2017.05.24 (Wed)

地方振興の事例から、ビジネスのヒントを学ぶ(第3回)

古びた商店街が県の観光を“活性化”させた理由とは

posted by 味志 和彦

 かつて賑わいを見せていた商店街が、消費者の嗜好、人口、交通インフラなどの変化により衰退し、「シャッター通り」と呼ばれるようになった街が日本の各地で見られます。

 大分県豊後高田市にある商店街も衰退の道をたどっていましたが、独特の発想で賑わいを取り戻しました。それは古びた建物の並ぶ商店街を、昭和のノスタルジーを楽しめる「観光地」へ変えるという逆転の発想でした。豊後高田市の商店街は多くの観光客が集まるようになり、大分県の観光産業に影響を与えるまでに成長したのです。

取り残されてしまった「古い」商店街

 豊後高田市は、大分県北部にある国東半島の西側に位置します。国東半島の陸・海交通の要衝として江戸時代から栄えた土地です。最盛期は昭和30(1950)年代で、市内中心部にある商店街に約300店が立ち並ぶという賑わいでした。

 しかし昭和30年代を過ぎると、スーパーや郊外型大規模店が台頭し、商店街の客を奪います。さらに鉄道駅から離れている立地や、自動車が往来するには道幅が狭いという道路事情も加わり、徐々に客足が遠のきます。売上減少に伴い建物の立て替えが進まなくなり、これが客に「古い」というイメージを与えてしまい、さらに寄り付かなくなるという悪循環に陥ります。

 商工会議所は、バブル末期の1990年代に大手広告代理店と組んで再生計画案を作ります。それは商店街を取り壊し、大型商業施設を建設するという計画でしたが、バブル崩壊のあおりを受け、建設資金が調達できずに頓挫します。しかし計画の頓挫は、後に若い店主を中心に、活性化を考える契機となりました。

 若い店主たちは、1994年にオープンした新横浜ラーメン博物館にヒントを得ました。新横浜ラーメン博物館は、昭和30年当時の街並みを館内で再現するなど、ノスタルジーな「旧い」雰囲気で人気を博しています。店主たちは、建て替えが進まなかった豊後高田市の商店街なら、昭和30年台の雰囲気を再現しやすいと考えたのです。

古いを「旧い」に変えて、新しい魅力に

 前述の発想を元に、「昭和の街」という商店街活性化計画がスタートします。2001年から老朽化していた店舗に昭和30年代のイメージを取り戻す改装が行われました。また、建物の改装と並行して、1935(昭和10)年ごろに建てられた米蔵に「昭和ロマン蔵」というテーマパークを2002年にオープンさせます。館内には民家や商店、学校の教室などの街並みが再現され、昭和に関する展示物が並びます。

 ほかにも昭和のレトロカーや音楽などに関するイベントの開催や、商店街にボンネットバスを運行させるなどで、さらなる集客策を打っていきます。商店街全体を擬似体験型テーマパークという観光地にしたことで、多くの観光客を呼び寄せることに成功。さらには近隣の温泉や茶摘み体験などの観光ツアーも増客させるという波及効果を生み出したのです。

 シャッター通りとなっていた商店街は、昭和ロマン蔵のオープン以降に観光客が年々増加し、年間で約40万人が訪れるまでになります。その観光客が大分県全体の観光振興にも波及効果をもたらしたのです。観光客の増加により、昭和の町は商業だけでなく観光も活性化させた事例としてメデイアに取り上げられるようになります。

 1964年の東京オリンピック開催に伴う高層建築が林立する前の「昭和30年代」という風景に郷愁を感じるのは、実体験のある年齢層だけでなく、幅広い層が現在の街並みと大きく違うことに興味を抱きます。このニーズを察知し商店街の活性化と結びつけたことが、成功した秘訣といえるでしょう。

最新の「利便性」と引き換えにしてきたものとは

 日本は高度経済成長期を経て日本全土で高層ビル建設が進み、「最新」の都市像を追求しました。その結果、ビジネスや日常生活では「利便性」を得ることに成功しています。

 しかし、さまざまな時代の建造物が残るヨーロッパの街では、「利便性」を理由に全て近代的なビルに建て替えてしまうことは行っていません。なぜなら、歴史という個性がなくなるからです。魅力ある個性が喪失すれば観光収入が減少し、街の活性化も難しくなるでしょう。

 日本の都市は、最新という利便性と引き換えに歴史的な個性を失ったという側面があります。豊後高田市の復活劇は、開発から取り残された商店街に別の価値を見出したことで、多くの収益を市や県にもたらしました。「旧さ」は長い歴史が培ってきた財産であり、簡単には真似できない優位性になるのです。

 首都圏だけに目を向けていると無意識に「古い=遅れている」という意識に囚われてしまい、「旧さ」という財産を見失ってしまうかもしれません。それを見つけ出すことができるのは、地元の歴史を一番よく知る住人たちに他ありません。

参考文献
・木村俊昭『地域創生 成功の方程式』ぎょうせい
・信田和宏『いなかおこし!』NTT出版
・中村稔『何が「地方」を起こすのか』国書刊行会
・豊後高田市公式観光サイト http://www.showanomachi.com/

味志 和彦

味志 和彦

佐賀県生まれ。産業技術の研究者を経て雑誌記者など。現在コラムニスト、シナリオライター。

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