LGWANは、地方公共団体の組織内ネットワークを相互接続する、いわば"行政専用"のネットワークです。総務省が掲げる自治体DXを推進する取り組みとして注目を集めていますが、LGWANはあくまでもインフラに過ぎません。LGWANで何を実現するかを考えることが、自治体DXを推進する上では不可欠です。ここでは、LGWANを活用することでDXを実現している事例を紹介します。
LGWANのメリットは効率化・コスト削減・住民サービス向上
LGWANは「Local Government Wide Area Network」の略で、日本語では「総合行政ネットワーク」と呼ばれています。地方公共団体の組織内ネットワーク(通称:庁内LAN)と相互に接続することで、地方公共団体間のコミュニケーション円滑化と情報共有を実現します。2001年度から運用がスタートし、現在はすべての都道府県と市町村で接続されているほか、一部の事務組合や広域連合での接続も進められています。
地方公共団体情報システム機構は、LGWAN導入のメリットとして以下の3つを挙げています。
1.行政事務の効率化
地方公共団体間だけでなく、政府共通ネットワークとも相互接続することで、広範な情報共有ができるようになり、行政事務の効率化・迅速化が可能になります。
2.重複投資の抑制
あらゆる地方公共団体に対応できる汎用的な情報通信ネットワークを構築することで、ネットワーク関連への重複投資の抑制、維持・運用費の削減を促進します。
3.住民サービスの向上
住民生活に必要な行政情報の提供、申請・届出の手続きの電子化を行い、国と地方公共団体で一体化された行政サービスを提供することで、住民サービスの向上に寄与します
近年、総務省は自治体DXの実現に向けて電子化・ペーパーレス化や各種様式・帳票の標準化、AI・RPAなどのICT活用といった方策を積極的に進めています。LGWANはこれらの取り組みを支える重要なインフラ基盤となっているのです。
地域の行動情報をデータ化し、人口推移や出生率を予測
すでに全国各地の地方公共団体では、LGWANを活用することで業務効率化やサービス向上を実現した事例がいくつもあります。
兵庫県姫路市は、データ分析を行政サービスに生かすべく、民間企業と共同開発でLGWANと連携した行動情報分析基盤を開発しました。人口の分布や移動を分析し、集計表やグラフだけでなく、時間経過も含めて地図上で表示することで、誰もが簡単に使えるように工夫。さらに、地域ごとに人口の推移や出生率、生残率、移動率を予測する機能も整備しました。分析データは保育所の適正配置や特定健診の受診率分析などに活用され、各種データ作成業務の効率化にもつながっています。
愛知県では、LGWAN環境で共同利用できるAI-OCRサービスを、県内42団体に導入しました。同サービスは従来のOCRでは読み取りが難しかった手書き文字をAIにより高精度で読み取ることで、これまで職員が手動で入力していたデータ化業務の自動化を実現したのです。自治体システムに取り込めるCSV形式に変換できるため、各市町村でソフトウェアをインストールする必要もなく、簡単にサービスを利用できるように。業務効率化や職員の負担軽減を実現しています。
LGWANのセキュリティ向上に取り組んだのが、徳島県です。LGWANはネットワーク環境におけるセキュリティは確保できるものの、エンドポイント(端末)でのファイル受け渡しの際にすべての種類のファイルをサニタイズ(無害化)できない点が課題でした。そこで、同県はサイバーセキュリティ領域の民間企業と共同で実証実験を行い、エンドポイントセキュリティ製品を利用したサーバー攻撃のシミュレーション訓練を実施。通常のウイルス対策ソフトでは検知できなかった不審なダウンローダーの検知、検知ファイルの詳細な分析ができたことから、実証実験後に徳島県庁総合サービスネットワーク5,200台へ導入し、セキュリティを向上させました。
2000件以上のLGWAN-ASPサービスが、自治体DXをサポート
これらの取り組みを支えているのが、LGWANを通して地方公共団体に各種行政事務サービスを提供するLGWAN-ASPという仕組みです。2020年10月現在、主に府省、地方公共団体、公益法人、民間企業から、2,221件ものLGWAN-ASPサービスが提供されています。特に民間企業が手がけるサービスには、地方公共団体のニーズを捉え、品質や使いやすさにこだわったものが多くラインナップされています。
例えば、自治体GIS(地理情報システム)をクラウドで管理・更新・活用できる共通基盤を構築し、さらに都市計画や経済分析、下水道マネジメント、固定資産税といった個別業務に特化したサービスをオプションで選択できる行政業務支援システム。自宅からLGWAN接続系の業務用端末にアクセスできる自治体テレワークシステム。LGWAN環境での職員の研修や人事評価、ストレスチェックを可能にし、職員1,000人の教育管理が1人でできる学習管理システム。LGWAN環境で複数の自治体と共同利用もできるビジネスチャットツールと、各種ニーズに応じたLGWAN-ASPサービスが多数あります。
2020年10月には、ベンチャー企業や小規模自治体の利用が想定される帯域を中心に、要件を満たしたLGWAN-ASPサービス提供者に対して、LGWAN-ASP接続料金の減額制度がスタート。今後、LGWAN-ASPサービスはさらに充実していくことになるでしょう。自治体DXの実現にはまだ課題がありますが、高品質なLGWAN-ASPをうまく活用しながら"次世代型の自治体"が増えていくことが期待されています。
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自治体DXの推進には、先行している自治体の事例が参考になります。ここでご紹介するのは、自治体のDX事例資料をおまとめしたセットです。何を導入し、業務がどの程度効率化できたのか、ぜひご自分の目で確かめてみてください。
【業種別ソリューション】公共・自治体 自治体DX
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