2019.03.26 (Tue)

生徒のために学校が変わる(第2回)

学校こそ働き方改革!長時間労働から教員を救え

posted by 山本 貴也

 「働き方改革関連法案」が、2019年4月から順次施行されます。同法案の柱は「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現」と「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の2つ。中でも前者の長時間労働の是正に関して、具体的な内容が多数盛り込まれています。

 日本では、長時間労働が労働者の健康に悪影響を及ぼし、適切なワークライフバランスを実現する障害になっていることが指摘されています。働き方改革法案では多様な方法で労働時間を短縮し、こうした問題の改善につなげようとしているのです。

 すでに多くの企業が、深夜残業を禁止したり、終業時間になったらPCを強制的に落としたりする取り組みで、長時間労働の改善を図ろうとしています。ただ、長時間労働が問題視されているのは企業だけではありません。非常に深刻なのは教員です。

教員の長時間労働、さらに悪化傾向

 教員の長時間労働の実態はデータに表れています。文部科学省は2016年度、小学校、中学校、それぞれ約400校を対象に「教員勤務実態調査」を行いました。それによると、1日あたりの平均学内勤務時間は、小学校で教諭が11時間15分、講師が10時間54分。中学校では教諭が11時間32分、講師が11時間17分となっています(教諭は教員採用試験に合格した正教員。講師は教員採用試験に合格していない非正規雇用の教員)。

 厚生労働省が2016年度に行った「就労条件総合調査」によると、全産業の1日あたりの平均労働時間は7時間45分です。小学校でも中学校でも勤務時間は全産業平均をはるかに上回る数字で、労働時間の長さが際立っています。

 より問題なのは、こうした長時間労働が改善されるどころか、悪化傾向にあるところです。前回、2006年度の「教員勤務実態調査」のデータと比べると、小学校の教諭は43分、講師は25分、中学校の教諭は32分、講師は13分、平均学内勤務時間が増加しています。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、一般労働者の年間の平均実労働時間は、2006年の1811時間から2016年は1724時間にまで減少しています。そんな流れに逆行して勤務時間が増加しているのです。

 しかも、この勤務時間は学内の平均に過ぎません。教員には家で行う持ち帰り業務が、少なからずあります。その平均が小学校の教諭で1日あたり29分、中学校の教諭で20分もあるのです。教員は長い学内勤務時間を終えて自宅に帰っても休めません。

病気や死亡で多数が離職する現実

 なぜ、教員の勤務時間はこれほど長くなるのでしょうか。その大きな理由として、業務の多様さが指摘されています。授業とその準備はもちろん、成績処理、職員会議、保護者・PTA対応など、業務は多岐にわたります。

 そうした業務の中でも、取りざたされるのが部活動の負担です。部活動の顧問になると、平日に練習の指導を行うだけでなく、大会で土日も時間が割かれるケースが少なくありません。時間的にも体力的にも教員を追いつめています。

 「校務分掌」も、教員の業務で少なからぬ割合を占めます。これは、学校運営に必要な業務を、手分けして受け持つものです。学校説明会の運営、年間行事予定の作成、推薦入試・就職希望者の面接練習、登下校指導などが該当します。

 こうした厳しい労働環境は、教員の離職率に反映します。2015年3月に卒業した大卒就職者の就職後3年以内の離職率は、全産業平均で31.8%。これに対し教育・学習支援業は46.2%と、約1.5倍です。

 文部科学省実施の「学校教員統計調査(平成28年度)」によると、幼稚園から高校までの教員数は約110万6000人。一方、離職者は約4万7000人でした。理由で一番多いのは「定年(勧奨を含む)」だったものの、「病気のため」で約1600人が離職しています。「死亡」による離職も450人を超えています。病気や死亡の原因が、すべて長時間労働に関連するとは限りませんが、教員の置かれた苦しい状況が読み取れます。

 2019年1月、文部科学省の中央教育審議会は、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(以下:学校の働き方改革)を取りまとめました。答申の中には、次のような率直な危機意識が述べられています。

 「志ある教師の過労死等が社会問題になっているが,子供のためと必死になって文字通り昼夜,休日を問わず教育活動に従事していた志ある教師が,適切な勤務時間管理がなされていなかった中で勤務の長時間化を止めることが誰もできず,ついに過労死等に至ってしまう事態は,本人はもとより,その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに,児童生徒や学校にとっても大きな損失である。さらに,不幸にも過労死等が生じてしまった場合に,勤務実態が把握されていなかったことをもって,公務災害の認定に非常に多くの時間がかかり,遺族又は家族を一層苦しめてしまうような事例も報告されている」

ICT活用で、校務に費やす時間を最小化する

 長時間労働の是正について、答申では次の5つの視点から検討をしています。特に注目すべきは(2)の「業務の明確化・適正化」でしょう。多岐にわたる業務が長時間労働の大きな要因なだけに、教員の業務をどのように明確化・適正化するかが不可欠です。

(1)勤務時間管理の徹底と勤務時間・健康管理を意識した働き方の促進
(2)学校及び教師が担う業務の明確化・適正化
(3)学校の組織運営体制の在り方
(4)教師の勤務の在り方を踏まえた勤務時間制度の改革
(5)学校における働き方改革の実現に向けた環境整備

 そして、答申では教員の負担軽減のための業務見直しの対象として、次の3つを挙げています。

・基本的には学校以外が担うべき業務
・学校の業務だが,必ずしも教師が担う必要のない業務
・教師の業務だが,負担軽減が可能な業務

 こうした業務の中には、バックヤード業務である校務が数多く含まれます。実際、生徒と触れ合う時間を最大限に確保しながら、長時間労働を是正するには、校務に費やす時間を最小化しなくてはなりません。

 有力な手段には、ICTの活用が考えられます。例えば、保護者との連絡に学校向けのメール連絡サービスを利用すれば、より手間をかけずに行えるでしょう。ほかにも、タブレットによる授業のサポートや成績のデータ管理、各種帳票の作成、学校内情報共有など、校務を省力化するシステムは数多く提供されています。このようなソリューションを利用すれば、教員の負担を幅広い領域で軽減できるのは明らかでしょう。

 実際、先進的な取り組みとして、群馬県では2007年から小中学校に「群馬県版校務支援標準システム」の導入を進めていますが、多くの教員が効果を認めています。2012年4月、システムを導入した県内の小中学校などの教職員4503人に対して行ったアンケート調査の結果では、7割以上が子どもとのふれあいや指導、授業準備などに当てる時間が増えたと感じています。

 生徒と向き合う時間を大切にしつつ、長時間労働を是正する。そのためには、一般企業以上に、ITの積極的な活用が求められるのではないでしょうか。

山本 貴也

山本 貴也

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