プロパンガスの設備供与に法規制。これからの設備強化で、オーナーの投資判断は
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2024.9.20 (金)Posted by
■プロパンガス会社が エアコンをタダでつけてくれた?
全国を回っていると沢山のオーナーに出会います。セミナー会場での質問や相談会、あるいは終了後の懇親会など。するとその場では、家賃の下落対策や空室対策にも話がおよびます。
私としては、インターネット無料などの人気設備の充実や、リノベーションなどといった物件の競争力をあげるお話をするのですが、それにはお金がかかります。すると、中には「そういうことは、知り合いのプロパンガス会社にタダでお願いしている」というオーナーがいらっしゃいます。
都市ガスは厳格な都市ガス法による規制があり、公共の概念から簡単に“サービス”などは出来ないのですが、プロパンガス会社は「なんとか当社を採用して」と色々な手法で営業をしています。そしてガソリン価格が店舗によって違うように、プロパンガスも会社によって単価が違います。
なんとか賃貸物件に自社のプロパンガスを入れてほしいと、「大家さん、うちのプロパンガスをアパートに採用してください。採用してくれたら、プロパンガスの配管工事代は多少サービスしますよ」などいった営業を受けることもあるでしょう。
そのうちに、「うちでは給湯器もリースとしてサービスします」「うちではそれならエアコン代も負担しましょう」「それならリフォーム代やネット代金も負担しますから」と、どんどん過激なサービス合戦になってしまいかねません。
「かつて入居者が負担して設置するものだった」エアコンですが、プリンシプル住まい総研で調べたところ、全国で9割以上の物件が「エアコン付き」となっています。この普及に「プロパンガス会社がタダでつけてくれた」などということも一役買っているのかもしれません。
四国のとあるエリアがTVモニタフォンの設置率がとても高く、「この街はなぜこんなにTVモニタフォンが普及しているのですか」と聞くと、「この地域ではプロパンガス会社の競争が激しくて、彼らがサービスしてくれるんだよ」という話を聞いたこともありました。
オーナーにとっては、タダで物件価値が向上するなら嬉しい話ですが、「実は、サービスされた分はプロパンガス代に転嫁されている」と考えると、あまり良いことばかりではなさそうです。
■経済産業省が規制を開始
2024年4月2日、経済産業省はプロパンガス(LPガス)の販売方法に関する新たな規制を公布しました。これまで、ワーキンググループなどで、前章のような商習慣について課題と解決策が議論され、以下の3つの主要なポイントに焦点を当てて公布されています。
■(1)過大な営業行為の制限
プロパンガス事業者が賃貸住宅オーナー等に対してエアコンなどの設備を無償提供する行為が禁止されます。「うちにしてくれたらエアコンつけますよ」という営業行為は「禁止」となったのです。
■(2)三部料金制の徹底
2025年4月2日から施行され、プロパンガス料金を「基本料金」「従量料金」「設備料金」の3つに分けて明確に表示することが義務付けされます。つまり「今月のプロパンガス料金は〇万円」、その内訳は「基本料金〇円」「プロパンガス利用量はこのくらいで㎥単価〇円なので〇万円」そして「エアコンと給湯器をプロパンガス会社が負担したので設備料金は〇万円」と書きなさい、ということです。
「エアコンと給湯器付きの部屋を借りたのにプロパンガス料金にその設備代が入っている」となれば入居者は納得できませんから、「それは大家さんが払って」という話になるでしょう。
■(3)そして、LPガス料金等の情報提供
賃貸住宅のオーナーや不動産仲介業者は、入居希望者に対してプロパンガス料金に関する情報を提供する努力義務が生じます。つまり、仲介時に「この物件は、プロパンガス代にこれとこれが含まれています」と説明する努力義務が加わるのです。
「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」経済産業省ホームページより
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■過剰なオマケ営業に規制
一般社団法人 プロパンガス料金適正化協会(東京都国分寺市)は、「これまで事業者は賃貸住宅オーナーへのプロパンガス契約の見返りとして、エアコンやガスコンロ、Wi-Fiなど住宅設備を無償提供していたことが問題となっていました。また、賃貸住宅オーナーだけでなく、戸建てなどマイホームの持ち主に対するLPガス供給の契約書には、期間内に事業者の切り替えをする場合に違約金支払いを負わせるなどの不利な条件を盛り込んでいたのです。これらのことは、利益供与のエスカレートや消費者の選択の自由を阻害する恐れがあるとして禁止されることになりました。過大な営業行為の制限は、改正省令の公布から3か月後となる2024年7月2日より施行となります。」と解説しています。
また「これまで、事業者の行き過ぎた無償提供設備の費用は、詳細な内訳を記載することなく、一方的に消費者のガス料金に上乗せして回収していました。都市ガスに比べて割高なプロパンガス料金がさらに高額となる原因であったのです。2025年4月2日からは設備費用の外出し表示の徹底で、請求料金の透明化が図られるようになります。もちろん今後は過大な営業行為の制限もあって、LPガス消費と関係のない設備費用の料金計上は禁止です。賃貸住宅にいたっては、ガス器具等の消費設備費用であっても計上禁止となります。」と述べています。
オーナー側から「今度はなにをおまけにしてくれるの?」「なにかつけないと別のプロパンガス会社に変えちゃうよ」といった行動は、匿名でも可能な通報フォームが設置される予定であり、違反者には罰金・罰則が科されるようになるのです。
■では、設備強化はどうすればいいのか
そうなると、プロパンガス会社におまけを要求することは不可になります。ではオーナーはどのように設備強化をすればいいでしょう。
実際には、「空室が満室になる」ことで、収支が改善されます。
全国の単身物件の家賃相場は4.7万円です(2024年6月1~3日スーモ掲載物件による、プリンシプル住まい総研・調べ)。築30年以上でも平均は3.7万円。空室が埋まれば、築30年以上の単身物件でも、3.7万円の収入があります。仮に給湯器が10万円、工事費が8万円としても、5か月程度で回収できます。
例えばインターネット無料物件にするとして、戸あたり仮に3,000円、10部屋で3万円かかるとしても、それで1部屋3.7万円が決まれば投資回収できます。本来、設備投資は、空室が改善されることで収支が黒になるのです。
ならば、満室の物件はどうするか。折しも、世の中はインフレです。設備強化をしているのであれば、次の募集時にもう1,000円、2,000円、賃料をあげて勝負すべきです。
■人気設備がつくと、家賃が上がる。 水戸では平均賃料もあがった
例えば、茨城県の水戸エリアの単身物件は、図のように、築年によってかなり家賃の差があります。
<2023年 水戸駅最寄りの1R・1K・1DKのアパートもしくはRC:築年数別>
スーモ掲載物件での水戸駅最寄りの1R・1K・1DK平均賃料(一戸建てを除く)・2023年10月14日プリンシプル住まい総研調べ
すでにこのように「築年」での家賃の差が全国でも大きくなっているのですが、これは、築古ほど人気設備がついていないからなのです。
<2023年 水戸駅最寄りの1R・1K・1DKのアパートもしくはRC:導入設備別>
スーモ掲載物件での水戸駅最寄りの1R・1K・1DK平均賃料(一戸建てを除く)・2023年10月14日プリンシプル住まい総研調べ
「ネット無料」「バストイレ別」「温水洗浄便座付」「TVモニタフォン」「防犯カメラ」「宅配BOX」などの人気設備がついている物件は、全体平均よりも高い家賃水準です。こうした人気設備をつけることで、特に次の募集時に賃料を高めに提示することは可能でしょうし、更新時にも「〇〇が付いたので」と交渉しやすくなります。
実際に水戸エリアでは、こうした活動により、2022年から2023年に約2,000円の平均家賃アップに成功しています。
スーモ掲載物件での水戸駅最寄りの1R・1K・1DK平均賃料(一戸建てを除く)・2022年9月9日、2023年10月14日プリンシプル住まい総研調べ
つまり、こうした設備強化は「家賃アップ」に繋がるはずが、今までは「プロパンガス会社が設備を負担してオーナーにサービスし、結果的に、プロパンガス代が高くなっていた」とも解釈が可能です。本来は、「人気設備がついてる魅力的な物件」として訴求し家賃アップにも反映すべきであり、今後「プロパンガスの三部料金制の徹底」がされるのであれば、いまこそ「そうすべき」なのです。
現状は、インフレ。空室対策をなにもせずに家賃だけ下げていても、その間にも物価は上がっていきます。不動産会社も仲介手数料や管理料は定額ですから、家賃を上げないと、給料アップに反映していくことは困難でしょう。
プロパンガス会社からの無償提供に法規制が入ったいまこそ、人気設備を強化して、賃料アップし、満室経営をしていく時代なのです。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長
1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長・中国ブロック副ブロック長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。