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インタビュー

ローカル5Gオープンラボを起点にゼロからユースケースを共創。
ビジネス開発本部 主査 田中智也

高速無線通信の安定利用を可能にするローカル5G。それを実現するのは機器の力だけではなく、人のチカラに依るところも大きい。東日本におけるデジタル基盤の確立に貢献してきたNTT東日本には、どんなチカラがあるのか。今回、光をあてるのは、ローカル5Gの社会実装をドライブさせるための鍵となる共同実証環境「ローカル5Gオープンラボ」の起ち上げから運営に携わる、ビジネス開発本部第三部門 IoTサービス推進担当の田中智也主査。ラボを通じて成し遂げたいこと、そして共創への想いを聞いた。
屋内外の多彩な検証環境とプログラムが充実
――日本初となる産学共同のローカル5G検証環境「ローカル5Gオープンラボ(以下、ラボ)」の設立経緯を伺えますか?
田中:NTT東日本は、2019年12月にローカル5Gの無線免許を申請して以来、検証環境の整備を進めてきました。ローカル5Gは地域や幅広い業種の企業のニーズに合わせて構築できる新技術です。しかし今は、ようやく世間に認知され始めた黎明期でもあります。よりスピーディーにビジネス展開するためには、多様な産業プレイヤーと共にユースケースを創出することが重要だと考えました。そこで、いち早くラボを設立。クローズドな環境ではなく、オープンに参加企業を募り、さまざまなパートナーと共創する環境を構築しました。
――ラボは産学共同で設立されたそうですね。
田中:はい、東京大学本郷キャンパスの中尾研究室と共同で設立しました。中尾彰宏教授は、長年にわたり5Gをはじめとする最先端の情報通信技術を研究してこられた方です。さらに5G技術の民主化を推進されており、技術の低廉化や多くの人に利用してもらうための研究もされています。我々のメインユーザーは中小企業のお客様で、地域のICTパートナーとしてビジネスを展開しています。中尾教授の研究方針と地域にローカル5Gを実装させたいというNTT東日本のビジョンが共鳴し、一緒に検証環境を構築するに至りました。
――アカデミアの知見を得て、ローカル5Gの社会実装を促進するためにラボを起ち上げられたということですね。また、多種多様な産業プレイヤーと共創する意義を教えてください。
田中:現在、ローカル5Gの活用事例はまだまだ乏しいです。そのため、具体的な課題を抱える企業とともにオープンな環境で検証できるところに意義があると考えています。ローカル5Gは、あくまでも無線通信のひとつの手段です。手段を活用するには、何かしらの機器やアプリケーションをセットで提供する必要があります。しかし、ネットワークから上部のアプリケーションまで、我々1社で提供しようとするとスピード感に欠けます。そのため、パートナーと連携をしながらユースケースを創出することが、「ローカル5Gは世の中にどのような価値提供できるか」という問いに対する答えをいち早く出すことにつながると考えています。
――では、NTT東日本のラボだからこそできること、とは何でしょうか?
田中:大きく3つあります。1つ目は「マルチベンダで検証できること」です。複数のメーカーの製品や、ミリ波やSub6といった各周波数を活用した検証が可能で、サービスや機器の開発を幅広く検討していただけます。もしメーカーごとに検討しようと思ったら、何度も同様のプロセスを踏まなければならず、リードタイムが長くなります。その点、我々のラボでは、同じタイミングで複数の検証ができるので、スピーディーに進められます。
2つ目は、「バリエーション豊富な検証環境の提供」です。NTT中央研修センタは建物内のみならず、広大な敷地を活かして屋外にも圃場やビニールハウスを用意しており、実フィールドに近い環境で自社製品を検証していただけます。また、ドローンや自動運転もできる環境を構築しています。
3つ目は、「ローカル5Gを業務に活用したいとお考えの事業者(エンドユーザー)様向けのプログラム」です。ラボの実証・構築事例のご紹介をはじめ、スマート農業やスマートストアのデモ展示を通じ、無線といった「技術」だけの話ではなく、「技術」をどうDXに繋げていくのかといったことも体感して頂くことができます。
実証実験の“想定外”が技術の血となり肉となる
――パートナーやエンドユーザーは、それぞれどのようなプレイヤーでしょうか?
田中:パートナー様に関しては、業種や分野は多種多様で、さまざまな企業や団体の皆様から申し込みをいただいています。たとえば、アプリケーションの開発にローカル5Gを活用してみたいというご要望もあります。比較的AI、IT関連の企業様が多いです。エンドユーザー様は、物流業や製造業をはじめ業種問わず、実際に無線通信を業務で使っていらっしゃって、ローカル5GでさらにDXを推進したいというご要望が多いです。
――では、パートナーとの共創事例について、ご紹介いただけますか?
田中:昨今、農家の高齢化・人手不足が深刻な問題となっている中、新たな無線技術である”ローカル5G”を用いて農作業の省力化や新規就農者への営農支援、データ駆動型の農業等スマート農業の実現に向け、アグリテックを手掛けるGINZAFARM株式会社と、自律走行型データセンシングロボット「FARBOT ™」を活用した高精細映像の伝送・遠隔制御、収穫適期数量把握の実証実験を行いました。
――具体的にはどのような実証実験を行われたのでしょうか?
田中:農場の遠隔監視や遠隔作業指示等のユースケースを想定し、ロボットに搭載されている4Kカメラを用いたリアルタイム伝送における映像品質の確認や、機体の遠隔制御における遅延などを確認する技術検証や、それら高精細映像、遠隔制御技術にAIを組み合わせて、収穫適期の成熟したいちごの数量把握の自動化に関する実証実験も行いました。本実証実験において、他の無線ネットワーク環境では、電波干渉等の影響による通信速度の低下で画質が劣化したり、映像がカクついたり、急に飛んだり、遠隔での操作も遅延が見受けられました。また、そのためAIを用いたいちごの数量把握においても高精度な結果が得られることができませんでした。一方、ローカル5Gは大容量の通信を必要とされる4Kなどの高精細映像でも安定的に伝送し、かつ低遅延でロボットの制御を可能とし、それがAI解析の際にも非常にポジティブな結果に繋がるということがわかりました。
――実証実験を通して得られた気づきとは何でしょうか?
田中:綿密にネットワーク設計をすればいいわけではない、ということですね。検証をはじめる前の想定では、ローカル5Gをロボットに接続さえすれば、すぐに遠隔制御の安定性や映像伝送の品質を評価できると思っていました。でも、いざ蓋を開けると、そう簡単にはいきませんでした。まず、ネットワーク設計は間違っていないのに、映像がすぐに伝送されないといった問題が起こったんです。そこで、パートナー様にロボットの仕組みを徹底的に教えてもらいながら、接続できない原因を要素分解しながら解明していきました。接続に成功したときに、技術担当のメンバーが両手を挙げて喜んでいたのが印象的でしたね。ローカル5Gはこうした地道な実証実験を経て、血となり肉となる技術になっていくと思います。
――ただ単に検証環境を提供しているだけではなく、技術的なサポートも手厚いのですね。GINZAFARMとの実証実験を振り返られて、手応えはいかがですか?
田中:従来の無線通信では成し得なかったことを、ローカル5Gでなら実現できると分かったことは大きな収穫でした。農業用ロボットは第1産業の人手不足解消や省力化の切り札です。その意味でも、ローカル5Gを活用して、「FARBOT ™」のようなアグリテックを現場に普及させることは、社会課題の解決や農作業の質向上にもつながります。農業従事者の方々は、効率化によって労働時間が浮けば、農業のイノベーションに活きるアイデアを練れるかもしれません。実証実験では、そんな可能性を肌で感じることができました。
検証ニーズに応じてラボの機能を拡張していきたい
――ローカル5Gは大きな可能性を秘めている一方、新技術ならではの“正解探し”の難しさがある。だからこそユースケースの創出を目的とするラボの存在意義は大きいわけですよね。
田中:そうですね。我々はローカル5Gをビジネスにインストールすることを検討している部隊ですが、原動力は「ローカル5Gを起点に、より良い社会の実現や地域課題の解決に寄与したい」という想いです。ローカル5Gは多種多様な業種や地域で活用していただける可能性がありますから、ラボで事例を積み上げていきたいと思っています。同時にラボでの実証実験だけに留まってしまうと意味がありません。最終的にはお客さまが本当に課題解決できるようなところまでしっかり組み上げて提供することが、我々の使命です。
――その使命を果たそうとしているNTT東日本の強さの源泉は、どのようなところにあると思われますか?
田中:あらゆる局面でスキルを補完しあえる仲間がいるところだと思います。さまざまな部署に各領域のエキスパートがいますし、ローカル5Gに関しては組織横断でプロジェクトチームを組んでいます。技術からビジネスまであらゆる角度から、パートナー様を立体的にサポートできる体制が整っています。関わっているメンバー全員、ローカル5Gを世の中に広めていきたいという並々ならぬ想いを持っていますから、チームとして活気に溢れていますね。
――田中さんご自身は、どのようなキャリアを経てチームにジョインされているのでしょうか?
田中:私は入社して11年目で、支店の法人営業からキャリアをスタートしました。その後、本社法人組織の中期戦略を策定する業務に携わり、さらにアライアンスやBtoBtoXといった手法を用いた新規ビジネスの起ち上げに関する仕事を約6年経験しました。新規ビジネスの開拓を通して、お客様の課題解決に取り組んできた経験が、ラボにおけるパートナー様とのユースケース創出に活きていると思います。
――たとえば、どのようなスキルが活きていると思われますか?
田中:課題を見つけて、解決できるソリューションをご提案するときの観点でしょうか。特にローカル5Gはまだ活用事例が少ない技術ですから、パートナー様と一緒に正解を探さないといけません。
新規ビジネスはゼロスタートですから、何かしらルールを決めて業務を進めないとビジネスになり得ません。また、パートナー様との共創は、技術を提供する我々のエゴではなく、パートナー様の課題解決に資するものでなくてはいけません。パートナー様が抱えている課題をしっかり掴み、解決を見据えてプロセスを組み立てること、そしてその先にいるユーザーを思い描くことが重要です。それを心がけて共創に臨む、というところは私がこれまでのキャリアで得たこだわりかもしれません。
――ローカル5Gはこう使うべき、という絶対的な答えがないからこそ、技術とビジネスの両方に通じた田中さんを含めたプロフェッショナルチームとともに検証や体験を創り上げる場が必要ということですね。
田中:そうですね。あと、いち早く国内初となる産学共同のラボを起ち上げたことは、お客様からの初期需要に対する案件の整備を迅速に進めることにつながり、とても良いスタートダッシュを切れたと思います。世の中にローカル5Gの検証環境がない状況下でラボを起ち上げたので、多種多様な産業プレイヤーの皆様からお問い合わせいただきました。東京都様からもお声がけいただき、東京大学様含めローカル5G普及に向けた三者協定を締結し東京都様が保有されている中小企業支援拠点「DX推進センター」における、ローカル5Gの整備はNTT東日本が携わりました。また、取り組みが派生し、ラボでの遠隔農業支援の実証実験を開始することにもなりました。
――ローカル5Gの社会実装に向けて、ラボは重要な鍵を握る拠点だということがわかりました。最後に、今後の展望についてお聞かせください。
田中:ローカル5Gは、農業や文化芸術、eスポーツなど活用の可能性を多分に秘めています。また、地方創生を目指す自治体様や事業様にも、気軽に使っていただけるようにラボを通じてユースケースの共創を加速させたいと思っています。そのためにも、さまざまな検証ニーズに対応したラボの環境の拡充や、ローカル5Gをご理解いただけるプログラムの充実、ローカル5Gのメリットを体感いただけるようなラボのショールーム化など、今後もラボを起点にさまざまな取り組みを展開し、ローカル5Gの社会実装を加速させていきます。
※記載の所属部署・役職等は、2021年12月時点の内容です。

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