「入居者の生活費を下げつつ、 オーナーの収支を上げる」 ネット無料物件での収益改善時代へ
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2023.7.10 (月)Posted by
■電力会社7社が2023年6月1日より値上げ開始
円安に加え、ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰により、6月1日より、大手電力会社7社で電気代の値上がりが発表されました。最も値上げ幅の大きい、北陸電力では、39.7%の平均値上げ率。標準世帯(月400キロワット時)の支払額は、1万1155円から1万5879円へ約5000円も多くなります。
東京電力も15.3%の値上げで標準世帯(月400キロワット時)の支払額は、1万4444円から1万6522円と約2000円高くなります。 東京電力の電気料金は、この一年で既に、1.4倍に上がっていて、6月から再度の値上げ。これから暑くなり冷房が必要となる中、家計は厳しさを増しています。
一方で、食料品なども6/1から一斉に値上げ。帝国データバンクが、国内の食品や飲料メーカー、195社を対象にまとめた調査によると、6月に値上げされる食品や飲料は「再値上げ」や価格を変えずに内容量を減らす「実質値上げ」を含めて、なんと3575品目。カップ麺だけで567品目が値上げだそうです。 ウクライナ危機による小麦など輸入品の品不足や、鳥インフルエンザでの卵の品不足など、様々な要因で、物価高騰の波が来ています。
■消費者の財布のひもは固くなる中、オーナーの可処分所得も下がってしまうことに
こうなると、「入居者は生活費が急にあがって、困ってしまう」だけでなく、収益物件オーナーも不動産会社も「同じ収入でも、支出が増えるので可処分所得が減る」という悪循環を招きます。
そこで、3月に書いたこのコラムの、「物価高で考えたい、脱家賃デフレの新戦略」のように、なんとか、設備強化をして家賃下落を食い止めたいという声が、各地で上がっています。
■築年により家賃が下落する市場。新築7万円が、築30年だと3-4万と半額に
例えば、大宮と高崎の単身物件の賃料を見てみると、図のように、大宮でも高崎でも、新築はなんと7万円前後という高い賃料設定。繁忙期を終えても、新築や築浅が決まらず、苦戦しています。なにしろ平均賃料と比較するとかなり割高ですから。
一方で、築古になると、10年単位では、1万単位で家賃は下落。大宮と高崎を比較すると、高崎は下落幅が大きく、地方都市における強気の新築・築浅がなかなか決まらない一方で、築古の家賃下落の乖離の大きさは非常に気になります。これはなにも、大宮と高崎での特殊な現象ではなく、首都圏と郊外の差はありつつ、日本全国で起こっている現象です。
■大宮単身物件の賃料相場
■高崎単身物件の賃料相場
■設備強化により、確かに家賃下落が食い止められる。 ネット無料物件は、平均賃料よりも7-8000円高い
では、「物価高で考えたい、脱家賃デフレの新戦略」で述べたように、設備強化をすることで家賃下落は食い止められるのでしょうか。実際に調べてみると、ネット無料物件は、平均賃料よりも7-8000円高い賃料相場になっています。
■大宮単身物件の「設備装置」別、賃料相場
■高崎単身物件の「設備装置」別、賃料相場
■ならば、築古物件をネット無料にすれば、 7-8000円高い家賃でも納得できるか。実は、そうではない
実はネット無料の家賃が高いのは、「家賃の高い築浅物件ほどネット無料が多いから」という点もある。築浅物件は、他の設備も装着率が高く、トータルで魅力的であり、家賃が高い。「築古物件をネット無料にしたから、さあ、家賃を上げて募集賃料を7-8000円上げよう」というのは、主逆が違うと言えます。自分で、ネットを自宅にひいた場合、6-7000円はかかるので、「ネット無料だから7000円アップ」ではなんの魅力もありません。
■大宮単身物件の築年別「人気設備装置」率
■高崎単身物件の築年別「人気設備装置」率
■ネット無料で、3000円アップの賃料ならば 入居者の生活費は下がる
自分で自宅に高速インターネット回線をひいたら、6-7000円かかる。仮に、5万円の家賃だとすると、上図のように、5万6000円程度が毎月、家賃+ネット代としてかかる。テレビは見なくてもネットを見る世代。テレワークやオンライン授業は、コロナ禍が収束しても継続しています。
こうした現状で、ネット無料物件の家賃が、仮に5万3000円になったとしても、入居者の生活費は、3000円お得になっているのです。電気代も食品代もあがるというご時世で、「お得」は、物件選びの決め手となりやすい。そして、仮に、ネット会社への支払いが、2000円とすれば、収益物件オーナーの収入も1000円上がっているのです。
■既に住んでいる入居者の賃料は上げにくい。 募集時に、「築年の相場より高め」での 「設備のちょい足し」を
先程の大宮のデータを例にとると、下記のような、賃料相場ですが、
実は、築20年を超える物件では、下記のようなことが起こっています。
新築時から長く住んでいる方ほど、高い賃料をそのまま払い続けていて、最近入居したCさんは、安い賃料で住んでいるというわけです。
では、この例で、Aさんが退去したから、ネット無料にして、7.8万円で募集しよう、というのは残念ながら難しい。また、Bさんに更新のタイミングで、「今まで、6.9万円だったけど、来月から7.2万円でお願いします」も難しいでしょう。
しかし、築20年を超えて、これまでだと、「従前の人がいくら払っていようと、次の募集賃料は、5.0万円まで下げないと決まらない」となっていたところを、「ネット無料にしたから、5.3万円にしましょう」という話です。いや、防犯カメラや宅配ボックスまでつけて、5.6万円でも勝負できるかもしれません。
これからは、こうした「設備のちょい足し」が賃貸経営のトレンドになるはずです。家賃を下げて入居者獲得というトレンドから、少しでも食い止めていくトレンドへ。なにしろ、世の中はインフレになるのですから。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。