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【特集】経営力向上セミナー(第11回)
小売業のDX、「大胆なIT投資」と「外部データの活用」を急げ
- 公開日
- 2026-01-14
posted by 杉山 俊幸 【日経BP 総合研究所 presents「経営力向上セミナー」】

DX JAPAN
代表
植野大輔氏
小売業のDXに詳しいDX JAPAN代表の植野大輔氏は「日本の小売企業はすぐにでも大胆なデジタル投資をすべきです」と警鐘を鳴らす。日本の小売企業は、IT(情報技術)投資の段階ですでに世界に大きく差をつけられているからだ。
世界最大の小売企業である米ウォルマートは、2018年に約120億ドルのデジタル投資を実施した。小売企業でありながら、IT企業の米アマゾン、米アルファベット(グーグルの親会社)に次ぐ全米3位の規模だ。注目すべきはその内訳である。実店舗がらみの投資は3割以下。大半をEC(電子商取引)とテクノロジー、サプライチェーンマネジメント(SCM)へ投資し、業務効率の向上を最優先に据えている。
ウォルマートでもう1つ注目すべきことは、約1万人のITエンジニアを社内に抱えていることだ。外部の様々なITサービスを活用してDXを進めるが、その主導権は自社がしっかりと握っている。

杉山俊幸
日本の小売企業の最大の課題は、生産性の低さだ。その実態は、米国やドイツの約3割と衝撃的なレベルであり、英国と比較しても6割程度と低い。IT投資はしているが、その大半が昔のレガシーな基幹システムの維持に使われている。本来ならば、その多くは、生産性を革新的に向上させるデジタル、IT技術に振り向けなければならない。
このような実態を前に、植野氏は「1960~70年代の小売企業を思い返して欲しい」と語る。当時、日本の小売企業の創業者、経営者たちは盛んに米国へ視察に行った。米国のショッピングモールに並ぶ多数の商品に圧倒され、米国人の豊かな生活を目の当たりにした。これを日本でも実現したい。そのビジョンの下で、全国規模の小売チェーンがいくつも誕生した。「この大胆な投資を可能にしたのは、米国で見た世界を日本で実現したいという大きなビジョンです」と植野氏は言う。
日本の小売業に必要なのは「MTP」
「パーパス」という経営用語が注目を集めている。しかし、「もっと重要なのはMTP(マッシブ・トランスフォーマティブ・パーパス)です。『野心的な変革目標』と直訳されますが、本来の意味合いはだいぶ異なります」(植野氏)。
MTPとは10~30年、時には100年先の未来に実現する、現在とは異次元の世界観のことだ。経営者の多くは数年先の近視眼的な目標に振り回され、小さな投資を繰り返す。だからすぐに陳腐化し、投資がすべて無駄になってしまう。もっと先の未来像に照準を合わせなければ、実効力のある投資はできない。
「小さなIT投資を重ねるパッチワーク的な手法では、DXは成功しません。MTPを見据えてグランドデザインを作り、そこに大きく投資する考え方が必要です。その上で、PoCなど小さな実験検証を、多産多死の覚悟でたくさんこなすべきです」と植野氏は言う。10~20年先の世界を見据え、大きくIT投資していかなければDXは成功しない。また「経営者自らがデジタルを積極的に利用し、デジタルのある生活感覚を磨いていく必要があります」とする。経営者自身が自分ごととしてとらえない限り、DXはただのお題目になってしまう。
活用できる外部データやサービスが続々
DXを進める際に重要になるのがデータの活用である。植野氏によれば、「自社が持つ顧客情報やPOS(販売時点情報管理)データを、外部企業の保有するデータとうまく連携させマーケティングに活用することが重要です」。
小売企業が活用できる外部データの一つに位置情報を活用したジオマーケティングのデータがある。例えばNTT東日本グループでは、約617万件の宿泊、観光、飲食などの施設情報を格納する「タウンページ」のデータベースを所有する。そこにアライアンス先の約2500万人のスマートフォン利用者のGPS(全地球測位システム)から得た行動履歴を組み合わせ、新規出店をする際のエリア分析に使ったり、自店舗の顧客でどんな属性の人がどんなところから来店してくれるかを把握したりもできる。また、競合店の顧客の分析もできる点が興味深い。

NTT東日本グループが提供する「ジオマーケティング」関連サービス。
タウンページの施設データとスマートフォンの行動データを組み合わせて消費者行動を分析する
これをコロナ禍での人流分析やマーケティング、ジオターゲティング広告などに活用する企業が増えている。NTTタウンページのソリューション営業部担当課長の重村周治氏は「施設データと行動データを組み合わせることで、店外にいる消費者のポテンシャルを可視化できます」と語る。

NTTタウンページ
ソリューション営業部 営業部門
データソリューショングループ 法人営業チーム 担当課長
重村周治氏

「映像AIサービス」が可能にする様々な顧客行動分析
「POSデータのみに頼ってきたマーケティングに、映像データを組み合わせることで高度化できるのです」。NTT東日本のビジネス開発本部担当課長の折戸克洋氏はこう述べる。
ある化粧品販売店は、店舗内の映像とPOSデータを組み合わせ、時間帯別の来店者の顧客属性を分析して売上高を10%高めた。また、あるディスカウントストアはデータに基づいた対策で万引きロスを40%ほど低減し、売上高を10%高めている。
NTT東日本は、新興のコネクテッドコマース(東京・渋谷)と組んで2021年7月、“売らない店舗”をオープンしたことが話題になった。設置したAIカメラから得られる、来店顧客の属性や興味、関心などを数値化して、店内への出展者にフィードバックする試みだ。

NTT東日本 ビジネス開発本部 第四部門
コラボレーション推進 担当課長
折戸克洋氏

2021年7月、渋谷にオープンした未来型AIカフェ「AZLM CONNECTED CAFÉ 渋谷地下街店
実店舗とオンラインの顧客行動を統合
様々な方法で取得したデータを有効活用するためのサービスについて、NTT東日本はワンストップで提供している。各種データはカスタマーデータプラットフォーム(CDP)と呼ばれるシステムに格納する。それをベースに活用目的をユーザー企業と共に考えるコンサルティングから、基盤の構築と運用の受託、価値創出サイクルの構築などを支援する。
導入から価値創出サイクルの構築までをワンストップで提供
NTT東日本のビジネスイノベーション本部担当課長の中川督之氏は、「IT化が進むほどデータ量が増え、その活用に関する支援ニーズが増加しています」と語る。公共、教育、製造、金融、小売、建設など、様々な業界のデータ活用を支援してきたノウハウを生かし、店舗やECサイトなど、販売チャネルごとに管理されてきた情報を統合し、活用を支援している。
こうしたデータ分析の成果を実店舗に生かす方法として、いま注目を集めているのがデジタルサイネージだ。
例えば、顧客が来店した瞬間、店舗入口に置いた大型ディスプレイにセール情報を出す。顧客がスマートフォンをかざして来店ポイントを得た瞬間、購買履歴や興味関心に関するデータを呼び出し、顧客ごとにカスタマイズされた情報を提供する。データを使って顧客ごとに異なるパーソナルなショッピング体験を提供し、ブランドのファンになってもらうわけだ。
デジタルサイネージ向けのアプリケーションやサービスを提供しているピーディーシーシステムビジネス本部課長の土屋宗広氏は、「デジタルサイネージの利点は、顧客が欲しいと思われる情報をその場で提供し、購買意欲を高めることにあります」と語る。

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部
先端技術グループ第二担当 担当課長
中川督之氏

ピーディーシー システムビジネス本部
システムビジネス1部 第2チーム課長
土屋宗広氏
「日本の店舗スタッフは勤勉で質が高く、それが日本の小売業のデジタル化を遅らせている面があります」(植野氏)。しかし、人手不足やワークライフバランスの課題が取り沙汰される中、「現場の努力に甘えることなく、デジタルを活用して優れた顧客体験を構築していく必要があります。そのうえで従業員が何をするのかを考えるべきです」と述べる。
時代はすでに変わっている。過去に戻ることはない。経営者がそれをどこまで自分ごととして認識し、変化を前提とした新たな小売ビジネスを見通せるかが問われている。
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日経BP入社後、日経ビジネス副編集長を経て、2010年9月に日経ネットマーケティング(現日経クロストレンド)編集長。2014年1月、日経ビックデータラボ所長兼日経ビックデータ発行人。日経クロストレンド発行人を経て、 2019年4月から同特別編集委員。2020年1月から日経BP 総合研究所 主席研究員。
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