オーストラリアで、スマートフォンを使った「オンデマンド」の保険サービスが登場し、話題になっています。
これは、アメリカのベンチャー企業が開発した「Trov」(トローブ)というサービスで、カメラ、パソコン、スマートフォンといったアイテムを対象とした損害保険を、オンデマンドで販売するシステムです。
特定の物に、好きな時に必要な分だけ保険をかける
Trovは、従来型の一般的な包括タイプの保険とは違います。たとえば山登りに行く3日間だけ一眼レフカメラに保険をかけるといったように、特定の物に、好きな時に必要な分だけ保険をかけることが可能です。
Trovの仕組みはシンプルです。利用者は自分のスマートフォンにTrovのアプリをインストールし、起動させて必要情報を入力し、保険をかけたいアイテムを選択します。選択したアイテムをスワイプし、保証のレベルと対象期間を選択して契約します。
保険料は一日単位で計算され、たとえばiPhone 6Sの場合であれば1日あたりから55セント(日本円で約44~60円)程度となり、MacBookの場合は1日あたり58セントから81セント(約67~90円)となります。アイテムのスペック、価格、リリース時期などにより、個別に計算されます。
保険金の請求も簡単です。事故や盗難にあった場合はTrovのアプリから保険金請求を選択し、Trovのチャットボットとテキストメッセージをやり取りし、手続きするというものです。なおユーザーのうち、保険金請求が少ないユーザーには、安めの保険料が適用されます。
現在のところ、Trovで保険がかけられるアイテムはスマートフォン、パソコン、カメラ、家電、楽器など1万点程度ですが、Trovでは対象アイテム数を今後さらに増やしていくとしています。
「ミレニアル世代」にサービスをどう売るか?
Trovのメインターゲットは、いわゆる“ミレニアル(Millenial)世代”です。ミレニアル世代とは、1982年から2000年頃にかけて生まれ、21世紀はじめに成人になった世代を指す言葉です。ミレニアル世代はインターネット、スマートフォン、SNSとともに成長し、従来とは違った、独特の価値観やライフスタイルを共有しているとされています。
ミレニアル世代の特徴の1つに、モノ、情報、サービスといったリソースを丸ごと消費するのではなく、できるだけ細分化した単位で消費するスタイルを好む志向があります。
ミレニアル世代はこの志向により、他の世代よりも保険の購入率が低いとされています。また、紙の新聞の購読率も極端に低く、ニュースなどの情報はスマートフォンから取得しています。Trovは、保険を“細分化”して販売することで、ミレニアル世代へアプローチしようとしています。
実はものすごい人が開発している
Trovを立ち上げたのは、アメリカの著名起業家スコット・ウォルチェック氏です。ウォルチェック氏は1993年にAdobe(アドビ)が買収したソフトウェアメーカーで、FlashやDirectorなどを開発したマクロメディアの創業メンバーであったほか、Yahoo!が買収したC2Bテクノロジーズの創業者兼CEOを務めたり、中国の検索サービス大手「Baidu」(バイドゥ)の創業メンバーだったりします。
同氏はまた、Trovを立ち上げる前の2007年にも、オンラインローンマーケットの「DebtMarket」を立ち上げ、インターコンチネンタル・エクスチェンジ社へ売却しています。
会社を起業し、成長させて売却して巨万の富を得るという、まさに起業家としてプロ中のプロであるウォルチェック氏の動向には、投資家も大いに注目し、実際に巨額の投資をしています。
Trovは設立した2012年から今日までの5年間で、ベンチャーキャピタルを含む8つの投資家から9,127万ドル(約100億3,970万円)もの巨額の資金を調達しています。なお、投資家の中には、日本の損保ジャパン日本興亜も含まれています。
火災保険も部屋、人、日数で「細分化」される!?
モノやサービスを丸ごとではなく、出来るだけ細分化して消費するミレニアム世代の波が、他の分野にも及ぶであろうことは想像に難くありません。Trovが提供しているのは損害保険ですが、それ以外にも、火災保険、生命保険、医療保険、海上保険などへも及ぶ可能性があります。
火災保険は、一般的には家やオフィスなどの物件が丸ごと保険対象とされていますが、今後は実際に使用している部屋や人数、使用目的や使用頻度などで細かく細分化されてくる可能性があります。
たとえば、巨大な家の中の小さな部屋に1人で住んでいて、しかも頻繁に出張して留守がちだといった場合、保険料が安くなるといった時代が間もなくやって来るかもしれません。
Trovは現在、オーストラリアとイギリスで先行してサービスを開始していますが、2017年中にはアメリカでもサービスを始める予定です。保険の細分化がどの程度進むのか、そして他の領域にどれだけ波及するのか、今後の展開に注目です。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年5月16日)のものです。
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