ここ数年、企業でなんらかのアクシデントや不祥事が発覚した際に、適切とは言い難い対応をし、対応に時間がかかって、みずから傷を深めてしまうケースをよく見ます。いまに始まった光景ではないので、よくある形式の記者会見をあきらめの気持ちで見ることに慣れてしまいとても残念な気持ちになります。
そんななかで、アクシデントに見舞われたココイチの反応は迅速そのものでした。雨降って地固まるという言葉が適切かはわかりませんが、対応直後に同社の株価は上昇、誠実な姿勢が広く一般に評価されています。今回はそんなココイチの秘密に迫ります。
パート従業員の指摘で発覚した「廃棄カツ横流し騒動」
まず騒動の概要を見ていきましょう。ココイチの愛称で親しまれる「カレーハウスCoCo壱番屋」は、愛知県一宮市に本社をかまえています。1982年の設立以来、国内外に1400店以上の店舗を持つまでに成長した大企業です。
そのココイチが廃棄したビーフカツレツの処理を任された業者が不正に転売。愛知県内のスーパーで売られていたところを、買い物中のココイチのパート従業員が発見して、本部に連絡したことで横流しが発覚しました。発覚後の素早い対応は賞賛に値するもので、パート従業員がカツを見付けて連絡を入れたのが1月11日。その後、たった中1日で調査をし、不正転売を公表するプレスリリースを発表しています。
末端のスタッフの指摘を受けて、すぐさま企業が動き出し、調査に乗り出す体制は、対応に少しでも迷いがあれば成立しないであろうことが容易に想像できます。
ここから高い企業倫理もうかがい知れます。また、調査を公表するなかで、問題となったビーフカツレツが、製造段階で異物混入の可能性があったことがわかり、全ロット廃棄をしたものだった事実まで公開。食の安全を守る厳しい管理体制が考えてもいないかたちで知れ渡り、結果的に騒動を通して消費者の信頼を得ることになりました。
実るほどに頭を垂れる謙虚な経営姿勢
なぜこれほどまでに、ココイチは誠実で迅速な対応ができたのでしょうか? その秘密の一端を、創業者である宗次德二氏の壮絶な半生と経営理念から知ることができます。
宗次氏は1948年(昭和23年)、石川県に生まれました。3歳まで児童福祉施設で育ち、その後養父母に引き取られてからも、養父が競馬好きで苦労します。貧しく孤独な思春期を送り、そのときに鍛えられて、自分が豊かになりたいだとか、お金を儲けたいだとかの欲がなくなったそうです。宗次氏はあるインタビューで次のように語っています。
「すごく孤独な人生でした。だから少しでも他人から関心を持ってもらいたかった。興味を持ってもらいたかったのです。それが私の原点になっています。だから、商売を始めて、お金を儲けるというよりも、人に喜んでもらいたかったのです。少しでも自分がいてよかったと言ってもらいたかった」(ベンチャー通信Online・インタビューより一部引用)
高校卒業後、不動産会社に入社、その3年後に転職。結婚後に独立し、奥さんと始めた喫茶店のカレーが評判になったことで、カレー専門店への道が開けたのです。
自分のことはあと回しに、人に喜んでもらいたい。その理念はサービスからも見て取れ、お客さまが注文してから工場で作ったカレーを一杯一杯店舗の小鍋で温めるという手間を惜しまない方法で提供します。あくまで顧客第一主義を貫いて、誠実・謙虚を大前提とする創業者の理念が、社員・スタッフの全員に浸透し、受け継がれているのです。
経営者の意志の芯までを全社員に共有してもらうむずかしさ
創業者の理念が、企業の理念として根付き、それを全社員に共有してもらう。経営者であれば、これがいかに「言うは易し、行うは難し」であるか、骨身に染みていることでしょう。人間ひとりの目が行き届く範囲は限られており、組織が大きくなればなるほど全体を見なければならず、一人ひとりに時間を割くことは難しくなります。
ココイチがなぜ、単なる金儲けをよしとせず、お客さまを第一とした社会貢献的な理念の浸透に成功しているのかは、その独自の「のれん分けシステム」が答えのひとつといえるでしょう。
通常のフランチャイズシステムでは、オーナーがお金さえ払えば店舗を持つことが可能で、本部に高いロイヤルティを収めることになります。対してココイチでは、独立後にロイヤルティは発生しません。独立を目指すためにまずオーナー候補は社員として入社し、店舗で修業をします。その修業時代に、経営理念を体得できたことが認められて、晴れて独立がかなうのです。また夫婦二人が専業として経営することが独立の条件であることも、単なる金儲けにとどまらない心の豊かさをはぐくむ経営に大きな役割を果たしています。
いかがだったでしょうか。ココイチがトラブルに迅速に対応できたのは、日ごろから誠実な経営を社員全員が心掛けていたからです。それは誰もが結果的にいいとわかっているけれど、本当にむずかしいことで、簡単に取り入れられる類のものではありません。ココイチの事例をとおして、我が社の場合はなにができるのかを、考えることから始めてみてはいかがでしょうか。
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