日本は人口減少と高齢者増加によって、生産年齢人口(15~64歳の人口)の比率が減少を続けています。生産年齢人口が減少すれば労働力も低下するので、このままでは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額であるGDP(国内総生産)に少なからず影響すると考えられています。
GDPなど日本の経済成長を維持するために求められている対策の1つが、労働生産性を向上させるといった働き方改革です。生産年齢人口が減少しても、一人ひとりの生産性が向上すれば、経済成長を維持できるからです。
生産性向上を実現するための方法はいくつかありますが、その1つに「RPA(Robotic Process Automation)」の導入が挙げられます。RPAを導入することで、私たちの働き方はどのように変わっていくのでしょうか。
バックオフィスの業務をロボットが代わりに作業
RPAとは、ロボットを使った業務自動化の取り組みのことです。1文字目のRはロボットの略ですが、人型ロボットが業務を代行するわけではありません。RPAにおけるロボットとは、アプリケーションの操作やシステム画面の識別といった作業を自動的に処理する「ソフトウェアロボット」を指しています。
工場の生産ラインや倉庫では、組立作業や荷物運搬などで産業用ロボットの導入は進んでいましたが、RPAはホワイトカラーがPCで行うバックオフィス業務の担い手として期待されています。
PCを使った仕事は、一見、クリエイティブなことをしているように思うかもしれません。しかし、その作業の中には、メールやファイルの分類・整理などのように単純かつ反復して行われる定型的なものも多く存在します。RPAは、定型的な業務を自動化してくれるのです。
これまでのオフィスソフトと何が違うのか?
RPAと相性の良い定型的な業務とは、規則・ルールとの整合性チェックや、決まった項目に決められた数値・文字情報を入力するといった作業を反復するものです。
具体的には、伝票や申請などの書類整理、勤怠情報の収集、経費処理、インターネットによる情報収集などです。「手間はかかるが必要不可欠なルーティンワーク」で、RPAを導入すると、大幅な省力化やコスト削減が期待できるといわれています。
これまでもオフィスソフトなどでは、作業をある程度自動化できました。しかし、自動化できるのは単一のソフトウェア内の作業だけです。
RPAが従来と異なるのは、複数のソフトウェアにまたがって自動化できる点です。「メールで受け取った受注データをダウンロード。受注データを案件に合わせたファイル名へとファイル管理ソフトで変更。システム内の然るべきフォルダーにアップロードする」といった作業でも、RPAなら人の手をわずらわせることなくワンストップで自動的に行えます。
RPAのいま
RPAは、適用される作業の難易度や行える機能に応じ、3つのクラスに分けられます。クラス1、クラス2、クラス3と命名されており、数字が大きくなるほど難易度の高い作業が可能です。
クラス1は、指示されたとおりに忠実に動作するだけです。このクラスは規則性のある作業を繰り返すといった定型的な作業以外を任せることができません。しかし作業が膨大でも、ミスなく処理できることがメリットです。
クラス2はEPA(Enhanced Process Automation)とも呼ばれ、マシンラーニング(機械学習)により変化に柔軟に対応できるため、記録している規則性を踏まえながら自律的に判断して作業を行います。たとえば、初見の画像と記録している規則性が完全に合致しなくても、類似性を見つけ出して分類することが可能で、非定型的な作業を任せられます。
クラス3の別名はCA(Cognitive Automation)で、Cognitiveとは認識という意味になります。このクラスは高度なAIを搭載し、相手の感情や立場を考慮したやりとりが可能で、現在の作業プロセスを分析して、改善を提示することも可能です。たとえば、自社商品の売れ行きと市場動向などのビッグデータを分析して、新たな販売戦略を提示することも可能とされています。
しかし現段階では、クラス1とクラス2の一部が実用化されているのみで、非定形型作業をすべて任せられるまでには至っていません。
金融業界を手始めに日本でのRPA導入が始まる
しかしクラス1が実用化されると、2000年台後半からRPAの可能性に着目する企業が、海外で現れはじめます。まず着目したのは、書類確認・分類などの定型的な作業が膨大に存在する金融業界でした。日本でも、2010年代からメガバンクや生命保険会社でRPAの導入が始まりました。
三菱UFJ銀行は、2014年夏から先行してRPAの試験導入を進め、約20種類の業務で作業時間を年間1万時間削減できたそうです。この試験導入の成果から、三菱UFJ銀行はオフィスワークの自動化推進を決断。そして2023年度までにRPAなどのオフィスワーク自動化技術を導入して、三菱UFJフィナンシャル・グループ全体で9,500人相当の労働量を削減するという目標を発表しています。
日本生命では、2014年12月にRPAを導入。入社式を経て、銀行窓口で販売された商品の書類処理を行う部門に配属されました。適用された業務では、作業処理時間が5倍も高速化したそうです。そのRPAには「日生ロボ美ちゃん」と親しみやすいニックネームが付けられています。RPAを擬人化して、職場の一員として馴染むような工夫も話題となりました。
また、金融業界以外の業界でもRPAの導入が進み始めています。
住宅・マンション建設業の大和ハウス工業では、ホワイトカラー業務の生産性向上として、2017年7月にRPAを7つの分野で試験導入すると発表。
自動化された業務は「勤怠情報の取得とチェック・分析」「業務プロセスの情報収集・整理作業」「協力会社の社会保険加入情報の集計・分析」「連結決算・日常会計の生産性向上」「財務会計データを収集・分析して管理会計レポートを生成する業務」「公開データ収集のコスト削減とスピード向上」です。
これらの中でも、管理会計レポートの生成や公開データの情報収集などの基幹システムに関わる業務を自動化したことは、経営管理のための戦略策定や施策検討といった業務への余力を創出することにつながったとしています。
酒類の製造販売業であるサッポロビールでは、手作業で小売業者のウェブサイトからダウンロードしていたPOSデータをRPAで自動化。毎週2,000前後のデータをダウンロードしていましたが、手作業が不要になっただけでなく、作業時間も大幅に短縮されました。これによって年間約5,700時間の労働時間(金額換算で年間約1,100万円)の削減効果が表れたとしています。
さらに、自治体へのRPA導入に向けた試験的な動きも見られるようになっています。
茨城県つくば市では、NTTデータなどの民間企業と共同で、RPAを自治体に導入するための共同研究を2018年1月からはじめました。その共同研究では、定型的かつ膨大な作業量が発生する業務で、RPA導入による効果を実証するとしています。2018年度以降につくば市で本格導入の検討を進めて、その後は他の自治体でも活用できるような支援プログラムを構築すると発表しています。
まだ一部の業界や業種への導入にとどまっているRPAですが、クラス2や3に関する実用化が進めば、今後はさまざまな分野への普及が進むと思われます。日々の膨大な定型的な作業に追われて、思考を必要とする将来へ向けた経営業務に集中できずにいる人は、RPAの最新動向に注目しましょう。
また、生産年齢人口が減少していく日本では、労働力を補うツールとして、 PRAが日本経済を維持する担い手となるかもしれません。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年5月8日)のものです。
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https://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/data/rel171201a3.pdf
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https://www.nissay.co.jp/news/2017/pdf/20171120.pdf
https://www.abeam.com/jp/ja/about/news/20170720
http://www.usknet.com/jirei/sapporobeer/index.htm
https://toyokeizai.net/articles/-/177416?page=2
http://www.city.tsukuba.lg.jp/jigyosha/oshirase/1001701.html
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2018/011100.html
http://www.city.tsukuba.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/854/
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