2023.11.21 (Tue)

<2023年秋>これからデジタル地域通貨事業を検討するうえで押さえるべきポイントとは

2000年ごろから、地域経済やコミュニティ活性化を目的に全国各地で導入されていた地域通貨。近年、持続可能なまちづくりを実現する手段として「デジタル地域通貨」が再び注目を集めています。

デジタル地域通貨を導入・運用するにあたっては、押さえるべきポイントがいくつも存在します。

この記事では、デジタル地域通貨の概要や導入のメリットに加え、実際に導入に成功した自治体からの“生の声”と令和6年度以降に導入を検討するうえで押さえるべきポイントを紹介します。

1. そもそもデジタル地域通貨とは?

 デジタル地域通貨とは、「特定の地域でのみ利用できる電子決済手段」です。1999年に政府によって実施された緊急経済対策をきっかけに、2000年代前半には紙媒体の地域通貨が多くの自治体で活用されました。地域の外にお金を流出させず、地域内経済循環を促す役割を期待されていましたが、紙媒体ゆえに多額の運用・管理コストがかかることから、費用対効果をなかなか見出しにくく、持続的な活用にはつながらないケースがほとんどでした。

 そこで、地域通貨のメリットを残しつつ、デジタルの力によってデメリットを解消したものが「デジタル地域通貨」です。紙媒体の際に発生していた発行・運用に関するコストを大幅に削減できるほか、デジタル化したことでさまざまなメリットがあり、まちづくりを推進するうえでの重要なインフラになると考えます。

2. デジタル地域通貨が、まちづくりにおけるトレンドの一つに

 2017年ごろから、デジタル地域通貨が登場しました。飛騨高山地域で展開されている「さるぼぼコイン」や、木更津地域の「アクアコイン」などが有名です。その後、新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに普及が加速しました。緊急事態宣言の発出によって落ち込んだ消費を喚起するための「プレミアム付き商品券」も地域通貨の一種ですが、当時の非接触決済ニーズの高まりもあり、デジタル地域通貨としてプレミアム付き商品券を発行する自治体が増えてきました。

 現在、デジタル地域通貨は全国約60団体※1で運営されています。また、導入にあたってはデジタル田園都市国家構想交付金を活用する自治体も多く、採択数は2022年度に10件、2023年度には30件と1年で3倍にも拡大しました。

※1:2023年6月時点、NTT東日本調べ。デジタル地域通貨の運用数。主な運営団体は市区町村群、商店街連合会、金融機関など

3. デジタル地域通貨を導入するメリット ~地域課題を解決するプラットフォーム~

 デジタル地域通貨には、「地域経済をより活性化させる」という地域通貨本来のメリットに加え、以下のようなデジタルならではの恩恵があります。


 これらのメリットをまとめて一言で表現すると、「地域課題を総合的に解決するプラットフォーム」と言えます。デジタル地域通貨の利用用途は単なる決済手段という枠組みを超え、行政で実施している各種給付金の付与や、健康ポイント・脱炭素ポイント・ボランティアポイントなどのさまざまな施策に活用することができ、地域内経済循環を促すだけでなく、住民の行動変容や地域コミュニティの活性化を実現することが可能です。利用者や地域の事業者としても、地域通貨を通して行政の施策が一元的に分かるようになるだけでなく、消費拡大やキャッシュレス化という恩恵を受けることができます。まさに、行政・住民・地域事業者の3方にメリットのある仕組みです。

4. 【事例】2022年に“ながいコイン”を導入した山形県長井市

 ここからは、導入の成功例をひとつご紹介します。山形県長井市では、“スマートシティ長井”の実現に向け、デジタルを活用した12の事業を実施することを計画していました。そのうちの1つとして、地域の経済循環を生み出すデジタル地域通貨に注目し、検討や実証を経て、2022年に“ながいコイン”として事業をスタートしました。導入から約1年半、確かな手応えを感じているようです。

内谷市長より

 NTT東日本と共に実施した実証実験でデータを収集したところ、経済効果があることが確認でき、実装に至りました。ながいコインは、市内166店舗でお使いいただけるようになっており、地域住民の方々をはじめ、さまざまな方々にご利用いただいています。

 ご高齢の方々もご利用いただきやすいように、スマートフォンがなくても利用可能な「カードタイプ」もご用意しながら、徐々にスマートフォンタイプに移行していただくようにしています。

 市民の皆様からも、「最初は不安だったが、大変便利だ」という声もいただいています。

 今後は、健康ポイントや、ボランティアポイント、エコポイント等をながいコインで付与することで、高齢者を含めた市民の方々のスマホ利用促進にもつなげていきたいと考えており、そういった点も含めて、大変いい事業になることを期待しています。

長井市総合政策課デジタル推進室髙橋様、遠藤様より

 デジタル地域通貨は、デジタル化によるコスト削減など行政としてのメリットは多い一方で、住民の方々に使っていただけるのか?という点で不安がありました。

 実証実験を経て根拠に基づく実装に至ったことや、商工会など重要な地域のプレイヤーをしっかり巻き込んだことで、ながいコインを軌道に乗せることができたと考えています。

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5. 2024年度以降に導入するうえで押さえるべき4つのポイント・課題

 デジタル地域通貨は地域課題を総合的に解決する魅力的なプラットフォームですが、単にシステムを導入するだけでは地域に普及定着させることはできず、失敗に終わってしまう可能性もあります。

 デジタル地域通貨を普及させるうえでの一つのシナリオとして「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」などの国による経済対策を原資に、プレミアム付き商品券として住民へ給付するキャンペーンによって、住民の利用を促し地域に浸透させる手法が一般的でしたが、今後もこういった臨時交付金が政策として続くとは限りません。では、これから事業を成功させるには、どうしたらいいのでしょうか。押さえるべき4つのポイントをご紹介します。

<抑えるべき4つのポイント>

1.地域の重要な関係プレイヤーとの合意形成を図りながら進めていく

2.何を目的に導入するのか、コンセプトを明確にする

3.中長期的にどのように普及定着させていくのか、ロードマップを作成する

4.コスト構造・財源を明確にする


 デジタル地域通貨のシステムを導入してから、上記の押さえるべき4つのポイントを検討するのではなく、事業開始前に関連プレイヤーを巻き込みながら広く長期的な視野で事業設計をしていくことが重要です。

6. まとめ

 NTT東日本では、地域の関連プレイヤーの巻き込みや地域特性に合わせた事業設計など、デジタル地域通貨をはじめとするまちづくりを支援いたします。

 「コロナウイルス臨時交付金がない現在、どのように事業を進めていくべきか?」など、国の動向に合わせたご相談も承っております。

デジタル地域通貨を活用したまちづくり

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