2021.09.09 (Thu)

スマートファクトリーの可能性を探る(第1回)

近年注目されているスマートファクトリーとは? 7つの導入目的を紹介!

 働き方改革やIT技術の発展により、既存のものづくりのスタイルから発展したスマートファクトリーに注目が集まっています。

 今回の記事ではスマートファクトリーとはそもそも何か、経済産業省が導入を進めている目的や、メリット・課題を紹介します。

◆目次
スマートファクトリーとは何か
スマートファクトリーの7つの目的
スマートファクトリーのメリット
スマートファクトリーの課題
まとめ

スマートファクトリーとは何か

 スマートファクトリーとは、AIやIoT技術などを駆使し、デジタルデータを元に業務管理を行う工場のことを指します。業務プロセスを改善したり、品質の高い製品を低コストかつ短期間で製造したり、継続的に工場の生産性を改善したりすることが可能です。

 これまでの製造業ではロボットなどの機材を導入することで、業務効率化を実現してきましたが、スマートファクトリーの特徴はデータの収集と活用によってビジネスプロセス全体を見直し、最適な業務フローを自動的に分析して現場で活用できる点です。

 日本に先立って海外では、ドイツ政府が行っている国家プロジェクトの「インダストリー4.0」や、アメリカで設立された「Industrial Internet Consortium」などの第4次産業革命と呼ばれる変革が起こりつつあります。日本もAI・IoTを活用することで、労働人口が減少する中における効率的なものづくりを目指し、経済産業省では「スマートファクトリーロードマップ」を作成し公開しています。

参考・出典:「スマートファクトリーロードマップ〜第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて~
https://www.chubu.meti.go.jp/b21jisedai/report/smart_factory_roadmap/roadmap.pdf

スマートファクトリーの7つの目的

 経済産業省が2017年に発表したスマートファクトリーロードマップには、スマート化の⽬的として7つの項目が掲げられています。それぞれの目的に対して、スマート化におけるデータ活用のレベルが以下のように3段階で定義されています。

レベル1:データの収集・蓄積 有益な情報を⾒極めて収集して状態を⾒える化し、得られた気付きを知⾒・ノウハウとして蓄積できる。
レベル2:データによる分析・予測 膨⼤な情報を分析・学習し、⽬的に寄与する。因⼦の抽出や、事象のモデル化・将来予測ができる。
レベル3:データによる制御・最適化 蓄積した知⾒・ノウハウや、構築したモデルによる将来予測を基に最適な判断・実⾏ができる。

 この段落では、上記の3つのレベルをふまえ、スマートファクトリーを推進する目的を紹介していきます。

品質の向上

不良率の低減

 ヒトの作業内容をセンサーで収集し、ミスの発生時には通知がされるようにします。過去のミスを把握して、ミスの発生しやすい作業工程を特定し、分析をもとにした人材育成や設計変更に活かします。ミスの発生を抑え、不良率を最小化することが可能です。

品質の安定化・ばらつきの低減

 センサーによるモニタリングで、品質データや設備の加工内容などの収集や、作業員の状況を把握します。収集したデータから品質のばらつきが生じる原因や作業を特定し、改善できる加工条件や作業条件をモデル化すれば、設備の加工誤差や作業の均一化による品質の安定化につながります。

設計品質の向上

 センサーや通信機器でデータを収集し、設計データと関連付けて品質を分析して仕様を見直します。実際の現場での生産方法などの改善が期待されています。

コストの削減

材料の使⽤量の削減

 設計事例の収集・データベース化を行い、シミュレーションソフトなどで解析することで、材料の軽量化や部品数の減少を検討します。

生産のためのリソースの削減

 生産管理システムのデータを用いて、作業プロセスや投入されているヒト・材料・エネルギーの把握をし、将来の投入予定量やそれによる予定生産量を予測します。生産の増減に伴う稼働計画の修正や最適化が期待されています。

在庫の削減

 生産管理システムなどのデータを用いて、生産計画や実績データを管理し、受注・生産・出荷の計画と実績を分析することで、需要と供給が変化する要因を明らかにしたり、受給予測をします。それに基づいて、資材や製品の最適な在庫管理や生産・出荷計画の自動化が期待されています。

設備の管理・監視の省力化

 センサーにより遠隔で複数の設備の稼働状況をリアルタイムで収集・監視して、設備に異常がある時は自動的にアラートを発生させることで監視・管理の工数の最小化します。

⽣産性の向上

設備・ヒトの稼働率の向上

 生産管理システムのデータを利用して、設備の稼働や進捗状況を把握、それをもとに各プロセスの完了予定時間を予測したり、非稼働時間が発生する要因を分析します。生産完了予定時間の最短化や稼働・作業計画の最適化が期待できます。

ヒトの作業の効率化、作業の削減・負担軽減

 モバイル端末やスマートグラスを活用して資材や製品の情報を簡単に入力できるようにし、状況に応じて必要な情報や作業指示を表示します。情報の入力や表示が自動化されることで、適切な判断を効率よくできるようになります。

 また、センサーにより稼働状況などを把握することで、蓄積したデータをロボットが学習させることも可能です。人間とロボットの共同作業による生産性の向上が期待されています。

設備の故障に伴う稼動停⽌の削減

 センサーで集めたデータにより設備の故障を事前に予測、予防することで想定外の稼働停止を防ぎます。

 故障を予測し自動的にアラートを出すだけでなく、故障事例の分析による原因究明や対策によって、実際の故障時における早期復旧も期待できます。

製品化・量産化の期間短縮

製品の開発・設計の自動化

 設計事例のデータベース化とシミュレーションソフトによる解析で、製品仕様を満たしながらも、生産しやすい形状や構造のモデルを作成するなど、製品設計の自動化を目指します。

仕様変更への対応の迅速化

 部品表を活用してデータ連携を行い、開発・生産データを一元管理しておけば、仕様変更における影響を分析できます。仕様変更の対応時間の最小化が期待できます。

生産ラインの設計・構築の短縮化

 生産ラインのシミュレーターを活用すれば、該当する生産ラインのレイアウトや生産能力、作業工程や投資に必要なコスト、搬送のルートなどを事前に検証できます。実際の現場に反映することで、新しい生産ラインの効率的な運用が可能です。

⼈材不⾜・育成への対応

多様な人材の活用

 各従業員の特性(使用言語や身体能力、作業の熟練度や知識)をデータベース化し、個人に応じて業務のサポートになるようなデバイス(パワーアシストスーツや音声認識機器など)を活用できれば、さまざまな特性を持つ人材の活用が可能です。

技能の継承

 高い技術を持つ人材の行動をセンサーで計測してデータ化し、他の作業者より優れている点を分析することで、体系化した技能やノウハウを各拠点に共有したり、スマートロボットに学習させることで、技術の継承ができます。

新たな付加価値の提供・ 提供価値の向上

多⽤なニーズへの対応⼒の向上

 フレキシブルな商品開発を行うために、どの商品でも共通する部分やパーツを明確化できれば、効率的な生産体制の構築が可能になります。社内の各部門のデータを連携して計画の情報共有ができれば、個別のニーズに応じた迅速な部品供給や生産の段取りを変更するなど、生産体制の最適化が見込めます。

 また、各サプライチェーンの状況を分析して需要を予測し、計画の最適化ができれば顧客ごとにカスタマイズした製品やサービスなども提供しやすくなります。

提供可能な加工技術の拡大

 生産管理システムのデータを共同企業同士で上手く活用し、企業同士での最適な生産・物流計画を作成することで、共同受注生産の体制を構築することが可能になります。企業単体では実現できなかったハイブリットな加工技術の提供が見込めます。

新たな製品・サービスの提供

 製品の使用状況をセンサーでモニタリングしてデータ収集することで、ユーザーの行動や新たなニーズ・改善点などのヒントを得ることができます。それらをもとに、新たな製品の開発や、アフターサービスの提供などが期待されます。

製品の性能・機能の向上

 上記と同様に、製品にセンサーや通信機器をとりつけることでユーザーの利用データを把握し、ソフトウェアのアップデートで新たな便利機能の追加や、カスタマイズなどの改良が期待できます。

リスク管理など

リスク管理の強化

 製品に通信機能を搭載することで、加工・組み立て・検査・出荷時などのそれぞれのデータを蓄積して品質を担保できます。

 不具合が発生した時にはデータを分析することで原因を早期分析でき、またどのユーザーに不具合が生じているのかの迅速な追跡・把握と対応が可能となります。

参考・出典:「スマートファクトリーロードマップ~第4次産業⾰命に対応したものづくりの実現に向けて~
https://www.chubu.meti.go.jp/b21jisedai/report/smart_factory_roadmap/roadmap.pdf

スマートファクトリーのメリット

 スマートファクトリーはセンサー技術を使ったデータ分析が大きな特徴です。そのメリットについて、改めて整理します。

あらゆる生産状況の可視化

 スマートファクトリーの大きなメリットは、生産ラインや作業工程とそれに関わる作業員・設備・材料などの可視化が可能になることです。

 ウェアラブルデバイス・センサー・ネットワークカメラや生産管理システム、また情報の入力を簡易化するシステムなどを活用すれば、作業にまつわる情報をデータ化して収集・分析できます。

 現場の状況が可視化されることで、生産状況の変化に柔軟に対応でき、より低コストで高品質な製品の開発が期待できます。

人材不足の解消・熟練技術の継承

 スマートファクトリーでは、従来の工場現場において作業者の経験・知識・勘などに頼っていた属人的な熟練技術などを、効率よく継承することが期待されています。

 日本は世界的にみても少子高齢化が進んでおり、新型コロナウイルスによる外国からの労働力の受け入れの低下などもあり、労働人口が減少しています。製造業における技術の継承者不足は深刻な問題です。

 スマートファクトリーでは、作業者がどのようなポイントで判断・作業を行っているのかなどをデータとして取得し、AIなどの技術を使って分析することを目指しています。

 ベテラン技術者の行動のノウハウ化や体系化ができれば、経験の浅い技術者でもスムーズな技術承継が可能です。データやツールを活用することで、製品の品質を保ちつつ新しい人材を活用しやすくなります。

作業工程・材料や設備の最適化

 スマートファクトリーでは、データに基づいて工場の作業工程の最適化や、材料や在庫の管理の自動化などが期待できます。

 経営側の視点では、人間の判断だけでなくAIやIoT技術のサポートがあることで、これまでには見えていなかった改善点が発見され、より収益性が高くリスクの低い事業継続につながります。

需供の予測などのシミュレーション

 スマートファクトリーでは、製造現場のデータや市場の需給データなどをもとにした、未来予測のシミュレーションが可能です。

 新しく製造ラインを増やす場合の想定生産量や稼働量などの予測をAIが自動的に算出してくれれば、設備投資に対するリターンを計算しやすくなります。市場の需要がどの時期に増えるのかなどの予測ができれば、大量に生産しても在庫が余る心配がなく、適切なタイミングでヒト・モノ・カネといった資源を配分することが可能です。

工場同士の連携強化

 スマートファクトリーによって可視化された工場のデータがあれば、他の工場との連携を強化することが可能になります。

 各工場にある固有の技術を組み合わせてフレキシブルな技術開発ができれば、大きな設備投資がなくても新しい製品の開発などが柔軟に実現できます。

スマートファクトリーの課題

 メリットが多いスマートファクトリーですが、浸透のためには二つの大きな課題があります。

デジタル化の浸透

 製造業はデジタル化があまり進んでいない分野であり、これまでの伝統的なやり方から変更することへの現場での抵抗感や、ITリテラシーがそこまで高くないことが課題です。

 特にスマートファクトリーで活用される技術の多くは、製造ラインを直接的に効率化するための機械ではなく、あくまでデータを収集して分析して活用するようなソフトウェア的な側面が強いです。作業者や事業者がこれまで活用した機械とは種類が違うケースが多いこともあり、外国に比べて日本では浸透が遅れています。

導入判断の難しさ

 スマートファクトリーを実現するためのデバイスや機材を購入する時に、各工場や業者などの顧客側では正しい判断が難しいのが現状です。

 例えば、システムの要件を定義する時には、必要な機能と不要な機能を判断しなければなりませんが、その際には一定のITの知識が必要です。複数のベンダーに見積もりを出した際の値段の違いも知識が無ければなかなか判断がつきません。

 また、工場全体の仕組みを変える場合は、総合的な判断が求められます。現場の部門ごとのスペシャリスト、在庫管理や流通・販売などのサプライチェーンに詳しい人材、またITを活用できる人材など、あらゆる観点からの意見が必要になるため、それらを調整し推進していくのは大きな労力が必要になります。

 結果として設備投資に対する効果が算出しづらく、普及が遅れる一因となっています。

まとめ

 今回の記事ではスマートファクトリーについて紹介していきました。

 スマートファクトリーではロボットなどの物理的な技術だけでなく、センサーによるデータの計測、分析などの情報を活用することが重要です。

 ものづくりの現場において、データのやりとりをスムーズに行うことで生産性の向上につながります。

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