まさかのために備える知識(第19回)

未曽有の巨大地震が発生!事前のBCP対策が明暗を分ける

posted by 廉 宗淳

 昨今、日本各地で自然災害が猛威を振るうなか、政府をはじめ専門家がこぞって警鐘を鳴らし続けるのが「南海トラフ地震」です。その発生確率が今年に入って高まったということです。揺れや津波による被害は未曽有の規模となる見込みで、もちろん企業活動にも深刻なダメージを与えかねません。もしも明日、地震によって社屋が倒壊してしまったら? 企業にとってBCP(事業継続計画)の策定は喫緊の課題となっています。

M8~9のかつてない巨大地震が列島を襲う?!

 日本で最も警戒が必要な自然災害の一つである「南海トラフ地震」。その発生確率を、政府の地震調査委員会では、「今後30年以内に70~80%」と想定しています。静岡県から宮崎県までの広大な範囲で、震度7の揺れが起きる可能性があり、震度7の揺れともなると、鉄筋コンクリートの建物でさえ耐震性が低ければ倒れます。関東から九州の太平洋沿岸に、10mを超える大津波の襲来もありえます。2011年に発生した東日本大震災では16mの大津波を記録していますので、その可能性は十分に考えられます。

 「南海トラフ」とは、フィリピン海プレート及びユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域のことです。静岡の駿河湾から東海、紀伊半島、四国、そして九州・宮崎県の日向灘沖までの広い範囲にわたっています。最悪の場合、巨大地震が複数の地域で連動して起きるかもしれません。30年以内に70〜80%と聞くと油断してしまいがち。けれどこれは今この瞬間に地震が発生してもおかしくないという意味でもあります。

インフラは麻痺、全壊・焼失建物は238万6千棟

 では南海トラフ地震が発生すると、一体どのくらいの被害があるのでしょうか? 公益社団法人・土木学会の資料(*)には、思わず目を背けたくなる推計値が記載されています。それによると地震発生より20年間の経済的被害は1,240兆円。内訳は道路破断および生産施設毀損に加えて、港湾の交通破断の被害を乗せた金額です。内閣府は地震と津波で毀損する建築物の資産量を170兆円と資産しており、これを合算すると1,410兆円という途方も無い推計値となります。一方、日本政府も被害想定を2012年から2013年にかけて発表しており、被害総額は220兆円と試算しています。建物全壊は238万6000棟との予測もあり、経営面での影響も甚大です。出勤できる従業員の数が限られるどころか、安否確認がままなりません。インフラとサプライチェーンが断絶しているなかで、生産設備の修理、電源の確保、原料の仕入れ、商品の搬送といった機能を復旧させるまでには、かなりの資金と日数がかかるはずです。システム面においては、サーバーやPCが破損して、重要なデータが消失したり、業務に必要なシステムが起動できなかったりといった状況が発生します。特に中小企業では、システムを専門に扱う人材がいないケースもあり対策は見落とされがちとなり、復旧はますます困難になります。東日本大震災では、震災関連の企業倒産が、震災後7年で累計1,800件以上に達したというデータがあるほどです。

(*)『「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書』(2018年6月)

あなたの会社は大丈夫? 急がれるBCP対策

 巨大災害の前に「備えあれば憂いなし」とまではいえませんが、準備のあり・なしで大きく状況は変わります。個人で防災グッズや非常用の食料を用意しておくのと同様に、企業も生き抜くためにできるだけ業務を復旧する、あるいは継続するための計画を立てておくべきでしょう。この緊急時の事業継続計画をBCP(Business Continuity Plan)といいます。

 BCPでは、従業員の安否確認を含む現状把握や、事業を復旧・継続するための手順をマニュアル化します。その上でBCPの存在を社員一人ひとりに周知させます。例えば送電が途絶したら、非常用の発電装置を起動することをマニュアルに記入し、発電装置を使えるように日頃から訓練しておくことも大事です。

<BCP対策チェックリスト>
【方針】
・経営者が関与して規定された事業継続の基本方針はありますか?
・中核事業の復旧・継続に必要となる重要情報のバックアップ方針を検討しましたか?
・事業影響度評価を通して、あなたの会社における中核事業を明確に認識しましたか?

【体制】
・平時においてBCPサイクルの運用を推進する社内体制が確立されていますか?
・BCP発動を判断する人物が明確に決められていますか?

【設備】
・緊急時における情報連絡の拠点場所の確保について検討しましたか?
・通信手段や電力などのインフラに関する二重化対策やバックアップを検討しましたか?
・被災したあなたの会社の重要施設・設備の代替確保について検討しましたか?

(中小企業庁BCP策定運用指針より抜粋)

BCP対策をとっていない場合、最悪の事態も…

 BCP対策がなされていない組織では、不足の事態に場当たり的に対応するしかありません。結果として無駄に時間を費やしてしまったり、初動に時間がかかり、それが後々まで響いてしまったりなどが考えられます。東日本大震災における事例をいくつか紹介しましょう。

 ある医療法人では、経営層が陣頭指揮を取ったものの、復旧手順を決めておらず、迅速な指示が出せませんでした。そのためスタッフに「私たちは何をすれば良いのか?」と度々聞かれてしまい、トップがリーダーシップを発揮することができませんでした。

 またある新聞社では、紙面を編集・製作するシステムのホストコンピューターを設置していた本社社屋が、壊滅的な打撃を受け製作が不可能となってしまいました。幸いにも提携していた他の新聞社のシステムを借り製作を続行することができましたが、システムのバックアップや危機管理体制を考え直す契機となりました。

 より深刻な事例もあります。製造業の会社で、予定されていた代替生産が実施できないことがわかりました。すると取引先は一旦発注を停止するという判断をし、生産に必要な部品を引き揚げてしまいました。製造業において生産がストップすることは死活問題です。こうした事態を防ぐためにはBCP対策が必要不可欠といって良いでしょう。

 インフラが止まった時の多重バックアップを準備しておく。大切なデータを箇所だけに集めずに、分散させて管理する。メンバーそれぞれが別の場所からでも連絡や指示ができるようなネットワークを構築しておく。平時であればいくつもの対策を検討しておくことができます。いつ起こるとも知れない災害のために、できるだけ早いBCP対策を実施しましょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年7月31日)のものです。

 

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廉 宗淳

廉 宗淳
【記事監修】

1962年ソウル市生まれ。イーコーポレーションドットジェーピー代表取締役社長。1997年にITコンサルティング会社、イーコーポレーションドットジェーピー(株)を設立、代表取締役に就任。青森市 情報政策調整監(CIO補佐官)、佐賀県 統括本部 情報課 情報企画監を歴任。主な著書に『電子政府のシナリオ』(時事通信社、2003年)、『行政改革に導く、電子政府・電子自治体への戦略』(時事通信社、2009年)など。

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