オフィスに欠かせない事務用品の一つが「はさみ」。すでに完成された道具という印象もありましたが、2012年にプラス株式会社が「フィットカットカーブ」を発売以来、刃の形状やコーティング、取り付け位置などを見直した新製品が国内メーカー各社から登場し、優れた切れ味や幅広い用途をアピールしています。
今回はそんな各製品が備える独自の設計と機能性を紹介します。
意外と知らない!はさみが切れる理由とは
各製品を紹介する前に、はさみの根本的な構造を確認しましょう。これを頭にいれておくことが、後述する新設計のはさみの凄さを理解する助けとなります。
はさみの原理は意外に複雑です。刃先がそれほど鋭いわけではなく、指で軽く触れただけではケガもしませんが、それでもしっかり切れるのは、2枚の刃で挟み込む1点に力を集中し、対象物を「引き裂いている」からです。
指からの力を受け止めるグリップのデザイン、2枚の刃を連結する支点の加工精度、テコの原理で力を伝える刃の形状など、それぞれが切れ味に影響します。古典的ながらもメーカーの知恵が試されるツールなのです。
30度の刃の曲線で3倍の切れ味「フィットカットカーブ」
新設計はさみの先駆的存在として2012年1月に発売以来、シリーズ累計で1,200万本を超えるヒット商品に育ったのが、プラスの「フィットカットカーブ」です。
フィットカットカーブは、オフィスにおけるはさみが、薄い紙を切る以外に、厚い段ボールや軟らかいビニールなどにも使われているという実態をふまえ、多様な素材を軽い力で切れるように設計されている点がポイントです。
最大の特徴は、切断時に開く角度をおよそ30度に保つ「ベルヌーイカーブ刃」。しっかり対象物をとらえ続けることで、テコの力がしっかり働き、同社の従来品比で3倍軽い切れ味が実現できたといいます。
ラインナップも豊富で、上位モデルでは、ガムテープなどの粘着製品を切る際にべたつきを抑えるため、刃にフッ素コートやチタンコートを施しています。さらに、構造上の工夫で切断後の対象物と接触しにくい「3D 設計刃」を採用したモデルもあります。また、今年7月にはCD-Rや針金も切れる「万能タイプ」がラインナップに加わりました。これらモデルの一部には、右利き用と刃の合わせ方が異なる「左手用」が用意されています。
刃先のカット力をアップ「エアロフィットサクサ」
軟らかい樹脂製のグリップを採用したハンドル内部に空洞を設け、さまざまな握り方にしっくりとなじむ「エアロフィット」シリーズは、コクヨグループが2009年に発売した、はさみの主力モデルです。その追加ラインナップとして、刃の形状を見直し、切れ味を向上させたのが、2013年7月に登場した「エアロフィットサクサ」です。
本製品は、特に刃先の切れ味を軽くした点が特徴です。はさみがより少ない力で大きな仕事をするためには、力が働くポイント(作用点)をなるべく支点に近づけることが必要です。しかし、一般的にはさみは刃先に行くほど支点から遠くなる傾向があります。
エアロフィットサクサが採用した「ハイブリッドアーチ刃」は、刃先にカーブを設けることで、対象物に加わる力を強める構造になっており、同社従来品に比べて4倍多い枚数を切ることが可能としています。
さらに、粘着テープを切ってものりが付きにくいよう、切断の瞬間以外は刃と刃が接触しない「グルーレス構造」を採用したタイプや、フッ素コートやチタンコートを加えたモデルもあります。ハンドルの形状は左右対称・非対称の2種類。左手用のモデルもあります。
左右非対称には理由がある「スウィングカット」
起伏に富んだユニークな形状が目を引くはさみが、レイメイ藤井が2014年に発売した「スウィングカット」です。
最大のポイントとなっているのが、2枚の刃を連結する支点の位置。通常のはさみは支点が刃の中心線上にありますが、スウィングカットでは中心線をあえて外す「スウィング構造」を採用。使用時に刃を動かすと、対象物に向かって斜めに入っていく「引き切り効果」を実現しています。これによって、刃が垂直に入る場合に比べて軽く、なめらかな切れ味が得られる構造となっており、同社従来品との比較で約5倍の切れ味を実現しているということです。
ずらされた支点は、切り終えた対象物を下方に流していくガイドの役割も果たすため、作業がスムーズに進められるのも特長です。
より使いやすい製品を目指し、各社は独自のアイデアを出して競い合っています。ぜひ「切れ味」を、オフィスで使い比べて体感してみてください。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年10月21日)のものです。
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