1.エッジAIとは?概要を解説
エッジAIとは、ネットワークの端に位置し、内部と外部をつなぐ役割を果たすシステムです。エッジAIとクラウドAIは性質や得意・不得意が異なります。この章では、エッジAIについての詳細と、クラウドAIとの違いについて解説します。
1-1.エッジAIとは
エッジAIは、端末で入力された情報をクラウドに送る前にAI処理を行う仕組みのことです。エッジAIのエッジは「端」を意味し、ネットワークの中で末端にあるデバイスを指しています。
また、端末の近くに設置したサーバーでデータ処理を行う構造を「エッジコンピューティング」と言い、AIを搭載したエッジコンピューティングがエッジAIです。スマートフォンやIoTなどの端末からの情報をエッジAIが処理することにより、クラウドへのデータ送信を極力減らして通信速度やコストの軽減が可能となりました。
1-2.クラウドAIとの違い
クラウドAIはクラウドを通して提供されるAIです。クラウドAIとエッジAIの違いは以下のポイントが挙げられます。
- ● 学習環境(クラウド内:端末内)
- ● 扱えるデータ量(クラウドAI>エッジAI)
- ● アウトプットの瞬発性(エッジAI>クラウドAI)
- ● 処理能力(クラウドAI>エッジAI)
クラウドAIはクラウド上のコンピュータでデータの処理を行うため、膨大なデータを得られる学習環境では、コンピュータのスペックが高ければ高いほど高度な計算や判断能力が身につきます。
対してエッジAIに求められている能力は、端末で行われた操作に対して、利用者が求める判断を瞬時に導き出すことです。画面認証や音声認識のスピーディーさはエッジAIならではのもので、クラウドAIにはない持ち味といえます。
2.エッジAIを活用する3つのメリット
エッジAIの活用には以下3点のメリットが挙げられます。
- ● データの送受信に時間がかからない
- ● 情報漏えいのリスクを軽減できる
- ● データ通信量を軽減できる
具体的にメリットを把握することで、自社に適した活用方法を検討しやすくなります。自社が抱えている課題を理解しつつ読み進めてみましょう。
2-1.データの送受信に時間がかからない
端末で生成したデータをエッジAIが分析、処理を行うことでクラウドへのデータ量を軽減し、データ送受信の時間が短縮されます。エッジAIが流通するまでは、クラウドAIが処理したデータを端末がアウトプットするという工程が必要だったため、データ処理に多くの時間が必要でした。
しかし、製造業の機械やロボット、銀行ATMカメラや顔認証システムなど、AIの普及やデジタル化に伴って機械が現場で判断できる処理能力が求められてエッジAIが注目されました。クラウドの混雑やインターネット接続環境に左右されにくく、レスポンスが早いです。
2-2.情報漏えいのリスクを軽減できる
端末からクラウドに送信された画像や音声などのプライバシー情報は、クラウドAIの不具合や通信経路などで、情報漏えいのリスクが存在します。インターネット上にあるクラウドへのデータ送信は、いわばマンションの一部屋に送られた郵便物であり、第三者から認識されやすくサイバー攻撃を受ける可能性があります。
一方で、エッジAIはプライバシー情報であると解析し、暗号化や解析済みのデータとしてクラウドでの送信や自社サーバーへの保存が可能です。外部ネットワークに頼らずデータ処理が可能となるため、情報セキュリティの向上が期待できます。
2-3.データ通信量を軽減できる
エッジAIで処理されたデータは、クラウドに送るデータを最小限にできるため、通信量を軽減できます。これまで一般的だったクラウドAIでは、端末から送信するデータの処理は圧縮程度(zipファイ ル)の対応しかできず、通信コストやクラウドサービスのサーバー容量など、コストの高さが課題で した。
エッジAIは軽微な計算やデータではクラウドの処理能力を必要とせず、高度な通信を必要としません。クラウドAIの処理を必要とするデータを限定して送信する能力もあるため、定額制の通信量を抑えられ、利用料金の軽減が可能です。
3.エッジAIを活用する2つのデメリット
エッジAIには以下2つのデメリットが挙げられます。
- ● 処理能力が限定される
- ● 管理の手間・コストがかかる
エッジデバイスを活用する際には重要な事項となるため、導入前の対応を視野に入れながら見ていきましょう。
3-1.処理能力が限定される
エッジAIの能力は、端末のスペックによって左右されやすく、処理速度や処理能力はもちろん、大容 量データの処理は不得意です。エッジAIが処理できないデータは、クラウドAIを必要とするためデー タの送受信が必要となり、エッジAIにとっての売りであるアウトプットの速さを発揮できません。
また、エッジAIは学習と推論を分けて運用していて、クラウド上で学習、端末で推論を行う方式が主流です。クラウドにて学習されたAIの学習モデルをアップロードし、端末での推論や処理を最小限に留めることで、省電力かつ低価格の端末が実現されています。
しかし、端末がオフラインになった場合、脳が切り離されたように端末での処理が不可能となるため、常にオンラインを保つ必要があり、インターネット接続環境の整備が求められます。
3-2.管理の手間・コストがかかる
エッジAIの運用には、エッジAIを搭載した端末、データの送受信を行うネットワークのすべてを管理しなければなりません。端末が多いほど管理は複雑化するため、すべてを管理する場合は管理担当者の配置やシステムの導入など、労力とコストが必要となります。
また、社内システムのアップデートや入れ替えの際には、ソフトのダウンロードや同期作業など端末ごとの対応も求められます。一元管理が可能なシステムもありますが、既存のシステムからの変更リスクも考えられるため、慎重な対応が必要です。
4.エッジAIの活用シーン4選
すでにエッジAIが活用されているシーンを以下4つ紹介します。
- ●自動運転
- ●IoT
- ●製造業(スマートファクトリー)
- ●検品作業の効率化
エッジAIの素早いデータ処理は、製造業の他にも公共インフラ、医療、農産業などさまざまな事業で活用可能です。また、エッジAIを活用したサービスも合わせてご紹介します。
4-1.自動運転
自動運転車とは、運転操作が自動化された車両のことです。搭載されたセンサー・カメラ・GPSなどから外部情報を得て、ハンドル操作・アクセル・ブレーキ・バック駐車ができます。これらは瞬時の判断が重要となるため、エッジAIを活用しています。
自動運転技術によって、追突や接触事故の減少や長距離を移動するドライバーの負担軽減などのメリットが挙げられています。自動運転車は0〜5レベルの6つに分類されていて、レベル5の完全運転自動化は、AIの進歩と自動車側のシステム向上が必要とされています。
4-2.IoT
急成長を遂げているIoT技術の普及によって、インターネットに接続できるデバイスの種類や数は増加し、AIの必要性は今以上に高まっていくでしょう。さまざまな機器を通信させると、通信量の増加や通信帯域の占有といった問題が生じます。しかし、エッジAIを活用した処理を行えば、それらの課題解決が期待できます。
今後、さらなるIoTの普及にはエッジAIが欠かせない存在と考えられるため、IoTとエッジAIのつながりはより強固になるでしょう。「NTT東日本」では、IoTの環境構築を一元的に集約するプラットフォームサービスを提供しています。企業のDXによる業務効率化をめざす方は、お気軽にご相談ください。
「IoTプラットフォーム」
4-3.製造業(スマートファクトリー)
スマートファクトリーとは、ロボットやAI技術を用いたDX化によって、設計・保守までを最適化した工場のことです。スマートファクトリー化によって以下の業務が改善できます。
- ● データの収集・解析・処理
- ● 生産計画の立案
- ● 製造可否のシミュレーション
- ● 製品品質の管理
- ● 生産ラインの管理
- ● 物流との連携
- ● 工場全体の見える化
これらの実現によって製造効率の向上はもちろん、在庫管理や設計作業など人の手が必要だった部分の業務軽減や、ロジスティクスの改善が期待できます。(ロジスティクス:物流の一連の流れ)また、直接的な作業が減るため、現場作業員の安全が保たれるでしょう。
「NTT東日本」では、防災に焦点を当てたデジタルツインシステムと映像AIによる見える化を支援するサービスを提供しています。工場内での業務改善や労働災害の防止を課題として抱えている方は、お気軽にご相談ください。
「目が行き届かない現場作業者の安全をデジタルツインで見える化」
「映像AIサービス」
4-4.検品作業の効率化
レーンを流れる製品を1つずつ人で検査するには、大量の人員と時間が必要なためコストも高く、人為的ミスも考慮しなければなりません。検品システムを用いた製造業では、画像認識技術を搭載したカメラを検査レーンに設置し、レーンを流れる製品をスキャンして不良品を検出する仕組みを活用できます。
高速に流れる製品を正確かつ迅速に判定し、アラームやレーン停止の判断を行えるレスポンスの速さはエッジAI特有のものです。「NTT東日本」の「AI外観検査ソリューション」は良品画像を読み込ませた機械学習によって、検品作業の熟練者に近い判定ができます。
AIによる24時間の稼働が可能になり、人件費の軽減や個人差による品質のばらつき防止につながります。検品業務における生産性向上を実現したい方はお気軽にご相談ください。
「AI外観検査ソリューション」
5.まとめ
ネットワークの端を意味するエッジAIは、軽微なデータであればクラウドに頼らず判断が可能なAI技術です。IoTの普及とともに、近年急速に進化を続けており、企業のDX化も例外ではありません。また、エッジAIの技術は自動運転やスマートファクトリーの実現にも欠かせない存在です。
大容量のデータや複雑なデータには不向きとされていますが、現場でのアウトプットの速さやクラウドを介さないため情報セキュリティを強化できます。「NTT東日本」が提供する「地域エッジクラウド」は、地域の各端末からソリューションデータを堅牢なデータセンタに収集し、エッジコンピューティングシステムによるデータ処理を行うことで、通信量の抑制やリアルタイムな対応が期待できる地域のクラウドサービスです。
地域の産業と人をつなぐため、災害時の迅速な対応やエネルギーの効率的な使用、駐車場情報のリアルタイムな提供など、さまざまなシーンで利用が期待できます。地域活性化や情報セキュリティの向上、緊急時の対応に課題を抱えている方はお気軽に「NTT東日本」へご相談ください。