テレビドラマなどでは、どんな難しい局面でも失敗しない主人公が活躍します。かっこいいですよね。一方で、「人間は失敗する生きもの」ともいわれます。もし現実世界で人間による失敗=ヒューマンエラーが起きなかったら、事故や災害の少ない、安全な世の中が実現するでしょう。いかにしてヒューマンエラーを減らすかは、常に大きな課題です。
人が行うすべての作業には程度の差はあれ、失敗がつきもの。例えば交通事故では、当事者が何らかのヒューマンエラー(前方不注意、速度超過、運転操作ミス)を起こしている場合がほとんどです。では、ヒューマンエラーはどのくらいの確率で発生するのでしょうか。この問題を考えるときによく出てくるのが「ハインリッヒの法則」です。
「ハインリッヒの法則」は、米国の損害保険会社で調査を担当していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが1931年、過去に発生した労働災害を分析し提唱したものです。この法則は、
・1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故が存在
・20件の軽微な事故の背後には、300件の「ヒヤリ・ハット」(事故には至らないものの、ヒヤリとした経験)が存在
というもので、日々の業務での小さなヒューマンエラーの減少が、最終的には重大事故防止につながる可能性を示しています。この法則を使った安全管理向上の取り組みは世界的に広がり、日本でも医療機関や製造業を中心に多くの企業、組織が導入しています。
パソコン操作上のミスは日常的に起こる
「ハインリッヒの法則」は主に工場などの生産現場での災害防止をめざしています。そのため、「自分の仕事にはあまり関係ない」と感じる人も多いでしょう。実際に、現在のオフィスにはパソコンが広く普及し、勤務時間の大半を画面の前で過ごすケースも珍しくありません。パソコンを使う作業は「画面上のボタンをクリックする」「文字・数字を入力する」「コピー&ペーストを行う」といった操作が基本です。もしミスした場合でも、その都度変更や削除ができます。小さなヒューマンエラーの深刻さを感じる機会は少ないかもしれません。
しかし、パソコン操作上のヒューマンエラー(例えば入力ミス)は、時として重大な事態を引き起こします。例えば、ある証券会社で「1株=61万円の売り」を「1円=61万株の売り」と誤って入力したのが原因で、数百億円に上る巨額の損失が発生しました。他にも、ある特殊法人の外部委託先はデータ入力ミスにより、10万人以上の支給額に影響を及ぼしたということもありしました。
パソコンを使うオフィスワークにハインリッヒの法則を当てはめた場合、入力ミスはピラミッド最下層の「ヒヤリとした経験」になるでしょう。実際の作業で入力ミスは頻繁に発生するので、「入力ミスをしたが、その後問題は起きなかった」ケースも多いでしょう。しかし、1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故が存在し、20件の軽微な事故の背後には、300件の「ヒヤリ・ハット」が存在します。300回も入力ミスをすれば、何かしらの重大な事故に発展する恐れがあることになります。
いかがでしょうか。もちろん個人差はありますが、パソコンを使った作業で入力ミスが発生する確率が低いとはいえないでしょう。他の作業、例えば工場で誤った部品を選択したり、病院で薬剤の投与量を間違えたりするケースと、パソコンの入力ミスを同列に扱うには無理があるとしても、ヒューマンエラーがもたらす被害拡大への潜在性は変わりません。
そのヒューマンエラーは誰にでも起きる可能性があり、「自分は大丈夫」と安心するのは禁物です。ミスの発生を起こり得るものとして捉え、「ノーミス」実現をめざすというよりは、「どれだけミスを減らせるか」に絞った取り組みが必要になります。
ミスを減らすためのICT化
最近では、オフィスワークで発生するヒューマンエラーを減らすICT活用が進んでいます。例えば、ユーザーのアプリケーション操作をポップアップ画面でガイドするなど、正しい入力を支援するICTサービスもあります。
また、パソコン作業の多くを占める定型的な入力業務をロボットに代行させるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)も、ミスを減らす取り組みの1つとして注目を集めています。単調な作業を繰り返すとミスが発生しがちです。項目の転記など、繰り返しの多い作業は、自動化でミス発生の確率を下げられます。
RPAの導入は急速に進んでいます。例えば、NTTグループが提供している「WinActor」の販売実績について、NTTアドバンステクノロジは「2018年10月時点での導入実績は2,000社でしたが、新たに多くのお客様にご導入いただき、このたび2,500社を突破することができました」とニュースリリースで発表しています。
就業時間の大部分を定型的なデータ入力に取られている場合、ICTによる自動化は、限られた時間を有効に使うためにも、また、社員一人ひとりの生産性を向上するためにも有効な手段です。ハインリッヒの法則を参考に日常の小さなミスを減らし、将来起こり得る重大なトラブル発生を未然に防ぐ姿勢が大切です。
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