陶器に入ったユニークな釜めしを紹介する連載第3回は、筆者の実家、長野県松本市に帰省した際に見つけたイイダヤ軒の「安曇野釜めし」を紹介します。
具材は野沢菜、シメジ、鴨肉の野菜巻き、高野豆腐、シイタケ、ヤマゴボウ、クリ、サクランボ、ウズラ、インゲン。以前紹介した荻野屋の「峠の釜めし」と同じように、具材を別々で調理し、釜によそった茶飯の上に盛り付ける方法の釜めし弁当です。
旅館がルーツの駅弁屋が作る「安曇野釜めし」
「安曇野釜めし」はJR松本駅と、松本駅に乗り入れる特急あずさ車内で販売している駅弁です。販売しているイイダヤ軒は、松本市内にある飯田屋旅館(現・ホテル飯田屋)の2代目社長が、1920(大正9)年6月に名古屋鉄道局の許可を得て、松本駅(当時は国鉄)にて駅弁の販売を始めました。その後1949(昭和24)年には、弁当部を旅館業から独立させて、現在のイイダヤ軒を設立。JR松本駅の近隣では立ち食いソバのお店も展開しています。
イイダヤ軒は10種類以上の駅弁を販売していますが、その中で唯一陶器の器に入っているのが安曇野釜めしなのです。釜の形はオーソドックスなタイプです。
信州の独特の食材であるヤマゴボウと凍み豆腐
安曇野釜めしの具材は、「ザ・信州」というくらいに地元の食材で彩られています。茶飯の米はもちろん地元産の安曇野産米。ヤマゴボウは長野県産で、山野に自生しているキク科のモリアザミの根になります。ゴボウに形が似ていることから「ヤマゴボウ」と呼ばれるようになり、菊ゴボウ、アザミゴボウという別名もあります。そのままではアクが強いので、よく煮てアク抜きをした上で、特製のタレでしっかり味付けをします。お茶請けなどにもなります。
余談ですが、長野県出身の私にとってヤマゴボウは、日本全国で入手しやすい食材だと思っていましたが、東京ではなかなか手に入れることはできないようです。地元を離れてから信州の郷土食ということを知りました。
次に豆腐です。和歌山県高野山の名産品として知られる「高野豆腐」と呼ばれる食材ですが、ここ長野県には「凍み(しみ)豆腐」という佐久地方の郷土食がありますので、凍み豆腐としておきます。
薄く切り分けた豆腐を、一晩屋外で凍らせた後に、1週間から10日ほど屋外に干したものです。冬季に干すため昼夜の寒暖差で凍る、溶けるの繰り返しによる製法が特徴で、干しても溶かさない製法の高野豆腐とは対照的です。長野で高野豆腐といえば、この凍み豆腐のことを意味します。ダシを吸わせると、とても柔らかくなります。
しっかりとした味の鴨肉と野沢菜のしょうゆいため
ではフタを開けて、上に載せられた具材から食べていきましょう。鴨肉の野菜巻きは、肉厚でジューシーです。鴨肉から出る肉汁を中に巻かれているインゲン、ゴボウ、ニンジンが吸収して、かぶりつくと野菜に染み込んだうまみが口中に広がります。
「野沢菜油いため」はインパクト大です。野沢菜も長野県北部の名産ですが、油とよく合います。釜めしの中でも野沢菜の味と、シャキシャキ感のある歯ごたえが、アクセントになっています。
安曇野釜めしは、ヤマゴボウ、野沢菜といった有名な山の幸と、合鴨や高野豆腐という信州にゆかりのある逸品が1つの陶器に載っています。釜のフタを開けたときに旅のワクワク感が湧き上がるのと同時に、私のような地元出身者は、信州に帰ってきた!という実感がこみ上げてきます。特急あずさに乗車して松本駅を通過・下車する際には、信州の味を堪能できる釜めし駅弁として購入してみてください。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年11月3日)のものです
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