2024.03.29 (Fri)
教育ICTの選び方(第4回)
ネットワークアセスメントとは? 学校における重要性と実施方法を解説
GIGAスクール構想をきっかけに全国の学校でICT環境の整備が進んでいます。しかし構想を支えるネットワーク環境は万全とは言えず、授業を円滑に進めるためには見直しが必要なケースがあります。本記事では、文部科学省が実施を推奨している「ネットワークアセスメント」について紹介します。
ネットワークアセスメントとは? GIGAスクール構想の実現には欠かせない
2019年に文部科学省は、全国の小中学校に1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを整備して新しい学びの形を実現する「GIGAスクール構想」を打ち出しました。
GIGAスクール構想を受けて、義務教育段階における1人1台端末が整備された自治体は2022年度末時点で99.9%となりました。校内通信ネットワークの併用を開始した学校の割合も、2022年9月1日時点で99.9%になっており、ICTを活用した新しい教育環境への下地が整ってきています。
環境の整備が着実に進む一方、さまざまな課題も浮き彫りになっています。2023年2月に文部科学省は「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」を公表しました。それによると「ログインに時間がかかり授業開始が遅れる」「全校生徒が一斉に端末を利用するとネットワークに接続しにくくなる」「授業中、ネットワークへの接続が切断される児童生徒がいる」「動画視聴時に、映像の乱れが発生したり、スムーズに再生できない」などの不具合が発生しています。心当たりのある学校も多いのではないでしょうか。
しかし、2022年9月1日時点では、ネットワーク環境のアセスメント(分析・調査)を実施していない自治体が46.6%と半数近くを占めていました。このような状況から、文部科学省は学校に対して、校内通信ネットワーク環境のアセスメント(分析・調査)の実施を強く推奨。2023年度初頭にはその必要性について、文部科学省は学校に再度周知を行いました。また令和5年度の補正予算でも、ネットワークアセスメント実施促進事業が盛り込まれました(総額23億円、補助割合3分の1、補助上限100万円)。
その中では、今後、デジタル教科書やデジタル教材の利活用が本格化していくことで、文部科学省CBTシステム(MEXCBT)による全国学力・学習状況調査など、教育現場においてさらに大容量の通信が発生していく想定について言及。現時点で通信ネットワークに特段の問題が生じていない自治体についてもアセスメントの必要性が述べられています。
ネットワークアセスメントはどのように実施すればよいか
ここからはネットワークアセスメントの実施方法についてご紹介していきます。
・ネットワークアセスメントの実施方法
ネットワークアセスメントでは、問題のヒアリング、ネットワークの構成確認、分析・診断、診断結果報告、対策の提案といったフローを踏んで行われます。これらのフローにおいて、文部科学省は「ネットワークアセスメントは学校教職員や教育委員会担当者のみで行うと、正確な評価や不具合原因の特定を行うのが困難」と述べており、通常は知見を有した外部専門家とともに実施していくこととなります。
・ネットワークアセスメントの項目と仕様例
分析・調査については一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会が確認項目を整理しており、いくつか例を挙げて紹介します。
一つ目は、校内に設置されたルーターです。ネットワークを中継する機械であるルーターの性能は、通信速度アップに大きな影響を及ぼします。メーカーや型番、年式、設定内容などをチェックします。
二つ目は、校内LANです。ネットワーク全体の把握、ルーターまでのハブの数や型番、利用しているLANケーブルの種類などを確認します。
三つ目は、Wi-Fiです。種類、暗号化種別、周波数、周囲の環境、主に2.4GHz帯を利用する他の機器の有無などを確認します。
他にも、全体的なネットワーク構成やインターネットへの接続方法(接続形式、回線種別)、インターネットサービスプロバイダ(ISP)との契約条件などが確認項目として挙げられます。
・ネットワークアセスメントの費用と補助金
アセスメントの実施にあたり、仕様書作成業務に係る経費やアセスメントの実施経費、アセスメントによって発見されたトラブルに対する応急対応に係る経費は、GIGAスクール運営支援センター整備事業の補助対象になっていました。
2023年度補正予算には、ネットワークアセスメント実施促進事業が盛り込まれました。都道府県、市町村等が、民間事業に委託するネットワークアセスメント実施に要する費用の一部を国が補助するとしています。補助率は3分の1、補助上限は100万円です。
ネットワークアセスメントで確認できること
ネットワークアセスメントを実施することで接続が遅いなどの不具合の根本的な原因を確認することができます。文部科学省資料「ネットワークに関する課題解決事例」からユースケースとしてご紹介します。
・課題:機器の性能不足
まず、複数の学校が集約拠点を設けてインターネットに接続していた例です。各学校でICT端末とその利用頻度が増えたことでインターネットへのアクセス量が増加。プロキシサーバー(中継サーバー)の処理能力を超過したことで、接続不良が発生していました。
この事例では、暫定処置として、通信がプロキシサーバーを経由しないように設定変更を行ったところ、通信速度が改善したといいます。プロキシサーバーに限らず、ルータやファイアウォールなどの機器も性能不足の場合、ネットワークのボトルネックとなりえます。
・課題:セッション数の不足
この事例では、回線の帯域は十分であったのに、一部末の通信が遅延したり、待ち状態になるという事象が発生していました。
背景には、インターネットサービスプロバイダ(ISP)の仕様により同時セッション数が少ない場合があったり、1つの端末から複数のセッションを使うクラウドサービスでは少人数でも上限に達してしまうといったことがあります。もし授業中、一部生徒の端末の通信に不具合が生じるとその授業を円滑に進めていくことは難しくなります。それが頻発すると教育環境の質そのものが低下しかねません。
この事例では、IPを固定にすることで最大6万程度のセッションを利用可能となること、集約接続はセッション数不足になる可能性が高くなるため、各学校からの直接接続など構成を検討する必要があることが、アセスメントによって明らかになりました。
・課題:サイト側のセキュリティ機能の発動
ある自治体では、各学校を集約する接続方式を採用していました。しかし、多くの生徒が同じ動画教材サイトに同タイミングでアクセスしたところ、アクセスが遮断されるトラブルが発生していました。調査の結果、教材サイト側のセキュリティ機能が、短時間で多くのアクセスがあったことで、サイバー攻撃を受けたと自動的に認識したことが原因だと判明。多くの端末で一斉に特定サイトにアクセスするのは避けるべきことや、集約拠点側の設定でアクセスを分散できないか検討すべきことがわかりました。
この例は、動画教材サイトのセキュリティ機能によってネットワークの不具合が生じたものですが、アセスメントを実施することは、セキュリティに関わる機器やネットワークの課題、脆弱性の有無を点検する機会にもなることを示唆しています。
このようにアセスメントを実施することで、ネットワーク環境の改善や教育環境の向上、情報セキュリティ強化のための課題を確認でき、有効な対策を立てることができます。快適なネットワークでデジタルをフル活用した教育環境を実現するために、ネットワークアセスメントを是非実施していただきたいです。
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