「多様性」を意味するダイバシティ。印象先行の感もある言葉ですが、企業が長期戦略を練っていくための重要な考え方でもあります。たとえば、即戦力を期待するあまり、若い層の採用を見送っていないか。ベテラン勢を活かすために新人の素朴な疑問を軽んじていないか。多様な発想の中に長期戦略を作る鍵があります。
長期展望の不在による負のスパイラル
人材の確保は、ここ当面、多くの企業に共通する悩みになるでしょう。目の前の厳しい台所事情や、現場からのリクエストに応えれば、まず「即戦力」を求めてしまうのはやむを得ないところ。もちろん、そうそう都合のよい即戦力が見つかるわけではありませんが、マッチする人材に行き当たる可能性もあります。出て行く人材もあれば入ってくる人材もある、と達観して採用活動にいそしむのも経営判断の一つではあるでしょう。
とはいえ、社員の側からすれば、そこまでの会社の達観はなかなか理解できないもの。そんな採用活動をずっと続けていれば、会社の長期的な展望を疑う見方も出てきかねません。そうなれば会社に忠誠も尽くせず、会社の将来を考えたアイディアも出て来ないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
産休や介護休はいまは響かないかもしれないが
社員に対して長期の展望をもたらす手法の第一は、退職金制度や産休、育休、介護休といった長く働くことのできる制度の整備や一層の充実です。長く勤めることによるメリットや、長く働ける可能性を感じてもらうことは、会社の屋台骨として欠かせないのです。
しかし、いま会社が期待しているベテラン勢や第一線の社員たちには、産休や介護休といった制度は必ずしも心に響かないかもしれません。まだ他人事、という面もあるでしょうし、そんなことより給与をあげてくれ、という面もありそうです。だからといって、そのまま放っておけば、いずれ親の介護などのっぴきならない事情で職場を離脱せざるを得ない社員が増えていくのは明らかです。
直接的な利益にはならないとしても、スタッフのやる気を“更新”させるためにも制度整備は効果を持ちます。もちろん、こういった制度は、ある程度のキャリアを持った人が入社を考える際にも、真剣にチェックされる部分です。
新制度の採用に対しては、国や自治体の助成金制度も設けられています。手続が煩雑などのこともありますので、社労士や税理士など制度や助成金に詳しい専門家のアドバイスを受けながら、整備を進めてはいかがでしょうか。
第一線スタッフの潜在ニーズとは
社員にとって長期展望を得るのに必要なのは、こういった制度整備だけではありません。特に若い世代にとっては、その会社が未来志向を持っているかどうかや、新しい手法を積極的にとりいれる姿勢があるかという点は当然注目する部分です。
一方、ベテラン勢や現在活躍しているスタッフは、必ずしも最新の手法にはこだわってはいません。むしろ保守的な面もありそうです。しかし、そのことを楯に新しい技術やサービスの導入をしないでいれば、会社としては周回遅れになりかねないのです。その時慌てても、後の祭り。期待の人材が次々と抜けて行きかねません。いま、若い世代の感覚をうまく活用することで、未来志向の姿勢を示すこともできるでしょう。
たとえば情報システムやITへの理解。これは若い層であるほど敏感です。その際、見比べる対象になるのは、他社だけではありません。自分がプライベートで用いている機器やシステムと比べて使い勝手がいいか。そして、ロスのある運用をしていないか。そういった点までよく見る可能性は十分あります。
現代の若い世代が見ているもの
現在の20代、30代は、そのライフスタイルの中で「節約」をごく自然に身につけて、効率のよい消費を心がけてきた世代です。勤め先のスタンスも当然厳しい目で検討するでしょう。だからこそ、企業がIT資源を有効に活用しているかどうかも、そういった若い世代にとっては長期展望を計るモノサシとなります。
こと現代において、長く働くことは、その過程で様々な働き方に変化する可能性を持っています。会社が制度面、環境面の両方からバックアップを行うことで、社員の会社に対する意識も大きく変わるもの。かつて日本が誇った終身雇用に対する“幻想”は、社員にも経営陣にも薄れてきている面はあるでしょう。しかし、経営陣が長期を見据えた姿勢や戦略を示すことができれば、長く働きたいと思う社員も自ずと増えてくるはずです。
連載記事一覧
- 第1回 人材を本気で集めるならば多様性を確保せよ 2016.02.01 (Mon)
- 第2回 長期雇用の戦略は他人のためならず 2016.02.04 (Thu)