省エネ性能表示の義務化と、適正化表示に向かう不動産業界
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2025.2.21 (金)Posted by
最近よく耳にするZEH(ゼッチ)。
エネルギー価格が高騰し、地球にやさしい住環境に対する社会的ニーズが高まる昨今、ついに、物件の「省エネ性能」の表示が、新築物件から義務化されました。不動産業界全体はこれからどうなっていくのでしょう。
■2024年4月以降、新築建築物の販売・賃貸の広告等において、省エネ性能ラベルの表示が必要に
2024年の4月から、新築の広告では、省エネ性能ラベルを表示することが義務付けられました。
収益物件オーナーの中には「自分の物件は築古だから関係ない」と考えてしまうかもしれませんが、この「省エネ性能ラベル」について、ちゃんと知っておかないと募集時に不利になってしまうかもしれません。実は、新築以外の物件についても、表示が「推奨」されているものなのです。
新築物件では、「省エネ性能ラベル」の表示について、国土交通大臣が表示方法等を告示で定め、従わなかった場合は勧告等を行うことができます。新築以外の既存建築物についても表示は推奨されます。ただし、表示しない場合の勧告等の対象とはなりません。
(本コラム内の図表については、上記、国土交通省 「建物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」から掲載しています)
■「エネルギー消費性能」とはなにか
実は、この「省エネ性能」を表すラベルは、いくつかのポイントで、どう省エネになるのかを具体的に数値などで表しています。
まずは、上の部分の「エネルギー消費性能」について説明します。
「エネルギー消費性能」は、星の数でエネルギー消費性能がよいかを表します。もちろん、星の数が多いほうが良いということになります。
建物の断熱性などが高ければ、それだけ「使う」エネルギーは減りますし、太陽光パネルなど建物の設備で「生み出す」エネルギーが多ければ、エネルギー効率がよくなります。下図のような関係です。
建物の設備についても具体的に定義がなされており、「冷暖房設備」「換気設備」「給湯設備」「照明設備」「太陽光発電」がこれにあたります。
これらは、主に「再生可能エネルギーの設備がない」場合は、4つの星でエネルギーの削減率を表し、「再生可能エネルギーの設備がある」場合は、6つの星でエネルギーの削減率を表します。
■「断熱性能」とはなにか
次に表示されるのが「断熱性能」です。「建物からの熱の逃げやすさ」と「建物への日射熱の入りやすさ」の2つの点から建物の断熱性能を見ることになります。
建物は、窓などの構造と建物の向きから、日射が入りやすいかどうかが異なります。ここでも、国は細かく基準を設けています。
下図を見てもわかるように、かなり細かく、その建物の断熱性能を見る傾向にあります。
断熱性能は「星」ではなく、「家の形のマーク」で表すことになりました。UA値とηAC値それぞれについて地域区分に応じた等級で評価し、いずれか低いほうの等級を表示せよ、とかなり厳密です。
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■「目安光熱費」も表示
実際に断熱性能や設備、あるいは日照などの数値を表したうえで、「では実際にはどのくらいの光熱費になるのか」を表示することも義務化されました。
とても細かいですね。
住宅の省エネ性能に基づき、一定の設定条件の下で、想定される年間の光熱費の目安となる額を示すものです。
実際の毎月の光熱費では、電気代など変動がありますから、あくまで「目安」ということです。
とはいえ、細かい計算方法が定められています。
■そして「ZEH」
実際に断熱性能や設備が優れていることで、今話題の、ZEH(ゼッチ)となるのであれば、それもチェックが可能となります。
ラベルの右下には「ZEH水準」の達成状況が記載されます。
さらに、第三者評価(BELS)を取得した場合は、これに加え「ネットゼロエネルギーハウス」「ネットゼロエネルギー」の項目が表示される予定となっています。
これらの数値について、専門家の第三者機関が審査を行ったかどうかについても、ラベルのデザインなどで明示されます。
■ここまで細かくても、新築なら対応可能
ここまで、頑張って読んでいただいた収益物件オーナーにしてみると、「自分の所有する築古では、どうしたらここまで細かく調べて記載することができるのかね」と頭を抱えてしまうかもしれません。そう、だからこそ「新築」への義務化です。
ただ、築古でも、ハウスメーカーなどで仕様が完全に同質で、方角なども同じであれば、このマークがどんどんつけられるかもしれません。
海外では、「太陽光パネルさえ乗っていれば、地球にやさしい」とマークをつけられるような国もあれば、「完全に電気代がタダなら」マークがつけられると厳密化したところもあります。
「地球にやさしい」は、天下の正論ですが、「ではどれだけ本当にやさしいのか」の議論を重ね、これほど厳密なものとなったのです。
今後、築古にこのマークが推奨されても、普及が進むには審査・調査の課題がありますが、収益物件の空室対策の施策のひとつとしては知っておきたい知識となります。
■ネットのスピードもこうした表示になっていくのでは
では、省エネ以外は今後どうなっていくでしょう。
耐震基準については、建築基準法で定められているため、こうした表示は今は検討されていません。が、耐震補強した物件でなんらかのマークが求められるかもしれません。地盤の強度や、火災対策などについてもこうした表示が進む可能性があります。
一方、「ネット無料」だけど「すこぶる遅い」という課題も、昨今は顕在化しています。
「最大〇ギガ」と書いてあっても、あくまで最大であり、メタル回線や同軸ケーブルではどうしても速度は落ちますし、光回線を各住戸へLANで分けるシェーアード型も、複数の住人で回線を分け合って利用するため、遅くなることがあります。
一方で、各住戸まで光回線が届いている物件では、回線スピードは速く、いま、人気も出ています。
となると、国土交通省や経済産業省、あるいはIT業界団体などの主導で、ネット設備についても「高速ネット」「中速ネット」などの定義も明確化されるかもしれません。
収益物件オーナーとしては、こうした時代の変化を見据えて、「エネルギー・耐震・ネット」などは、「高性能」なものを採用したほうが将来性が高く、物件価値が高まっていくと言えるでしょう。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長
1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長・中国ブロック副ブロック長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。