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2021.11.17 (Wed)

【石川善樹】いくら便利なツールを増やしても、あなたの仕事が減らない理由

posted by NTT東日本 | NewsPicks Brand Design

日本企業はDXに出遅れたと言われるが、便利なデジタルツールが次々登場し、いまのデスクワークは数年前と比べて格段に効率化されているはずだ。なのに、なぜ我々の仕事は減らないのか。どうすれば、業務プロセスをうまく改善できるのか。
日本の経営課題ともいえるこの問いに、インタビュー開始1分で答えを出した石川善樹氏。話はより本質的な「DXのボトルネック」へと展開していき......。
※本記事は2021年3月10日にNewsPicksに掲載された記事です。

「人に仕事を振る」のがすべての間違い

── 多くの企業がデジタルツールを導入して業務効率化を図っていますが、なぜか仕事が減らない。石川さんは、その原因はなんだと思いますか?

  それは簡単で、人に仕事を振っているからじゃないですかね。逆に言えば、仕事に人を振っていないから。

── 仕事に人を振っていない。......どういうことでしょう。

  これって似ているようで全然違うんです。人に仕事を振っていると、できる人や頼みやすい人にどんどん仕事が溜まって、属人化&ブラックボックス化が進みます。

  結果、ある仕事ができる人に振ったとして、「予定では明日までに終わることになってるけど、進捗どう?」と聞いたとき、「まだほかが片付かないから、あと2〜3日かかります」と返されたりします。

  そうなると、属人化しているだけに待つしかありません。こんな事態はあらゆるところで起こっていますよね。

── まさに。でも、仕事に人を振るにはどうすればいいんですか。

  まずは、業務プロセスを「全体最適」させなきゃいけないんです。

  例えば、業務フローの一部を取り出して自動化&効率化しても、その後の工程にボトルネックがあったら全体として効率は変わらない。「どうなってますか?」→「あとが詰まっています」みたいな余計なコミュニケーションも増える。

  一部を改善したばかりに、全体がますます混乱するということはよくあるので、まず全体の業務フローをきっちり整理して、「仕事に人を割り振ること」が大事です。

  仕事には必ずフローがあって、ある工程が終わるまでは次の工程に進めないので、その工程ごとに3人なり4人なり、何かあったときの余剰人員も含めて人を割り当てていく。そして意外かもしれませんが、人を割り当てるときは「できる人」と「できない人」を混ぜたほうがいいんです。

── できない人がいてもいいんですか。

  むしろそうすることで、「なぜその仕事をやるのか」とか「どうやればいいのか」といった知見の交換が進むんですよ。

  逆に、人に仕事を振っていると知見が共有されないので、早く終わる人は早く終わるけど、遅い人はいつまでも仕事が遅くて、その理由はわからないまま。

  全体像を見れば、時間のかかる仕事にリソースが割かれていなかったりプロセスに問題があったりと、問題点も見えてくるんですけどね。

── それが「全体最適」の視点。

  そう。つまり、人に仕事を振るんじゃなくて、仕事に人を振る。個別の課題にとらわれず全体最適を目指すというのは、プロジェクト・マネジメントの基本の「キ」です。

  でも、ほとんどの人は、プロジェクトメンバーとしての経験をある程度積んで、なんとなく率いる立場になるので、マネジメントについてちゃんと教えられる機会がないんですよね。

  先の質問に戻ると、便利なデジタルツールを使っても仕事が減らない理由って、意外とこういうところにあるんじゃないですか。つまり、部分最適、個別最適にツールが使われているから、全体のフローがうまく流れない。

  DXがうまくいかないケースの多くは、プロセス全体の最適化がうまくいっていない。だから「ここは機械でもできる」とか「ここは人じゃないとできない」という判断ができないんじゃないかと思います。

製造業のプロセスマネジメントに学ぶ

── 石川さんは、どうやってプロジェクト・マネジメントを学んだんですか。

  偉そうにプロジェクト・マネジメントについて話しましたけど、僕自身はそれがめちゃくちゃ苦手で、だからすごく勉強したんですよ。

  プロジェクト・マネジメントの第一人者である朝稲啓太くん(ジュントスコンサルティング)に、「なんなの、PMって?」と教えを請いました。

  プロジェクトって、なんとなくゴールがあるじゃないですか。なので、そこに至るまでの工程を分けてガントチャートを作ったりもしたんですけど、だいたいうまくいかない。

  例えば「1カ月後までにこれをやってください」と頼んでも、すぐに作業にかかる人はいません。だいたいの人が、締め切り間際になってから手をつけるんです。

── すごくよくわかります。急ぎでお願いしますと差し込まれる仕事もありますし。

  締め切りしか見ていないなら、そうなりますよね。でも、万が一作業が後ろにずれ込むと、次の工程にも影響が出ます。

  そうならないためには、ちゃんとリソースを確保して、「はい、今から始めてください」とリマインドしなきゃいけない。人の裁量が大きいデスクワークではこういったマネジメントがゆるいんですが、実はこれ、製造業などの工程管理では当たり前に行われていることなんです。

  例えば『ザ・ゴール』※がベストセラーになった2000年代初頭に若手だった製造業の人と話すと「部分最適」や「全体最適」みたいなワードがバンバン出てくるんですよ。
※工場の業務改善プロセスを書いたベストセラー小説。1980年代にアメリカで出版され、2001年に邦訳が出た。

  製造業はDXやオートメーションに向いている分野であり、だからこそ工場にはAIやロボットがたくさん入っている。これは、ちゃんとプロセス全体が整理され、分業体制を推進してプロジェクト・マネジメントの土台ができていたからなんです。

── 製造ラインが自動化され、工場は24時間フル稼働している。それと比べると、人のデスクワークは効率化が進んでいないのかもしれません。

  日本の産業の中心は製造業をはじめとする第二次産業から、小売や情報通信業などの第三次産業に移ってきたわけですが、工場の製造ラインにしてもコンテンツの制作フローにしても、全体を見ればプロダクトを作って売る工程に大きな違いはないはずです。

  それなのに、二次産業から三次産業にシフトしたときに「工程をマネジメントする」という観点がぽっかり抜けてしまった。つまり、産業構造の変化にともなう知識の継承が行われていないのが問題だと感じています。

 

仕事の「充実感」はどこからくるのか

── 製造業では、ムダを省いて効率化することが徹底された。なぜ工程管理の知識は、第三次産業に継承されなかったんでしょうか。

  難しいのが、機械化された製造工程と違って、人が考える仕事において何がムダで何がムダじゃないかって、その人の主観でしかないんですよ。それは製造業でも同じです。

  何をやっても学べる人は学べるけど、逆も然りで、何をやってもムダにしかならない人もいる。例えば経費精算などのルーティンワークがムダだとよく言われるじゃないですか。

── 経費精算のようにコツコツ突き合わせて入力する作業、私も苦手なんですよ。自動化して省けるなら省きたいです。

  そんなふうに、単調な作業に意味がないと思う人もいれば、1カ月分の経費をまとめる最中に、「1週間前はあの人と会っていたのか。お礼のメールでも送っておこう」みたいな振り返りを行う人もいる。

  経費から自分のパターンや癖が見えることって結構あるんですよ。やっている作業は同じだけど、どんな意味を見出すかによって、得られるものは人によって違います。

── なるほど。そうやって意味づけすれば、単調な入力作業もちょっと楽しくなるかも。

  なんでも効率化すればだいたいの人が喜んだ時代というのが、おそらく過去にはあった。でも今は必ずしもそうではないと思うんです。

  少なくとも、効率化ありきではうまくいかなくて、最終的には「充実したい」「どうすればウェルビーイングになれるか」みたいなことが大事なのかな、と。

  僕がやっているウェルビーイングの研究では、一般的に、趣味の時間よりも仕事をしているときのほうが幸せだと報告されています。なぜなら、「没頭できる瞬間」がたくさんあるから。

  例えば、自由度が低い仕事をしているときのほうが、より充実感がありませんか? みんなで紙を封筒に詰めるみたいな単純作業って、終えたときには妙な一体感と達成感があるでしょう。

  業務プロセスのDXを考えるときにも、この「充実感」や「達成感」を無視してしまうとうまくいかない気がします。

 働いている人が、何におもしろさややりがいを感じているか。それをうまく価値創造に結びつけることも、もうひとつの軸での全体最適ですよね。

 

DXに苦戦する組織がやるべきことは?

── なんだか、多くの企業が業務プロセスのDXに苦戦している原因が見えてきた気がします。ルーティンワークは自動化しやすいけれど、一方でそうした自由度の低い仕事にはウェルビーイングを高める効果もある。

  そう。それも含めて組織や業務の全体像をとらえている企業は、わりとうまくDXができています。

  難しいのが、「給料をもらって働いている」という発想をしている限り、部分最適になりがちなこと。一般的には「いかに自分が楽をできるか」で思考が止まってしまう。給料を支払う立場、部下をマネジメントする立場になって初めて、全体について考えるんです。

  全体最適により効率化を促したい少数の人と、部分最適を考える多数の人がいる。このマインドセットの違いを乗り越えるのがめちゃくちゃ難しくて、多くの経営者や現場のリーダーが苦しんでいるんじゃないですか。

 ディープラーニングによる画像解析で、手書きのくせ字や枠からはみ出した文字、押印の重なった文字なども高精度で読み取るAI-OCR(光学文字認識)サービス。まだまだ多くの企業が長時間かけて行っている帳票処理や紙資料のデータ化を大幅に効率化できる。読み取り精度96%のAI-OCRエンジンに加え、年中無休の電話サポートがついているので、操作方法に悩まずサービスを利用することができる。

RPAツール「WinActor®※」を使って、Windows端末上で行う様々な業務を自動化する。業務プロセスデジタル化の必須ツールとなったRPAだが、導入に苦労する企業が多い。このサービスでは、RPAシナリオ作成を代行する有償サポートがあるため、最初の設定で停滞せずスムーズに導入が進められる。

※「WinActor®」はNTTアドバンステクノロジ株式会社が保有する商標または登録商標です。

──今日はAI-OCRやRPAみたいな便利なものを導入するときに、業務をどのように分類して進めればいいかを聞こうと思っていましたが、デジタルに判断できるものじゃなさそうです。作業する人の充実がどこにあるのかも確かめながら、全体最適を考えないといけないんですね。

  突き詰めると、「マネジメントとは何か?」という点に立ち戻らなければいけないですからね(笑)。

  僕が違和感を覚えるのは、世間一般のマネジメント論って、コミュニケーションの話が多すぎじゃないかと。「密にコミュニケーションして、みんなで仲間になりましょう」って。

  それも大事ですけど、まずはちゃんとプロジェクトの全体最適を考えて、マネジメントできる体制を作らなきゃいけなくて、仲間になるのはそのあとでいい。

  何度も言いますけど、目的は型化できる部分をDXすることじゃなくて、全体としてインプットからアウトプットまでがスムーズに流れること。

  そのためには「ムダがないといけない工程」すら出てきます。そこに余白を持たせないと全体の流れが滞ってしまう部分は、存分に遊ばせておけばいい。

  DXは手段に過ぎないので「その目的は何か?」という問いを忘れてはいけません。それを考えたうえで、ここぞというところにデジタルツールを導入すれば、その価値は何倍にもなる。

  それに、そういったプロセスを踏んで生み出された効率化は、人々の充実につながると思います。

取材・編集:宇野浩志
構成:須藤 輝
デザイン:月森恭助

※本記事はNewsPicksに掲載された記事です。

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