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現代社会において、データはあらゆる場面で生成・利用されているため、処理速度や通信遅延の問題に直面したことがある方は少なくないでしょう。この問題の解決策として、「エッジコンピューティング」があります。
エッジとはネットワークの端末のことであり、エッジコンピューティングは、コンピュータの近くにサーバーを配置し現場でデータの処理や分析をすることです。
エッジコンピューティングは、クラウドから離れた端末やデバイスにおいてデータ処理を行うことで、処理速度の向上や通信遅延の解消を実現します。
今回の記事では、ネットワーク端末を活用したエッジコンピューティングについて詳しく解説し、そのメリットや課題、具体的な活用事例についても紹介します。
1. そもそもエッジ(edge)とは?
エッジとは、情報コンピュータシステムにおけるネットワーク端末のことを指します。また、エッジを使用して、データを処理する技術の総称をエッジテクノロジーと呼びます。
エッジテクノロジーは、データの処理のためにクラウドとの接続を要しないため、高い情報セキュリティと高速の処理の実現が可能です。
1-1.【領域別】エッジの定義
情報システムにおけるエッジとは、中央のデータセンターやクラウドサーバーから離れたクライアントコンピュータ、つまり"端"にあるコンピュータです。しかし、本来のエッジの意味は「ふち、へり、端」であり、さまざまな領域でも別の意味で使われています。
そこで、ここでは以下の3つの領域に分けて「エッジ」の定義について説明します。
- ・移動体通信網
- ・CDN(Contents Delivery Network)
- ・IoT
定義の違いを知り、エッジに関する適切な理解を深めましょう。
1-1-1. 移動体通信網の領域
移動体通信網とは、携帯電話やスマートフォンなどの移動体のネットワーク網です。また、移動体通信網の領域におけるエッジとは、ネットワークに接続されたモバイルデバイス、あるいは移動体端末側におけるコンピューティングリソースや処理機能のことを指します。
1-1-2. CDN(Contents Delivery Network)の領域
CDNとは、Webコンテンツを効率的に配信できるネットワークです。また、CDNの領域におけるエッジとは、コンテンツを配信する際に、コンテンツのオリジンサーバーから離れた位置に設置されたサーバーのことを指します。
エンドユーザーに最も近いエッジサーバーからコンテンツを配信することで、配信速度の向上やトラフィックの低減などの効果が見込めます。
1-1-3. IoTの領域
IoTとは、「モノのインターネット」と呼ばれ、通信機能をモノに備えることで、情報の交換・蓄積・制御ができるシステムです。IoTの領域におけるエッジとは、IoTデバイスから送信されたデータを収集し、処理するためにIoTデバイスに近い場所に設置されたサーバーやコンピュータのことを指します。センサーデータをエッジ側で処理して、必要に応じてクラウドに転送することで、処理速度の向上やプライバシー保護の向上のメリットが得られます。
1-2. エッジを活用したエッジテクノロジー
エッジテクノロジーとは、エッジコンピューティングなどのネットワーク端末を用いた技術の総称です。
従来は、クラウドへ情報を集約しサーバー上でデータの処理を行っていました。一方、エッジテクノロジーのデータ処理は、クラウドへの情報の送受信を介さず、端末側で行われます。その結果、以下のようなメリットを得られます。
- ・データ転送量を軽減
- ・ネットワークの帯域幅の縮小
- ・ネットワーク負荷の軽減
自動車や工場などの分野で広く利用されており、より高度なIoTシステムの構築を実現するための重要な技術といえるでしょう。
エッジテクノロジーについて詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
2. エッジコンピューティングとはエッジコンピュータを用いたデータ処理
エッジテクノロジーの一種であるエッジコンピューティングは、分散型アーキテクチャであり、IoTの発展に大きく寄与したIT技術です。しかし、他の技術であるオンプレミスやプライベートクラウドとよく間違われます。それぞれの違いを理解し、必要な技術の選択が必要です。
そこで、この章では、エッジコンピューティングの定義とオンプレミス・プライベートクラウドとの違いについて解説します。
2-1. エッジコンピューティングの定義
エッジコンピューティングとは、コンピュータの近くにサーバーやネットワーク機器などを配置し、データの処理や分析をすることです。クラウドへのアクセスを減らすことで、以下のような効果が期待できます。
- ・処理速度の向上
- ・通信量の低減
- ・プライバシー保護の向上
また、企業や自治体などで高いセキュリティを要求される場では、地域エッジクラウドの活用がおすすめです。地域エッジクラウドとは、堅牢なデータセンターにソリューションデータなどの格納場所を明確にした、NTT東日本が提供する地域のクラウドサービスです。自治体データや患者カルテなど、特定の分野に限らずにデータの管理ができます。
2-2. オンプレミス・プライベートクラウドとの違い
エッジコンピューティングとオンプレミス、プライベートクラウドは、それぞれが類似点を持つため、利用用途やデータ管理の観点で違いを理解し、必要に応じて選択する必要があります。
エッジコンピューティングとオンプレミスの違い
データの処理・分析 |
データの管理 |
利用用途 |
|
エッジコンピューティング |
IoTデバイスやセンサーデバイスなどの周辺に設置されたコンピュータやサーバー、ネットワーク機器などを現場で活用する。 |
収集されたデータをその場で処理し、必要に応じてエッジコンピューティングに転送する。 |
小型・低電力デバイスに適しており、現場でのリアルタイム性が求められる。 |
オンプレミス |
企業や組織内に設置されたコンピュータやサーバー、ネットワーク機器等を活用する。 |
セキュリティ性やコントロール性を重視する場合に適しており、自社内ですべてのデータを管理する。 |
高い処理性能や大規模なデータ処理が必要な場合に適しており、ビッグデータや人工知能などの分野での利用が多い。 |
プライベートクラウド |
ネットワークを経由した端末で、クラウド環境全体を専有した安全性の高いサーバー内のデータを処理・分析する。 |
収集されたデータはクラウド上に安全に保存される。セキュリティが高く、カスタマイズの自由度が高い。 |
専用のクラウド環境にVPNや専用線で接続できるため、高いセキュリティ性を求められる際に利用される。 |
3. エッジコンピューティングを活用する4つのメリット
エッジコンピューティングは、膨大なデータ処理を行うIoTや5Gなどの技術に利用されています。さまざまなシーンで導入されており、エッジコンピューティングの活用には多くのメリットがあります。
この章では、エッジコンピューティングの活用メリットについて、4つ紹介します。
3-1. 情報セキュリティ対策レベルの向上
クラウドやネットワーク上でデータのやり取りをすると、漏えいや改ざんされる危険性が発生します。しかし、エッジコンピューティングではセンサーデータをコンピュータで処理するため、その間にデータがネットワークを通過する必要がなく、情報セキュリティのリスクを軽減することが可能です。
また、エッジコンピューティングで処理されたデータをクラウドへ同期する際には、集約や加工された容量の少ないデータになるため、転送する際にデータの暗号化が容易になります。
3-2. ネットワークの処理速度の向上
センサーデータを中央のクラウドへ送信・処理する場合、データがネットワークを通過するために通信遅延が発生する可能性があります。
エッジコンピューティングはエッジデバイス側でデータ処理や分析をするため、中央のクラウドにデータの送信が必要ないです。そのため、ネットワークの処理速度が向上し、リアルタイム性の高いデータ処理や分析が可能になります。
3-3. 通信コストの低減
クラウドをベースとしたシステムでは、データセンターへの通信量に応じて課金される従量課金制の場合が多いです。そのため、クラウドへ転送したデータ量が多いほどコストが高くなります。
エッジコンピューティングでは、本来クラウド側に転送されるデータをコンピュータ側で処理することで、全体の通信量を抑え、コストの軽減ができます。
3-4. BCP対策(事業継続計画)
エッジコンピューティングの活用は、BCP対策(事業継続計画)の観点でもメリットがあります。もし、単一のデータセンターでクラウド環境を管理した場合、災害時にバックアップデータが無く、業務停止になる可能性があります。
しかし、機密情報などの重要なデータをエッジ側で管理することで、復旧するまで最低限の業務を継続できます。また、エッジデバイスの冗長化により、さらにシステム停止のリスクを軽減できます。
4. エッジコンピューティングにおける情報セキュリティ対策上の課題
さまざまな技術革新に貢献するエッジコンピューティングですが、デメリット(運用時の注意点)もあります。デメリット(運用時の注意点)も理解したうえで、エッジコンピューティングの活用をしましょう。
エッジコンピューティングにおける情報セキュリティ対策上の課題は大きく以下の2つがあります。
- ・データの保護
- ・認証・アクセス制御の確立
■データの保護
センサーやデバイスなどから収集したデータをエッジ側で処理するため、クラウドと比べて情報セキュリティ対策の脆弱性が高いといわれています。
■認証・アクセス制御の確立
エッジコンピューティングでは多くの機器やシステムが関係しているため、認証・アクセス制御の確立が重要となります。関連する機器やシステム一つに障害があると、全体へ影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
5. エッジコンピューティングの活用事例3選
エッジコンピューティングには、導入時の注意点はありますが業務効率化や情報セキュリティの観点でメリットがあります。活用事例を参考にすることで、自社への導入の必要性を感じられるかもしれません。
この章では、エッジコンピューティングの活用事例を以下の3つに分けて紹介します。
- ・地域エッジクラウド
- ・自動運転制御システム
- ・顔認証による入退管理
エッジコンピューティングの活用事例を参考に、自社導入の参考にしてください。
5-1. 地域エッジクラウド
地域エッジクラウドとは、複数のエッジコンピューティングシステムを地理的に近い場所に設置し、ローカルでデータ処理やサービス提供を行うNTT東日本が提供するシステムです。
地域エッジクラウドの活用により、エッジデバイスからのセンサーデータを収集し、ローカルで処理し、必要に応じてクラウドに転送することで、通信量を抑えつつ、リアルタイムにデータを利用することが可能です。
遅延が少なく安全にサービス提供ができるため、患者カルテや自治体データなど特定の分野に限らずさまざまなシーンで利用が期待できます。
5-2.自動運転制御システム
自動運転制御システムは、車載センサーから得られるデータをコンピューティング機能で解析し、その結果を基に運転を制御するシステムです。
自動運転制御システムには、リアルタイムで高速かつ正確な判断を要するため、膨大なデータをクラウドに送信することは遅延や通信負荷の問題があるため、エッジコンピューティングが必要となります。
エッジコンピューティングにより、自動車周囲のセンサデータの収集・解析速度が向上し、リアルタイムでの状況判断を実現しています。
5-3.顔認証による入退管理
従来、入退管理システムには、カードキーなどの手動のものが一般的でした。しかし近年、エッジコンピューティングを用いた顔認証による入退管理が導入されました。
顔認証による入退管理は、従来のものと比べて正確性が高く、不正なアクセスを防げるため、情報セキュリティ対策面で優れているといわれています。
顔情報の処理や認証はエッジデバイスで行われており、クラウドへのデータ転送を必要とせず、速度の高い処理が可能となっています。顔認証の運用が拡大した場合は、クラウドサービスとの接続により端末の複数管理も可能です。
これらの管理システムには、高い情報セキュリティかつ通信の低遅延で利用できるデータセンサが不可欠です。そこで、地域エッジクラウドという選択肢があります。
地域エッジクラウドとは、「Microsoft Azure Stack Hub」基盤を配備した堅牢なデータセンターであるNTT東日本が提供するクラウドサービスです。
国内のデータセンターで24時間365日の保守体制が整備されているため、安全に利用ができます。また、市役所や学校など、特定の分野に限らず活用できます。
6. エッジコンピューティング技術を活用して課題解決しよう
ネットワーク端末であるエッジを活用してデータの処理や分析をすることをエッジコンピューティングと呼びます。エッジコンピューティングの活用により、以下の先進技術が開発されています。
- ・地域エッジクラウド
- ・自動運転制御システム
- ・顔認証による入退管理
クラウドソリューションとエッジコンピューティング技術の双方をうまく使い分けることで、さらなる技術の発展と業務の効率化や企業課題の解決が期待できるでしょう。
地域エッジクラウド ソリューション紹介