新年度を迎え、組織や部下の目標設定など、リーダーにさまざまな決断が求められる時期になってきました。リーダーに求められる決断の中には、データや目に見える条件だけでは論理的な判断がつかないような、曖昧で難しいものも存在します。そのようなとき、リーダーは決断を下す前に、最善の選択にたどり着くための自問自答を繰り返すことでしょう。
本記事では、リーダーが難しい問題に決断を下す際の自問自答で、道標となる5つの問いとその答えの見つけ方を、ハーバード・ビジネス・スクール教授ジョセフ・バダラッコ氏の論文“How to Tackle Your Toughest Decisions”(困難な決断にいかに立ち向かうか)をもとに紹介します。
まずは自分の決断がもたらす結果と向き合う
最初の問いは「どんな選択肢があり、各選択肢の結果はどうなるか?」です。この問いで求められるのは、すべての選択肢を洗い出し、それぞれを選んだ際に想定される結果を予測・分析することです。
この段階では、こうあるべきという自分自身の意志や思い込みをいったん捨て、すべての選択肢を平等に扱うことが重要です。1つ1つの選択肢に対し「これを選ぶことにより、誰が傷つき、誰が助かるか」を短期的・長期的それぞれの視点で問いかけていきます。
リーダーの決断は、大勢の人々の人生や生活に影響を与えることになります。最初の問いでは、まずその現実としっかりと向き合うことが必要です。
すべての責任を同時に果たせる選択肢はない
次の問いは「自分が果たすべき最も重要な責任は何か?」です。この問いでは、1つ目の問いの洗い出しで残った選択肢を、自分が果たすべき一番の責任は何かという視点で選択します。
自ら背負っているさまざまな責任がある中で、何を最優先すべきか考える際には、自分を客観的に見つめることが重要です。自分の決断により影響を受ける部下、お客さま、経営陣、取引先などの立場になり、彼らが自分に何を求めているかを想像しましょう。そして、最も重要な責任を理解してから選択肢を選ぶのです。
実際に機能する選択肢を探す基準とは
3番目の問いは「下そうとしている決断は、実行可能性が十分にあるか?」です。結果と責任に続き、3問目では実行可能性という観点で考えていきます。自分が「こうあってほしい」と思う希望的観測ではなく、現実的に一番成功する、あるいは一番抵抗が大きいといった視点で選択肢を検証します。
この問いに答えるためには、周囲の力関係を整理する必要があります。誰が何を望んでいるか、労力を惜しまない相手は、目標を達成できる相手は、といった視点で実際に機能する選択肢の検証を行います。
客観的を3回繰り返した後に主観的になる理由
4番目の問いは「“自分たち”にとって何が一番重要か?」です。主語を「自分たち」にして、自分の属するチームや会社にとって本当に重要なことは何かを考えていきます。たとえば社訓や中期経営計画のスローガンなどと選択肢を照らし合わせて、組織が理想とする姿や目標などに一番近づける選択肢を見つける視点です。
重要なのは、この問いが1番目ではなく4番目にあることです。3番目までの問いでは、自分の状況について、外部からの視点で可能な限り客観的に考えることを促していました。人間は、意図せず自分に都合の良い視点で物事を考える傾向があります。その危険性を相殺するため、まず前半の問いを通して客観的な視点で問題を捉えておき、4番目の問いではじめて、自分が当事者という視点で選択肢を検討するようにしているのです。
最後は自分が納得しているかを確認
最後の問いは「自分の感性が受け入れられる決断になっているか?」です。この問いでは、自分の理性と感性を一致させられるかが問われます。1つは、客観的な状況把握と分析、もう1つは、その決断を下す自分自身の価値観や理想、経験です。
4番目までの問いを通して主に理性で導き出した、最善と思われる決断に対し、ここでは自分の感性と向き合います。そして、自分はこの決断に納得できるかを問いかけます。
リーダーの役割は決断を下すだけではありません。その決断を全力で実行に移し、生じる結果をすべて受け入れなければいけません。そのためには、自分の決断に理性だけではなく、感性も納得していなければ、全力を尽くせないでしょう。
目に見える情報だけでは、論理的な判断がつかないような難しい決断を行う状況で、「自分の決断は正しかった」という確信を得ることは難しいものです。しかし、これら5つの自問自答と順番に向き合うというプロセスを経ることで、自身はもちろん他人にとっても、最善の決断となる確率を高めることができます。
【関連記事】
“How to Tackle Your Toughest Decisions”
https://hbr.org/2016/09/how-to-tackle-your-toughest-decisions
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