ビジネスパーソンにとって、コミュニケーション力は必須のスキルの1つであるが、ビジネスである以上、できるだけ論理的に話をすべき、と考えている人も多いだろう。
だが、この考え方には実は落とし穴がある。実際はその真逆で、“論理的であること”にとらわれているからこそ、コミュニケーション力が身につかないのだ。
こう指摘するのが、世界的コンサル会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーで働き、世界とビジネスで渡り合った経験を持つ赤羽雄二氏である。彼は著書『頭が真っ白になりそうな時、さらりと切り返す話し方』(ベストセラーズ刊)にて、論理的に話すよりも、むしろシンプルに「言いたいことを言うべき」としている。
今回は本書を元に、一流のビジネスパーソンが取るべきコミュニケーションのコツを紹介する。
論理性ではなく、「言いたいことはシンプルに言う」ことを追求すべき
赤羽雄二氏は同著にて、一流のビジネスパーソンになるためには、論理的な思考をせず、言いたいことはシンプルに言うべき、と述べている。その理由は、以下の3点である。
(1)発言する側があまり余計なことを考えなくてよい。
(2)余計なことを考えないので、余計なことが詰め込まれずに話がシンプルになる。
(3)結果、話がわかりやすくなり、聞き手にすっと入る。
多くのビジネスパーソンは、あれこれと考え過ぎてしまい、自分の言いたいことを見失い、複雑でわかりにくい話をしてしまっていると、赤羽氏は指摘する。そのため、聞き手がこちらの言っていることを理解できず、結果的にコミュニケーションに失敗している、というのが赤羽氏の主張だ。
しかし、論理的に考える癖がついてしまったビジネスパーソンにとって、論理的であることを忘れ、言いたいことを言うのは容易ではない。たとえば、上司が論理的に説明することを要求してきた場合は、それに従うのも仕方がない。それに、いざ話すときに言葉が出てこないこともある。そもそも、言いたいことが思いつかず、頭が真っ白になることだってある。こんな時に、言いたいことをそのまま言うというのは困難である。
「論理的に説明しなさい」の罠
とはいえ、言いたいことを言うのは、日々のちょっとした工夫で改善できる。以下に、本書で紹介されている方法を紹介しよう。
たとえば「言いたいことが思いつかない」場合は、普段から、考える癖をつけることで改善できる。仕事でもプライベートでも、何でも好奇心を持ったり、好きなことを追求したり、考えたらメモに書き、人に話したりすることに意識的に取り組むことで、「言いたいこと」は思い浮かんでくる。
また「いざ、話すときに言葉が出てこない」場合も、普段からの心がけで改善可能である。ちょっとした集まりで必ず発言するクセをつけたり、会議の前に発言することをメモで書き出していたり、会議前やプレゼン前に予行演習するなど「準備」をしておくことで、自信を持って発言できるようになる。
最も対応が難しいのが、「上司が論理的であることを要求してくる」ケースである。現実に「君の話は論理的じゃない」と一刀両断したり、「論理的に言わないとわからない」となじる上司は数多く存在する。こうした上司は立場を利用して、「論理的」という言葉の凶器を振りかざし、襲い掛ってくる。やろうと思えば、彼らは永遠にケチをつけ続けることもできる。
そんな一方的で理不尽な上司の「論理的に」という要求になど、答えられるわけはない。むしろ、答える必要などない。
本来であれば、距離を置くのが一番の得策であるが、上司であればそういうわけにもいかない。だからこそ、取るべき対策は、こうした上司が要求する「論理的であること」に惑わされることなく、「言いたいことを言う」ことが重要なのだ。
スティーブ・ジョブズも「言いたいことを言う」準備をしていた
論理的であることよりも、「言いたいことを言う」を重視して成功を収めた人物がいる。Appleの創始者である故スティーブ・ジョブズ氏である。彼は社内の会議で発言しない参加者を、次回以降出席させないようにしていたという。ジョブズ氏にとって、コミュニケーションができない人は、仕事ができない人間なのだ。
今や多くのビジネスパーソンの理想とされているジョブズ氏のプレゼンテーションも、シンプルでわかりやすく、そして情熱に満ち溢れているから、聴衆を魅了するのである。決して論理的であるからではない。
ジョブズ氏は、そのプレゼンの練習を、1日に何時間も、そして何日も入念に行った。あのジョブズ氏でさえも、自分の言いたいことを言えるように準備していたのだ。
赤羽氏は、日本人は欧米人と比べて、「コミュニケーションが苦手」としている。それは、「考えが浅く、表面的で」「自信を持って発言しない」からである。日本人にこうした傾向があるのは、日本人固有の気質にその原因がある。日本人には、「メディアなどの信頼できそうなものの情報をそのまま信じる」「親に始まり、先輩、先生、上司など信頼できそうな人の話をそのまま信じる」「それらの人の言う通りに行動する」、という傾向が強い。
しかし、一流の上司になるためには、こうした習慣から脱却し、根本的に、「物事を本質的に捉えて、深く考える力」を身につける必要がある。その一つの方法が、論理的であることを忘れて、「言いたいことを言う」ことなのである。
参考文献:「頭が真っ白になりそうな時、さらりと切り返す話し方」(ベストセラーズ刊、赤羽雄二著)
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