企業にとって真剣・深刻な人材確保の問題。特に、社員数が少ない企業ほど頭の痛い問題です。社員に愛され、長くいたいと思わせる企業になるために、どんなことができるでしょうか。本連載では、企業の人事、労務問題に長く携わっている社会保険労務士・中村俊之さんの監修のもと、人材確保のヒントを紹介していきます。
古くは小規模なメーカーなどが人材確保の新しい動きに積極的で、海外からの就労者を含め多様な働き手を用いてきた経緯があります。しかし、団塊世代の退職や少子化の進行につれ、あらゆる企業がさらに多様な人材確保を念頭に置く必要が出てきました。これからの時代、経営者にとってどんな覚悟が必要になるのでしょうか。
企業の成長や社会貢献につながる「多様性」
ダイバシティとは「多様性」という意味の言葉です。自然科学の分野では、生物や種が多様性を持つことで変動する環境への適応や進化が可能になる、といったニュアンスを持っています。
これが人間社会や企業経営に応用され、多様性を持つことでイノベーションを起こさせたり、タフな企業作りが可能になるという考え方につながります。大手企業のCSR報告書などでもしばしば見られる流行のキーワードといえるでしょう。
企業にとっての多様性は、いくつかの側面があります。たとえば従業員や顧客については、年齢や性別、人種、国籍、宗教、そして障がいや性的指向など様々な人を取り入れることが挙げられます。その結果、企業の成長や社会貢献の可能性が広がるという発想です。ほかにも様々な多様性が企業活動を進める上で重要な要素になると考えられています。
いま、企業に「ダイバシティ」が求められる理由
ここまで話が膨らむと自社のこととして考えるのには、ハードルが高くなってしまうかもしれません。ただ、身近な例に立ち返ると、シンプルには「多様な働き方を認めること」でもあります。
すでにいやおうなく多様な働き方を取り入れている企業もあれば、事情があってなかなか許容できない企業もあるでしょう。
現在、多くの企業にとって悩ましい課題の一つが人材の確保であることは間違いありません。団塊世代の退職、(出産後の)女性社員の確保、介護による管理職の職場離脱、障がい者雇用……。こういった事態に対し、防御策をとらねば、人材の流出は避けられないといえます。新たに雇用したとしても、同様のリスクは常につきまとうもの。かといって、フルタイムで働ける新卒者や即戦力の中途採用も思うようにはいかないのが現実でしょう。
長い目で見れば高齢化や少子化がますますその傾向に拍車をかけています。とすれば、時短勤務や在宅勤務といった多様な働き方を視野にいれた人材確保が今後のポイントになると言えそうです。
多様な人材が企業にもたらすものは……
さらに言えば、多様な人材確保で得られるのは、企業にとって働き手だけではありません。人生観やライフスタイルが多様になっている中、企業に多様な人材がいること自体がマーケティングリサーチの一助になるのです。たとえば、介護が必要な人がいる家族のニーズ、海外から来た人が日本で期待することなど、多様な人材が社内にいることで、今後広がっていく市場についての情報が得られたり、新たな商品やサービス創造のきっかけにもなります。
女性や高齢者、介護離職者、障がい者の雇用については、すでに国や自治体も積極的な支援をしていて、助成金制度なども設けられています。社会保険労務士や税理士などに相談して、活用するのも一つの手です。
とはいえ、多様な働き手を確保するには人材を採用すればいい、というだけでは済みません。必要であれば就業規則や社内規程の見直しも行い、やや大げさな言い方ですが、企業文化にも手を入れて、これまでの働き手と、新しい働き手の両方をフォローしていく必要があるのです。
今後、時短勤務や在宅勤務といった働き方が増えていくことを考えると、コミュニケーションや情報共有の面でも新しい取り組みが必要になるでしょう。オフィスにいられない時でも、同僚たちとコミュニケーションが取りやすい仕組みや、適宜の顧客対応が可能な仕掛けなどは、通信システムの導入でカバーすることも考えられます。
多様な働き方を支える上で重要なのは、経営者のビジョンももちろんですが、経営者が一人で走って行くのではなく、スタッフや顧客のニーズをしっかりくみ取ること。そして、専門家の智恵やノウハウをうまく活用して会社にとっても無理がない動きとしていくことがなによりも大切といえるでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 人材を本気で集めるならば多様性を確保せよ 2016.02.01 (Mon)
- 第2回 長期雇用の戦略は他人のためならず 2016.02.04 (Thu)