2024.09.09 (Mon)

自治体ならではのICT活用(第7回)

自治体DXのカギ 外部人材を有効に活用するコツは

 デジタル・トランスフォーメーション(DX)を地方自治体が推進するにあたり、担い手となるデジタル人材の確保と育成が喫緊の課題となっています。特に職員数の少ない自治体では外部の人材による伴走支援が有効とされていますが、実際に活用できている団体は少数にとどまります。本記事では、先行する自治体のDX事例をふまえ、外部人材を有効に活用する上で留意すべき点を見ていきます。

導入困難な団体が多数、自治体DXにおける外部人材活用

 2025年から15年間に現役人口(20~64歳)が約1,000万人も減少するとされる「2040年問題」によって、地方自治体のサービスやインフラの維持は困難になると予想されます。住民ニーズや地域の抱える課題も多様化・複雑化する中で、その変化に柔軟に対応し、行政サービスを安定して提供していくために、自治体ではデジタル活用による業務改善やサービスの見直しが求められています。

 自治体DX推進のカギとなるのが、担い手となるデジタル人材の育成と確保です。これは、すべての職員がデジタル技術を取得するということではありません。あくまで地域住民の視点から業務やサービスを見直し、デジタルを活用して解決策を模索・実行できる役割分担とそれに応じた人員配置が重要です。2013年12月、総務省が策定した「人材育成・確保基本方針策定指針」でも、課題に見合ったデジタル人材のイメージや役割を整理し、求める人材のレベルに合わせて計画的に育成や確保に取り組む方針が盛り込まれています。

 また単独ではDX推進が難しい市区町村においては、都道府県による支援や市区町村同士の連携をはじめ、外部人材による支援が有用とされています。しかし実際にそうした人材を任用し、活用できている自治体は多くありません。総務省が全国の自治体を対象に実施した調査によれば、DXを推進するための外部デジタル人材を任用している市区町村は全体の2割弱、活用している市区町村は3割にとどまっているのが現状です。

課題の特定から始める、外部デジタル人材活用の「段取り」

 自治体での外部デジタル人材の活用が進まない最大の原因は、組織が「外部デジタル人材に求める役割やスキルを整理・明確にすることができないから」という点です。この状況を受け、総務省による「自治体DX外部人材スキル標準」では、自治体DX推進に必要とされる人材像とそれぞれに求められる役割やスキルを提示しました。具体的には、人材像はプロデューサー(CIO補佐官等)、プロジェクトマネージャー、サービスデザイナー、エンジニアの4つに分類されており、各自治体が必要な部分に応じて外部人材を任用することが推奨されています。

 さらに、2024年5月に市区町村に向けて提供された外部デジタル人材の確保ガイドブックでは、下記の通り人材確保のための4ステップが示されています。

① 人材確保の“重点課題”の特定
関係部局にアンケートやヒアリングで業務上の課題を聞き取りし、その結果をふまえて、優先的に取り組むべき課題を特定します。

② 人材要件の定義
特定した課題に対して、業務上必要となるデジタル人材の要件や確保の形態などを検討します。例えば、具体的なシステムの実装やローコードなどの知見の支援が必要という場合にはエンジニアのスキルが求められますし、取組の優先順位が明確でない場合には、予算やスケジュールを検討し企画に落とし込めるプロジェクトマネージャーが必要です。そうして求める人材像が決まったら、人事・財務担当と雇用形態などを相談します。

③ 人材の選定
人材の募集・選定を行う際に重要なのが、組織が求める人材像を明確に発信することです。組織側の課題と候補者のスキルや経験を入念にすり合わせることで、受け入れ後のミスマッチを防ぎます。

④ 人材の受け入れ
外部人材がスムーズに業務を開始できるよう、業務分掌や権限の設定を行います。主体的に業務に取り組めるよう、庁内文化の理解や関係者とのコミュニケーション促進を図ることも大切です。

 この段取りの前提となるのが、DX担当者だけでなく業務を遂行する部局、人事や財務などを含む庁内全体を巻き込んだ取り組みです。段階を通して庁内全体のDXに対する意識が醸成されることが、円滑にDXを進める上で不可欠だからです。

自治体DXの先行事例に学ぶ、ICT専門家による伴走支援の効果

 自治体DXにおける外部人材の活用の形は多岐にわたります。ここでその成功事例の一部を紹介します。

 青森県大鰐町は、職員数が少ないために自治体DXに遅れが生じていたところ、内閣府の地方創生人材支援制度を活用し、地方創生に関するICT分野の専門家をデジタル推進アドバイザーとして受け入れました。

 同アドバイザーの役割は、現場へのヒアリングをふまえた課題の定義とそれに対するDX施策の伴走支援です。職員の負担となっていた要介護認定業務に目をつけ、低コスト・ローコードで訪問調査アプリと進捗管理ツールの開発を提案・遂行。業務の効率化が図れたほか、アプリ開発の際の実証実験を通じて職員のDXに対する意識も醸成されました。

 長野県中野市では、DXの計画やソリューション提案を支援する外部アドバイザーを採用。庁内の申請手続きや決裁のデジタル化をはじめ、保育園の業務支援ソリューションや観光促進のための施策など、広範囲でのDX支援を行いました。また案件ごとの支援だけでなく、内部職員のITパスポート取得の研修など、デジタル人材の育成にも関与しています。さらに同市では、DXに関する知識や経験を享受するだけでなく、それを人事評価の項目に盛り込むことで、庁内全体のDXに対する意識強化を図りました。

デジタル人材確保でありがちな失敗を防ぐためには

 外部人材を活用する上で、陥りがちな落とし穴もあります。例えば、庁内全体にDXの意義やビジョンが浸透しないまま、専門人材にDX業務を任せきりにしてしまえば、職員の期待値との齟齬が起きたり、案件で培われた知見やスキルが内部職員に認知されなかったりします。先に紹介した事例は、外部人材の知見やスキルに頼り切るのではなく、庁内全体をDXのプロセスに巻き込んだことが功を奏した成功例だといえます。

 自治体のDXは本来、一時的なプロジェクトとして終わるものではなく、社会や地域の環境の変化に合わせて持続的に行われるべきもので、そのためにも組織内外の視点を柔軟に取り入れていくことが必要です。その意味で、今後も外部人材による伴走支援を検討してみるのもよいでしょう。

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