2025年はカスハラ対策元年。 クレームの入りにくい人気設備とは
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2025.1.27 (月)Posted by
いよいよ、カスハラ対策が本格化。
さて、賃貸経営におけるカスハラとはなに?そして、カスハラ対策になりうる人気設備とは。
■今、話題の「カスハラ」ってそもそもなに?
賃貸不動産業界において、「クレームを受ける」事も大切な仕事のひとつです。クレームは「リクエスト」であり、お困り事。そのクレームを処理するからこその、管理業です。
しかし、あまりに過激なクレームが、大切な従業員の心を深く傷つけ、出社拒否や退職、あるいは精神的疾患となり、そして自らの命をたつ人も出ています。
「うつ病」「休職」「退職」「自傷他害」「対策してくれなかった会社に対する訴訟」など、様々な問題の原因となりうるこの「カスタマーハラスメント」に対して、法が、企業への対応の義務づけを行っていくのが、まさに2025年のポイントです。
■不動産業界は、カスハラが多い業界?
帝国データバンクの「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査」によると、直近1年間にカスハラなどの被害を受けた企業は、全産業では15.7%でした。ところが、産業別にみると、不動産業界は23.8%と平均よりも高く、小売・金融に次ぐ、3位でした。
■収益物件オーナーは、カスハラの被害者にも加害者にもなり得る
たとえば、「隣の部屋がうるさい」「思っていたより日当たりが悪い」「設備の故障がなかなか直らない」など、生活に関する具体的な不満が存在すれば、入居者は時には感情的になる事もあります。こうした場合、契約書に大家さんの名前があることから、大家さんに直接、感情的に苦情を言ってくるケースもあるのです。
カスハラは、「その原因が相手方にあるか」「過大な金銭的要求か」「暴力をふるったか」が、比較的「論点」として考えられがちですが、「たしかに相手方が悪く」「相応な対価、あるいは無償の要求」「暴力も振るっていない」としても、「その言い方が過激で高頻度である」などは、カスハラとなります。
正当なクレームであっても、その方法が過剰であれば精神的被害や業務妨害となるのです。
こう考えると、収益物件オーナーは「カスハラの被害者」となりえるだけでなく、「管理会社に対するカスハラの加害者」にもなりえます。たしかに正論であったとしても、オーナーという優越的地位を利用して、長時間または頻繁に不動産会社の社員を追い詰めるようなことをすると、精神的にその社員を苦しめることとなり、犯罪として取り扱われるかもしれない、という社会情勢なのです。
下図は国が配布しているカスハラ対策のポスターですが、ここには「主張に正当性があっても」「暴力だけなく暴言も」と明記されています。世の中は「お客様だから、どんなに高圧的であってもいい」というわけでもないのです。
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■全宅は2024年5月にカスハラ対策明記
公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会は、2024年5月31日に開いた理事会で、「相談・苦情解決・弁済業務におけるカスタマーハラスメント対策」の策定を報告しました。
この協会では、相談窓口業務も交替で行っています。相談の際に、「明らかに必要性のない言動」「手段として不適当な言動」が見受けられるということで、利用者等による暴言・暴力があった場合は、手続き業務を中止するほか、悪質な場合は警察・弁護士と連携して刑事・民事上の手段によって対処していくことを明文化しました。「いざとなったら、警察に通報しますよ」とはっきり宣言したのです。
担当者に対する暴言・暴行などだけではなく、過剰・不合理な要求、合理的範囲を超える時間的・場所的拘束、各種ハラスメント行為、SNSへの担当者氏名公開や同協会・担当者の信用を毀損する行為などを具体的に示したという点で画期的です。
■クレームが収支を悪化させる。修繕はスピード重視で
こうした対策を講じても、カスタマーハラスメントは一朝一夕に解消するとは言えません。「お客様は神様です」とばかり、優越的な地位での暴言は人を強く傷つけるものですし、SNSでの誹謗中傷など、カスハラの攻撃方法も複雑性が高まっています。
たとえば、「エアコンが壊れた」ケースで、収益物件オーナーが少しでも安い会社に発注しようと修理までに時間がかかっていると、その間も入居者の不満は拡大します。「いつになったらエアコンが直るんだ」「毎日暑くてやっていられない」「一緒に住んでいる家族がかわいそうじゃないか」。こうして不満が溜まり、感情が爆発し、窓口のひとを追い詰めてしまったり、直接大家さんに苦情を言いにやってきてしまったり。
実は、トラブルは初期対応のスピードで、いかようにもかわります。
■クレームを減らす設備強化。たとえば、ネット無料は「高速」へ
図のように、集合住宅にお住まいの500名を対象にしたアンケート調査でも、騒音に悩んだ経験がある人は、78.2%。
「Alba Link 不動産総研」https://wakearipro.com/noise-trouble/
特に近年では、「テレワーク中、騒がしくて仕事にならない」「オンライン面接中なのに、となりの部屋がうるさい」などのトラブルも起こっています。
こうした騒音は「ヘットフォンをする」などでもある程度は防げますが、「ネット回線のスピードが遅くて、大事な面接のやり取りで支障があった」といったケースでは、人生がかかっているだけに、より感情的になるかもしれません。
これまでの賃貸経営は、「出来るだけ安い設備」を選択して投資対効果をあげてきましたが、「高速のネット」「壊れにくい給湯器」「よく冷えるエアコン」など、「クレームになりにくい設備」を選んでいく事も大事なのです。それは結果として、入居者からのカスハラを未然に防ぎ、SNSでの悪評を防ぎ、満室経営の一助になる。そんな時代に入ったと言えるでしょう。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長
1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長・中国ブロック副ブロック長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。