2021.10.29 (Fri)

AI・IoT最新事情(第3回)

製造業で導入広がる、AI外観検査の可能性

 人手不足が深刻化している製造業界。特に、製品の外観をチェックして不具合の有無を見定める外観検査は、熟練者の技術・経験を必要とするため技術継承が大きな課題となっていました。しかし近年はAI技術の一つであるディープラーニングによる画像認識を活用し、外観検査を自動化する動きがはじまりつつあります。今回は、製造業のデジタル化はどの程度進んでいるのか、AIによる外観検査などをご紹介します。

AI技術の発達が、検査工程の業務効率化をサポート

 2021年5月に経済産業省、厚生労働省、文部科学省が共同で発表した「2021年版ものづくり白書」によると、2020年時点の国内製造業就業者は1045万人。この20年間で157万人も減少しました。34歳以下の若年就業者にいたっては、2002年と比べて125万人が減り、259万人となっています。製造業の就業数は、今後も減少の一途をたどっていくと考えられます。

 一方で、ものづくりの工程・活動においてデジタル技術を「活用している」と答えた企業は54%という結果になりました。また今後5年間、主力製品の製造に関わる多くの作業には「今までどおり熟練技能が必要」と回答する企業が50%を超える状況ながらも、70%以上の企業が作業担当者に「デジタル技術を活かすための能力を身につける」ことを求めると回答しています。

 そんな中、品質担保の観点からデジタル化が難しいと言われてきた外観検査が、AI技術の進化により変わりつつあります。ディープラーニングによる画像認識の活用により、高精度な判別ができるAI外観検査ソリューションが提供されるようになりました。これらの導入が、製造業の人手不足解消、さらには作業効率化に役立っています。

多様化するAI外観検査ソリューション

 では、どのようなソリューションが開発され、製造現場で活用されているのでしょうか。いくつかの例をご紹介します。

 インターネット関連サービスを提供するアメリカの大手IT企業は、2021年6月に新しいAI外観検査ソリューションをリリースしました。同社の旧モデルは、正確な検査モデルを構築するために製品画像を数千枚単位で登録する必要がありましたが、新しいAI外観検査ソリューションは、最大300分の1の登録数で構築できたといいます。同社はこのソリューションを、自動車製造、電子機器製造、包装およびラベル検査、布地検査(メッシュ、裂け目、ほつれ)といった幅広い分野の企業に提供していく考えです。

 システム開発を手掛けるIT企業は、ランダムな模様やグラデーションにも対応できるAI外観検査ソリューションを提供しています。これまで波打つ模様のアイシャドウなどランダムパターンが含まれる化粧品、凸凹のある食品などの判別はAIには難しいとされてきました。しかし同社のソリューションはこれらに加え、ラメや光沢のある製品、口紅の形状認識などにも対応しており、注目を集めています。

 “ものづくりの街”名古屋に拠点を構えるIT企業は、100社を超える企業での実証実験を経て、検査対象が増えた際もシンプルな操作で新たな検査モデルを構築できる汎用性の高いAI外観検査ソリューションを開発。自動車に関連するゴム製品メーカーなどで導入されています。同メーカーは、新モデルの自動車に合わせて逐次生産する製品を変えていく必要があります。同社のAI外観検査ソリューションは新製品の検査に転用が効くことが導入のきっかけになったといいます。また、作業担当者の習熟度に関係なく同じ品質レベルと検査スピードが保てるので、検査工程の人員削減と研修工程の短縮を期待しているとのことです。

埼玉県は実証実験で県内企業をバックアップ、人材問題解決への活路となるか

 今後のさらなる活用を見越して、自治体による実証実験も行われています。県内の企業16万社のうち、99.8%を中小企業が占める埼玉県では、人材不足への対応としてAI活用を支援。NTT東日本と協力し、実証実験モデル企業10社でAI外観検査ソリューションの効果検証を実施しました。検証結果をまとめて県内企業にAI活用への理解を促し、人手不足の解消や生産性向上をバックアップしていく考えです。

 製造業界の人材不足は、今や社会的な問題の一つといえます。業務効率化、品質担保、技術継承を複合的に解決する可能性を秘めたAI外観検査の活用は、製造業界が抱える課題への活路として今後も見逃せないトピックといえるでしょう。

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