電子印鑑の法的根拠|ビジネスで使えるタイプとメリット・デメリット
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2023.4.04 (火)Posted by 北森 雅雄
「電子印鑑に意味はないのでは?」と不安に思い、電子印鑑はどういう位置付けなのか詳しく知りたいという方がいらっしゃるのではないでしょうか。
文書のデジタル化は、法改正と近年のテレワーク増加によってさらに加速しています。オンライン上で書面を作成する際、文書が改ざんされていないことを証明する手段となるのが電子印鑑です。
長い間、日本では紙の書面がメインでした。電子印鑑の信頼性への疑問を抱く方が多く、いまだに普及率が高くはないのも無理もないことです。
そこで本記事では、電子印鑑の法的根拠とビジネスに使用する際の要件、使用できる書類について詳しく解説します。電子印鑑のメリット・デメリットもあわせて紹介しているので、電子印鑑の導入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
目次:
1.電子印鑑とは?
電子印鑑とは、デジタル文書に直接押印できる印鑑の印影データです。
電子印鑑には、以下の2種類があります。
- 【電子印鑑の種類】
- ●印鑑の印影画像をデータ化したタイプの電子印鑑
- ●個別に識別できる情報を付与したタイプの電子印鑑
それぞれの解説と、混同しやすい電子署名との違いを説明します。
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印鑑の印影画像をデータ化したタイプの電子印鑑
単純に印影の画像を作成したり、実物の印影データをスキャンしたりするだけの電子印鑑です。作成ソフトや有料サービスを利用して、好きなデザインの電子印鑑を作ることができます。
Excel等を使って自分でも手軽に作れるため、電子印鑑の制作にかかる時間やコストを低く抑えられるのも魅力です。
しかし、画像データだけでは簡単に複製できてしまいます。また、所有者の許可なく押印されてもそれを証明する手段がありません。
このため、正式な書類に押印する印鑑としては適さないといえます。荷物の受け取り等に使えるシャチハタのような位置付けの電子印鑑です。
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個別に識別できる情報を付与したタイプの電子印鑑
印影の画像データごとに識別情報が登録されている印鑑です。識別データが付与された電子印鑑は、所有者や押印した際の情報が明確になります。
複製ができないようになっているものも多く、タイムスタンプを付与することも可能です。タイムスタンプがあれば、押印された時点でその電子印鑑が確実に存在していたことを証明できます。
このようなセキュリティ対策がなされた電子印鑑は、企業や法人が取り扱う電子文書においても丸印などの印鑑と同様の役割を果たすもの。作成にコストがかかりますが、改ざんの危険性が低く信用度が高い電子印鑑です。
2.電子印鑑の法的効力
結論からいうと、電子印鑑は法的根拠をもって信頼性が担保されるものもあります。
とはいえ、すべての電子印鑑に法的効力が適用されるわけではありません。
ここからは、電子印鑑の法的根拠について、施行された法律をもとに解説します。
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電子署名法による保証
2001年に施行された電子署名法で、一定の条件を満たす電子印鑑であれば実際の印鑑と同様の効力を持つことが保証されました。
“平成13年4月1日から施行された 「電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)」(電子署名法)に基づき、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われた電子文書等は、真正に成立したもの(本人の意思に基づき作成されたもの)と推定されます。また、認証業務のうち一定の基準を満たすもの(特定認証業務)は国の認定を受けることができます。”
引用:デジタル庁|電子署名
電子印鑑は、電子契約を行う際に作成するデジタル化された見積書や契約書などにおいて、目に見える合意の証拠となります。
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法的効力が担保されるための条件
電子署名法に明示されているとおり、すべての電子印鑑が法的に有効だと認められるわけではありません。
電子署名法第2条では、以下のとおり定められています。
"この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。"
引用:e-Gov法令検索 | 電子署名及び認証業務に関する法律
同法第3条では、民事訴訟法第228条で示される「二段の推定」に基づき、条件を満たす電子印鑑が押印された契約は真正であると法的に認定されます。つまり、印鑑は所有者本人だけが使用するものであり、押印されている文書は本人の合意があると推定されるということです。
単なる印影データであるタイプの電子印鑑は、電子署名法の条件を2つとも満たさないため、法的にその効力は保証されません。簡単に偽造や複製ができ、所有者本人が押印したものである明確な証拠がないからです。
一方、個別認証ができるタイプの電子印鑑は、電子署名法に定められる一定の条件を満たすといえます。
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電子署名との違い
電子印鑑と電子署名との違いは、それらが持つ性質にあります。電子印鑑が印影のデータという「モノ」であるのに対し、電子署名は文書の正当性を証明する「手段」です。
電子署名とは、電子取引におけるデジタルの契約書などが真正であることを明らかにするために記名するもの。所有者固有の秘密鍵として作成された電子署名が記された文書は、対になる公開鍵暗号を用いればその真正性が誰でも調べられます。
さらに電子署名のある文書が改ざんされた場合、すぐに分かるようになっているのも特徴です。
このため、電子署名は本人が書いたものとして、丸印に匹敵する法的効力を持つといえます。
3.ビジネスに使用できる電子印鑑もある
印鑑が持つ本来の効力を考慮すると、電子印鑑はビジネス上でも十分その役割を果たすことが可能です。
電子署名法の条件を2つとも満たし、国が指定する認証局の電子証明書を発行すれば、重要な書類にも実際の丸印と同様に電子印鑑が使用できます。
しかし、現在の日本においては、ビジネスにおける電子印鑑の導入が浸透しているとはいえません。紙の見積書や契約書に実物の印鑑を押すという社会通念上の慣習が根強く残っており、電子印鑑の導入に否定的な意見が多いのが現状です。
書類を出力せずデジタル上で完了する取引は、近ごろ加速度的に普及し始めたものであり、電子印鑑に対する信頼性が低いのは仕方のないことでしょう。
とはいえ、一定条件を満たす電子印鑑は法的に正当性があると認められます。
そもそも、特定のものを除き、契約などの際に印鑑を押印することを義務付ける法律は、実物・電子問わず存在しません。トラブルが起きて裁判になったときにその契約が真正であることを示すための証拠として、印鑑は重視されているのです。
4.電子印鑑が使える書類
法的根拠に基づいて作成された電子印鑑は、e‐文書法に定められる要件を満たして保存が可能な書類に使用できます。
e‐文書法で指定されている電子保存が可能な文書の要件は次のとおりです。
- ●いつでも表示・印刷ができること
- ●紙の文書と同一のものであること
- ●保存義務がある期間内に、勝手に改ざんや消去はしないこと
- ●セキュリティ対策が講じられていること
- ●すぐに検索できること
以上の要件を満たすデジタル化された書類には、電子印鑑の使用が可能です。
具体的には、以下の書類などが例に挙げられます。
- 【e‐文書法が適用される書類】
- ●見積書
- ●納品書
- ●請求書
- ●領収証
- ●帳簿
- ●決算関係書類
- ●預金通帳
- ●建築図面
なお、これらに該当する書類であっても、手書きのものには適用されません。
電子印鑑は、取引や契約に関する広範囲の書類に使用可能だといえます。また、2022年1月に施行された電子帳簿保存法の改正で、電子取引に関する書類の保存方法が簡易化し、電子保存が義務となる書類の範囲が拡大しました。
さらに、宅地建物取引業法の改正が2022年5月に施行されたことで、これまで紙による取引しかできなかった不動産取引にもついに電子化が波及し始めています。
今後、電子化はさらに進むことは想像に難くなく、印鑑についても電子印鑑が主流になる日は遠くないと考えられるでしょう。
5.電子印鑑のメリット
電子印鑑には、紙の書類で問題となる点を解決する次のようなメリットがあります。
- ●雑務が減る
- ●スムーズな取引ができる
- ●コストの削減ができる
- ●書類の検索・閲覧が簡単
電子印鑑のメリットについて説明しますので、導入を検討する際の参考にしてください。
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雑務が減る
電子印鑑を使用すると、押印作業にかかる一連の流れを大幅に短縮できます。
従来の方法で電子取引における書類に押印するには、すべてのデータを出力し、再度パソコンなどに取り込む作業が必要です。デジタル書類に実物の印鑑で押印する作業は、1つ1つは短時間でも、量が膨大だとかなりの時間と手間がかかります。
印鑑を使用する機会が多い職種だと、1日で100枚の書類に押印する場合もあるでしょう。この時にかかる一連の押印作業が1件につき5分と仮定すると、年間12万2500分です。日にちに換算すると、1年で約85日を押印の時間にあてていることになります。
電子印鑑を使えば、書類のデータに直接押印するだけなので、押印にかかる時間は実物の3分の1程度。押印ミスによる書損や、印鑑の破損の心配もありません。
また、押印のためだけに出社するのは大きな時間のロスですが、電子印鑑なら決裁が下りればどこにいても押印が可能になるのもメリットです。
そのうえ、書類を送付する作業やファイルにつづる作業もいらず、書類管理にかかる雑務の負担が軽減します。
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スムーズな取引ができる
電子印鑑を取引の際に導入するメリットは、取引手順の簡略化です。
従来の取引では、書類に押印する際に責任者が不在だと、多くの場合その帰りを待たなくてはなりません。決裁が下りて押印したあとは、書類を封筒に入れて返送またはFAXを送信する作業があります。
この場合、担当者がその書類を受け取ったか確認できるまでに数日要することもあるうえ、郵便事故が起こらないとはいいきれません。
FAXを使用すると、行き違いなどが起こりやすく、送信した文書が担当者以外の目に触れるので、セキュリティやプライバシーに関する問題も考慮すべきです。
電子印鑑を用いた電子取引なら、契約から発送まですべてデジタル上で完結するため、従来のやり取りの問題点が解決します。物理的な手順を踏まないので、スムーズかつスピーディーなやり取りが可能です。
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コストが削減できる
電子印鑑を導入すると、ビジネスにおける様々なコストの削減および節税につながります。
紙の書類にかかる費用は、まず書類の印刷にかかるインク代と用紙代です。紙の書類の場合、データを出力するたびに用紙とインクを消費するため、頻繁に購入しなければなりません。
次に、書類を送付する際の封筒代と切手代です。普通郵便だけでなく特殊郵便を利用するケースも考慮すると、かなりのコストがかかります。
また、FAXを使用して書類を送信する場合、送信料のほかリースにかかるカウンター料金などのランニングコストの負担が必要です。
そして、紙の契約書には印紙税が課税されるものが数多くあります。
一方、デジタル上の書類に電子印鑑を押印する方式では、やり取りがメールの送受信料のみになるので、大幅なコスト削減が可能です。
さらに、ペーパーレス化するため、印紙税がかかりません。印紙税については、印紙税法第3条および印紙税法基本通達第44条により「紙で作成された実物の文書」が課税対象であるため、電子書類は非課税です。
電子印鑑を用いたデジタル上のビジネスを導入すれば、リモートワークも可能となり、社員の通勤費用などの経費も削減できます。
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書類の検索・閲覧が簡単
電子印鑑をビジネスに用いると、見積書・契約書をはじめとする様々な書類のペーパーレス化が可能です。デジタル上のデータベースで書類を管理できるため、書類の劣化や紛失の可能性が低くなります。
検索・閲覧の際に保管庫に移動する必要がなく、古い書類データも効率的に検索できるのもメリットの1つ。
加えて、デジタル書類は保管に物理的な場所を取らず、省スペースおよび職場環境の整理整頓にもなります。
6.電子印鑑のデメリットと注意点
印鑑を電子化することで生じる問題や注意点には、以下の点があります。
- ●セキュリティの脆弱性
- ●制作費用とランニングコストがかかる
- ●普及率が低い
- ●慣習・気持ちの問題
電子印鑑のメリットだけではなく、デメリットも把握して対策を講じましょう。
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セキュリティの脆弱性
電子印鑑には、防犯上の危険が実物の印鑑より多く存在します。自作やスキャンなどで画像をデータ化したタイプの印鑑は、所有者本人になりすまして押印されていても証明する手立てがなく、最悪の場合犯罪に悪用されることも。裁判になった時、法的根拠となる機能がなければ不利になります。
また、サイバー攻撃による情報漏えいの危険性には常に注意を払わなくてはなりません。
印鑑をビジネスに導入する際は、印鑑の所有者と押印者が分かる機能やタイムスタンプを組み込みましょう。電子証明書を取得して法的根拠を明確に立証できるようにするのがベストです。
さらに、相手の法人・企業との情報リテラシーレベルの差異にも十分注意してください。
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制作費用とランニングコストがかかる
ビジネスで正式に使用できる多機能な電子印鑑の作成には、制作に費用がかかります。また、利用するサービスによってはライセンス料などのランニングコストが必要です。
しかし、電子印鑑にはコスト面でのデメリットを補って余りあるメリットがあり、電子印鑑の費用対効果は非常に高いといえます。
電子印鑑は無料でも作成できますが、一時的なコストだけではなく、セキュリティの問題まで考慮すると有料のサービスを利用するほうがいいでしょう。
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普及率が低い
電子印鑑は世間一般に浸透しているとはまだいえません。
ウィズコロナをきっかけに、ビジネスのデジタル化とリモートワークが加速度的に普及しました。しかし、現在の日本においては、契約や合意の強力な証拠として押印する慣習と、実物の書類や印鑑に対する根強い信頼があります。
ビジネスで電子印鑑の押印を提案する際には、相手の法人・企業の体制や意向を優先しなければなりません。セキュリティに最大限の配慮がなされた電子印鑑だとしても、取引先が「NO」といえば強制は不可能です。
行政におけるデジタル化は展開途中であり、地方ではまだ対応しきれていません。
法人・企業上層部の年代を考えると、近年普及したデジタル化に対して不信感を抱くのは無理もないことです。そして現状では、電子化が禁止されている書類も少数ですが存在しています。
とはいえ、デジタル書類に関連する法改正が今後さらに進められることで、電子取引および電子印鑑の普及率の低さは解消する見通しです。
ビジネスにおいては、先見性やチャレンジ精神も重要なポイント。時代の流れに合った手法を検討し、デジタル文書や電子印鑑を取り入れてみてはいかがですか?
7.まとめ 電子印鑑は法的根拠があるタイプを選ぼう
デジタル文書に直接押印できる電子印鑑は、選ぶタイプによって法的根拠の有無が変わります。法的根拠がある電子印鑑を使用すれば、効率的な業務遂行が可能です。
電子印鑑にはデメリットもあり普及率はまだ低いといえますが、いち早く導入することで多くのメリットが得られます。
ビジネスにデジタル文書を導入する際には、法的根拠が明確な方法を選ぶことが非常に重要です。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。