用のルーターを設置するケースも発生します。そういった場合でも、臨機応変に柔軟な対応をしていただけて、さらにネットワークに関する提案やアドバイスもできるスキルをもっているのは、おそらくNTT東日本以外ないだろうという結論になりました」と話してくれました。
以上のように、対応できるカバー範囲やスキルなどから総合的に判断し、NTT東日本との提携を決めた同社。Musubiは、薬局が患者の情報を把握するために用いる「薬剤服用歴」がより管理しやすくするほか、患者とのコミュニケーションを円滑にできる点が高く評価され、薬局からの依頼は減ることがありません。同社はNTT東日本と協業しながら、今後も全国への導入を拡大していくとのことです。
BPOはスタートアップ・ベンチャー企業の救世主になり得る
カケハシの事例のように、BPOサービスを導入することで、コア業務にリソースを集中させ、事業の拡大を実現しているスタートアップやベンチャー企業も少なくありません。BPO市場は、今後も拡大していくと予想されており、それだけ多くの企業がBPOを検討しているということになります。
ただし、BPOはメリットだけでなく、情報漏えいなどのセキュリティリスクや、「委託先がどのように業務をこなしているのか見えにくい」、「社内にノウハウが蓄積されない」といったデメリットもあることは忘れてはいけません。
BPOサービス導入を成功させるには、サービスの選定やアウトソーサーとの関係構築を慎重に行うことが肝心です。自社が求める情報セキュリティ対策を備えたアウトソーサーを選ぶのはもちろん、情報セキュリティリスクを下げるためには、「どの程度のセキュリティを求めるのか」をアウトソーサーに対して具体的に示すことも重要です。さらに、マニュアルや定期的な業務報告書の提出を求めるなど、アウトソーサーとの連携を密にすることで、業務の不透明化やノウハウの空洞化を回避することも可能です。
BPOサービスを利用するにあたっては当然、初期費用とランニングコストが発生します。しかし、BPOを活用し、コア業務にリソースを集中できるようになったからといって、すぐに金銭的なメリットを得られるわけではありません。サービス導入時にアウトソーサーとコストについても協議し、現実的なコスト回収スケジュールを策定することが不可欠です。コスト回収に要する期間も意識する必要があるのです。
メリットとデメリットを正しく理解し、事前のリスク対策をしっかりと行ったうえでうまく利用すれば、BPOは企業の業務を大幅に改善し、経営リソース不足に悩む企業にとって有効な手法となるでしょう。
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