2020年度の小学校を皮切りに、2021年度に中学校、2022年度に高等学校と順次、新学習指導要綱が実施されます。小学校において「プログラミング教育」が導入されるなど、「情報活用能力の育成」が重視されています。さらに、ICTを適切に活用した学習活動の充実が求められ、必要なICT環境を整えることも各段階の新学習要綱に盛り込まれました。
2017年8月に文部省の「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」がまとめた最終報告では、前述の学習活動におけるICT活用だけでなく、それを支えるバックヤード業務である“校務(学校事務)”におけるICT活用の必要性も提言されています。教員の過重労働が問題視されるなか、働き方改革の推進のためには、校務におけるICT活用は極めて重要です。
現在、教育・研究機関でのICTの導入はどのくらい進んでいるでしょうか。導入実態に関して、インターネット調査を実施し、回答者全体と比較してみました(調査は日経BPコンサルティングが3483人を対象に2019年3月に実施)。
導入・運用担当者の配置比率は平均を上回る
ICTを導入し、運用するためには、その担当者を置くことが不可欠です。1人以上の担当者(兼務者含む)を置いているのは全体では72.8%でした。教育・研究機関に限ると83.8%に比率が上がります。ただし、教育・研究機関では「兼務で1人だけいる」の比率が16.2%あり、全体の10.0%よりも高くなっています。非常に忙しい教育・研究機関の業務の中、たった1人で、しかも兼務で取り組んでいる方がかなりいるようです。
それでは次に、どのようなICTをどのくらいの比率で利用・導入しているのか見ていきましょう。まずはICT利活用の基盤となる「パソコンの配備」の比率。全体では70.7%ですが、教育・研究機関は、それを上回る75.5%でした。2018年10月に文部科学省が発表した「2017年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」でも、教員の校務用コンピューターの整備率は119.9%(1人1台に加え、共用があるため100%を超えます)と非常に高くなっています。教育用コンピューターも児童生徒5.6人に1台用意されるまでになっています。ただ、「スマホ・タブレットの配備(貸与)」の比率は30.9%と全体の41.5%よりも10ポイント以上低くなっています。
「パソコンの配備」だけでなく、「プロジェクター・大型ディスプレー」「Wi-Fi環境の整備」「ギガビットクラスの高速ネットワーク環境」「サーバー導入」、「業務支援システム」「情報系システム」「不正アクセス対策」といった多くの項目で、教育・研究機関の利用導入比率は全体を上回っています。特に業務(事務・校務)支援システムの利用は全体よりも10ポイントも高い50.0%に達しています。約半分の学校はICTを使った校務負担の軽減に、すでに取り組んでいるのが分かります。
セキュリティに関する関心が高い
ICTの利用・導入について現在抱えている課題に対する回答でもっとも比率が高かった課題は、「IT人材不足」(19.1%)でした。ただし、全体平均との比較では5ポイント以上低くなっています。2番目に多かった「投資費用の確保」も全体平均よりも低くなっています。それに対して、3番目の「セキュリティが不安」(14.9%)は、全体平均よりも3.5ポイント高くなっています(図3)。業種別に見ても「セキュリティの不安」を上げた比率が教育・研究機関よりも高かったのは「金融・証券・保険」(15.3%)「専門サービス(弁護士・会計士など)」(15.8%)、「政府・官公庁・団体」の3分野でした。この3分野は、特に個人情報の管理に力を入れています。それらと同様に学校が、生徒の個人情報の管理に、神経を使っているのが回答率の高さから読み取れます(図4)。
ICTの導入は、過重労働にあえぐ教育現場改善の手立てとして期待されています。文部科学省の支援の結果、パソコンの配備、ネットワーク環境の整備などはある程度進んでいるといえます。しかし、現場では導入後の課題がわからず、今後の展望も不明確な可能性も否めません。教育・研究機関が現在抱えるICT導入の課題に対する回答で一番多かったのは、図3の通り、「分からない」が圧倒的で40.4%に上ります。
こうした現状を打開する手段として、ICT支援員の採用や外部のICT専門家の力を借りることが考えられます。学校の教員はICTの専門家ではありません。せっかく整備が進んだICT環境を生かすためには、専門知識が不可欠です。また、ICT運用によって教員の業務負荷が増しては意味がありません。働き方改革を進めるためには、ICT運用の負荷を軽減を図るといった視点から、ベンダーを選定したり、アウトソーシングを検討したりする必要があるのではないでしょうか。
連載記事一覧
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