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人口約2.5万、高齢化率3割超えの市がデジタル地域通貨を導入
地域経済の活性化やデジタル化に対する市民の意識醸成に成功

長井市では、国のSociety5.0に向けた動きを受け、Society5.0の実現に向けた取り組みを進めることを決定。内閣官房のデジタル専門人材派遣制度を利用して、NTT東日本から人材の派遣を受け、2020年にデジタル推進室を設置。デジタル技術を活用した持続可能な都市「スマートシティ長井」の実現をめざし、さまざまな事業を推進してきました。その一つとして、長井市独自のデジタル地域通貨「ながいコイン」を展開し、地域経済循環の創出や高齢者のデジタル化に対する意識醸成に成功。今後は健康ポイントやボランティアポイントなどをきっかけに、市民の市政参加促進にもつなげていきます。取り組みの背景や成果について、長井市のご担当者にうかがいました。

山形県長井市

  • 人口約2.5万、高齢化率3割超えの市がデジタル地域通貨を導入 地域経済の活性化やデジタル化に対する市民の意識醸成に成功

導入いただいたソリューション

デジタル地域通貨

ソリューション導入効果

  • 地域経済循環の推進や地域内消費の拡大ができた
  • さまざまな行政施策に活用できる還元プラットフォームを整備できた
  • デジタル化に向けた地域の意識醸成やデジタルデバイド解消の一助となった

NTT東日本選定のポイント

  • 地域との結びつきが強く、地域を巻き込んだ運用体制を共に構築できること
  • 他自治体でのデジタル地域通貨事業やデジタル専門人材派遣の実績が豊富だったこと
  • 幅広い年齢層が使えるソリューションや持続可能な料金モデルを提案してくれたこと

地域のお金を地域で回す環境をつくりたい!
スマートフォンタイプとカードタイプの併用で
高齢者の利用を促進

――デジタル地域通貨「ながいコイン」を導入した理由や背景をお聞かせください。

佐々木氏:長井市では国のSociety5.0に向けた動きを受け、2019年度の施政方針にSociety5.0の実現に向けた取り組みを進めることを記載しました。ただ、庁内だけでは専門的な知見を有する職員が不足していたため、内閣官房が創設したデジタル専門人材派遣制度を活用し、NTT東日本から小倉さんを派遣していただきました。2020年には小倉さんを室長としたデジタル推進室という若手職員中心の組織を立ち上げ、デジタル技術を活用した持続可能な都市「スマートシティ長井」の実現をめざして、さまざまな分野で取り組みを進めています。

その一つが、長井市独自のデジタル地域通貨「ながいコイン」です。地域の皆さまが地域で買い物することに直結する施策を実施したいと考え、導入しました。というのも長井市では、市外や県外へ買い物に出かける人も少なくありません。そのため現金給付での支援施策では、市外にお金が流出してしまう懸念があり、地域で消費が循環する仕組みを整えたかったのです。

また「スマートシティ長井」全体として、さまざまな施策の中でデータを取得し、そこから新たな価値を見出していくという考え方のもとで展開していますので、デジタル地域通貨の利用状況も把握し、将来的な利活用につなげたいと考えていました。

――デジタル地域通貨の展開をNTT東日本へ依頼した理由は何でしょうか。

佐々木氏:QRコードを読み込んでチャージするスマートフォンタイプと、スマートフォンがなくても使えるカードタイプの2種類を併用できるソリューションを提案していただいたことです。長井市は高齢化率(65歳以上人口)が35.7%と高く、デジタル地域通貨を本格展開する上では、いかに高齢者にも利用しやすいものにするかが大きな課題でした。事前の実証実験でも、70代以上はスマートフォンタイプを使いこなすのが難しいと感じる人が少なくないことがわかっていました。

もう一つは地域とのつながりです。デジタル地域通貨の普及には、市民の皆さまや地域の商店の理解が不可欠です。各地に支店を置き、地域との結びつきが強いNTT東日本となら、地域における連携体制もスムーズに構築できるのではないかと考えました。

※2020年国勢調査より

長井市 総合政策課 デジタル推進室 係長 佐々木 詩織氏長井市 総合政策課 デジタル推進室
係長 佐々木 詩織氏

長井市 総合政策課 デジタル推進室 主事 髙橋 瑞貴氏長井市 総合政策課 デジタル推進室
主事 髙橋 瑞貴氏

還元率や手数料など制度設計にも的確なアドバイス
地域に密着した二人三脚の支援で定着へ

――実際にどのように展開を進めていったのでしょうか。

佐々木氏:展開施策の第1弾として、2022年5月より、プレミアム商品券に相当する「ながいコインプレミアム」の販売を開始しました。長井商工会議所と連携して、加盟店の募集や加盟店向けの説明会を実施し、利用者向けには販売の際に対面での説明ブースを設置しました。

展開にあたって最も苦労したのは、事前の制度設計の部分です。キャッシュフローはどうすればスムーズなのか、利用促進につながりやすい還元率や店舗が加盟しやすい決済手数料はどれくらいなのかといったことは、NTT東日本にアドバイスをもらいながら検討し、利用者にも加盟店にもメリットのある制度を時間をかけて設計しました。

髙橋氏:NTT東日本とは週1回程度のペースで打ち合わせを実施していました。オンラインだけでなく、長井市にも直接来て生の声を聞いて状況を把握してくれました。導入前にあるスーパーマーケットから「どういうオペレーションが発生するのか教えてほしい」という問い合わせがあったのですが、当時まだ我々では回答できず、NTT東日本に相談すると、すぐに駆けつけてくれたこともあります。加盟店や商工会議所にも一緒に出向いて説明や調整をするなど、二人三脚の伴走支援をしていただきました。

他の自治体の導入事例をいろいろ紹介してもらえたのもよかった点です。紹介いただいた事例を長井市に当てはめた場合はどうなるかなどを検討してきましたが、NTT東日本の専門的な知識に助けられました。

佐々木氏:「ながいコイン」は2022年度・2023年度に全戸配付をしているので、ほぼ市民全員が一度は使ったことがある状況で、一定の認知を獲得しています。市から配付するだけでなく、恒常販売もしており、最近は地域団体の親睦会や地区の運動会といった地域のイベントの景品に利用されるシーンも増えてきています。2023年度は販売場所を市内2カ所から4カ所に増やし、より利用しやすい環境を整えました。

髙橋氏:「ながいコイン」は、1005円券を1000円で、5025円券を5000円で販売しており、0.5%のプレミアムがつきます。ちりも積もれば山となりますが、おそらくこのプレミアム目当てで購入している方は少なく、現状は地域で使いやすい贈りものとして購入されているのだろうと思います。

これまで国のコロナ対策や物価高騰対策に係る臨時交付金等を原資に、無料での配付や50%という高いプレミアム率を上乗せして販売してきましたが、今後は国の施策や還元率に依存せず、恒常的な利用を拡大・定着させるための仕組みを構築していく必要があります。デジタル地域通貨は、一度ソリューションを導入したら終わりではなく、継続して定着させていくものです。NTT東日本からはそのことを踏まえた持続可能な料金モデルを柔軟に提案してもらえたのもありがたかった点です。現在も月1回程度定期的な打ち合わせの場を設け、現状の把握や利用拡大に向けた今後の施策の検討をしています。最近では「スマートシティ長井」実現事業の視察ツアープランに、あらかじめ「ながいコイン」を組み込んでもらうといったこともしました。

2021年5月に開庁した新庁舎。1階に総合案内と利用頻度の高い窓口を集約2021年5月に開庁した新庁舎。1階に総合案内と利用頻度の高い窓口を集約
上)「ながいコイン」使用可能店舗のポスター。下)使用時はQRコードを提示して店員に読み取ってもらうか、店舗に掲示のQRコードを読み取って決済上)「ながいコイン」使用可能店舗のポスター
下)使用時はQRコードを提示して店員に読み取ってもらうか、店舗に掲示のQRコードを読み取って決済

1年半で約5.5億円が流通、加盟店舗数160店以上を確保
さらなる用途拡大と価値向上で持続的な還元プラットフォームへ

――「ながいコイン」の利用状況や市民の皆さまからの反響はいかがですか。

髙橋氏:2023年10月末現在、「ながいコイン」の総流通額は約5.5億円です。国からの交付金などを原資に非常に大きな流通額を確保できました。すでに利用期限を迎えた「ながいコイン」の利用率は約97.4%と高く、ほぼ使われている状況です。決済別でみると、スマートフォンタイプは約33%、カードタイプが約67%、また加盟店舗数は166店舗に上っています。

前例のない取り組みでもあるため、市民からは「利用方法がわかりにくい」「現金配付のほうがよい」といったお声もいただくことがあり、使用感や利便性のさらなる向上を図る必要があると考えています。その一方、先進的な取り組みだと評価してくださる方も多くいます。スマートフォンタイプしか使えない加盟店で利用するために、「使い方を教えてほしい」と市役所の窓口にいらっしゃる高齢者の方もおり、デジタル化に向けた意識醸成やデジタルデバイドの解消にも一役買っている部分もあるのではないかと思います。また一部の加盟店からは、交付金等が地元へ還元されていることを評価する声も届いています。

NTT東日本には小倉さんのデジタル専門人材の派遣にはじまり、「ながいコイン」の制度設計、地域との連携体制の構築支援、本格的な運用後のサポートに至るまで、さまざまな場面で伴走支援をいただきました。それが「ながいコイン」の定着につながったと感じています。

――「ながいコイン」の今後の展開や「スマートシティ長井」の実現に向けた取り組みの展望をお聞かせください。

髙橋氏:今後「ながいコイン」が取り組むべき最大の課題は、持続的な事業モデルづくりです。その一つとして、ボランティアや健康教室など市の施策に参加した際にインセンティブとしてポイントを配付し、それを「ながいコイン」に交換できる仕組みを整備しているところです。ポイント施策は市政への参画を促進できますし、健康教室への参加は市民の健康増進にもつながるなど、複合的な効果を生み出せると考えています。現在、2024年上期のリリースをめざし、マイナンバーカードと連携したポイント配付のシステムを検討中です。

「スマートシティ長井」全体では、「ながいコイン」を含め12の事業を進めており、分野の異なるデータを連携させて新たな価値やサービスの創出につなげようとしているので、収集するデータは多いほどよいのです。「ながいコイン」においてはスマートフォンタイプのほうが利用者の属性情報や購買データを収集しやすく、ポイント施策やアプリをきっかけに、スマートフォンタイプの利用拡大が図れたらと考えています。

それ以外には、利用の際に割引や特典をつけるなど加盟店と協力してインセンティブの検討もしていきたいと思っています。また、観光客向け宿泊プランでのセット販売などにも取り組んでいきます。

左)長井市は競技用けん玉の生産量が日本一。右)市役所は山形鉄道フラワー長井線の長井駅と一体化左)長井市は競技用けん玉の生産量が日本一
右)市役所は山形鉄道フラワー長井線の長井駅と一体化

長井市 総合政策課 デジタル推進室長 小倉 圭氏長井市 総合政策課
デジタル推進室長 小倉 圭氏

NTT東日本 山形支店 ビジネスイノベーション部 地域基盤ビジネス担当 鈴木 咲季NTT東日本 山形支店
ビジネスイノベーション部
地域基盤ビジネス担当 鈴木 咲季

引き続き暮らしのさまざまなシーンで日常的に「ながいコイン」を使える環境を構築していきますので、NTT東日本にも利用用途の拡大や効率的な事業運営を共に検討いただきながら、伴走支援していただければと思います。

*上記ソリューション導入時期は2022年5月~です。

*文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2023年12月時点(インタビュー時点)のものです。

*上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。

山形県長井市
組織名 山形県長井市
概要 山形県南部に位置する長井市は、西に葉山連山、東に出羽丘陵を眺める長井盆地の中にあり、四季折々の美しい風景を楽しめます。長井の地名は「水の集まるところ」を由来としており、古くから最上川の舟運で栄えてきました。市内にはプレス加工や鍛造・樹脂成形などを得意とする企業が多く、「ものづくりのまち」としても知られています。

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