学校は学びの場だけでなく、地域のコミュニティの核となる場でもあります。子どもたちの主体的な学びを深めていきながら、地域づくりの核としていく。地域の活性化につながる学校の先進的な取り組みを紹介しましょう。
県立高校を軸に島おこしをする島根県海士町
文部科学省は、2020年度に小学校、21年度に中学校、22年度に高校と、学習指導要領を改訂します。共通するのは、「主体的・対話的で深い学び」の視点です。生きる力を育むために、子どもたちの主体性を伸ばすのが目標です。
子どもたちの主体的な学びには、学校を取り巻く地域の協力が欠かせません。こうした観点から学びを地域づくりの核として、特色ある教育を推進する学校もあります。
その代表例のひとつが、高校を中核に島おこしを成功させている島根県海士町と、島根県立隠岐島前高校(島前高校)です。かつての海士町は、高齢化率が約40%でした。超少子高齢化の中で、島前高校は2008年入学者数が28人になり統廃合の危機に直面しました。
島前高校は隠岐島全地域唯一の高校です。その存続は地域の存続と直結するという危機意識から、「島前高校魅力化プロジェクト」を発足。地域総がかりで危機脱却への取り組みを進めました。
「地域創造コース」を新設し、地域の課題解決授業を実施。地域の課題解決方法を高校生たちが自分なりに考える授業です。また、海士町と高校の連携型公営塾「隠岐國学習センター」を設立して、自主的に学べる教育環境の整備にも力を入れました。遠隔授業システムを利用して、県外の高校と地域課題の解決法を発表し合う授業など、高校生みずからが課題を考え抜く主体的な学びを実現しています。さらに、地域内外の大人も参画する議論の場も設けました。全国・海外から生徒を募集する「島留学」も実施しています。
こうした取り組みの結果、島前高校への入学希望者は増え続け、学級増、人口増を実現しました。2008年89人だった生徒は2012年には156人に。地域の過疎化も止まり、人口は2011年2288人から2014年には2364人とわずかですが増加しました。「いずれ島に戻り、世界のモデルとなる町にしたい」と夢を持つ生徒も増えています。
地域住民が企画を立てる小中学校も
こうした学校を核にした地域活性化の取り組みは海士町だけではありません。廃校を新しい高校に生まれ変わらせて、地域課題の解決に挑んでいるのが高知県立黒潮町です。同町では、地域にある大方商業高校が2008年に廃校が決定。校舎が地域最大の空き家になり、地域全体の衰退が懸念されました。
地域の衰退を防止するため、大方商業高校を新しい高校として生まれ変わらせ、地域活性化の拠点としようと計画がスタートします。大方高校開校に向け、教職員や地域住民などからなる「学校の未来を語る会」を設置。基本方針や教育課程、校歌などに至るまで議論した上で、大方高校を2005年に開校させます。翌年にはコミュニティスクールに指定されました。
大方高校では、生徒の発想力やコミュニケーション力、地域理解の育成を図っています。地域活性化を目指した取り組みとして、高知大学と連携して開発した「自立創造型課題解決学習プログラム」を総合的な学習の時間として実践しています。
例えば、2年次には、企業やNPO、町役場の人たちから提案される地元課題に関連したミッションの解決策を検討し、発表します。地域と連携した授業により、生徒の地域理解が深まるだけでなく、地域の課題解決や活性化に大きく寄与します。学習プログラムで開発された「カツオたたきバーガー」や「流木を活用したベンチ」などの商品がヒットし、地域のPRに役立っています。
プロジェクト実現を支えるICTの力
小中学校での取り組みもあります。児童生徒数減少の中で、子どもたちが夢と希望を抱けるまちづくりを進めるのが北海道浦幌町です。児童生徒数が約30年間で4分の1強にまで減ったことに危機感を持った同町。2007年に町役場、教育委員会、農協、商工会、森林組合、漁協などで構成した「うらほろスタイル推進協議会」を設置し、「うらほろスタイル教育プロジェクト」をスタートさせました。
地域への愛着を育むため、地域の魅力などの体験活動を行い、町を活性化させる企画を行っています。「子どもの想い実現事業」では、中学生が提案した企画を地域の大人が実現するプロジェクトです。「農村つながり体験事業」では、町内の小学生を対象に農林漁家で生活体験してもらう取り組みも行いました。
こうした努力によって、地域が好きな児童生徒や、将来地域で働きたい、暮らしたいと思う子どもが増加し、地域への自信や誇りの向上につながりました。
学校の主体的な学びにより、地域活性化を実現する取り組みが全国各地に広がっています。学校は地域の核となります。教職員の役割がますます大きくなっていくでしょう。ただ、忙しい教職員が主体的な学びをサポートするには、既存の仕事の効率化が必要です。既存のさまざまな業務負担を軽減しなければ、主体的な学びにまで手が回らないでしょう。ひいては地域の活性化にもつながりません。教職員用のICTツールを活用するなどして業務を効率化し、主体的な学びの実現に力を注ぐ体制が求められています。
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