インフレ時代に平均賃料5%アップ 今、話題の水戸モデルとは
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2023.12.25 (月)Posted by
■物価が上がっても。 賃料収入が上がらない。
物価上昇が止まりません。電気代もガソリン代も小麦もキャベツも冷凍食品もなにもかもが値上げになっています。物価が上がっても、家賃はなかなか上げられません。入居者さんの給料が上がっているわけでもない中、「諸物価高騰の折、家賃まで上げられたらかなわない」とむしろ、下げてほしいと入居者は思うでしょう。
とはいえ、家賃があがらなければ、収益物件オーナーも、不動産会社社員も可処分所得が下がってしまいます。
2023年10月20日公表された総務省統計局の消費者物価指数は、2020年を100として106.2でした。前年同月比は3.0%の上昇とのことですが、実は、この数字は生鮮食品とエネルギー代の高騰は反映していません。
豊作不作で変動する生鮮食品と、政府がテコ入れしているエネルギー価格変動の双方を除くと、前年同月比は4.2%なのです。
2020年を基準とした比較値。総務省データよりプリンシプル住まい総研作成
物価が上がっても給料が上がらなければ生活は苦しくなる。物件が古くなり家賃が下がる一方で、オーナーの可処分所得は低下。不動産会社の売上・利益が上がらなければ、給料も上がらず、生活は困窮してしまう。
繁忙期前、この12月の動きがラストチャンスなのだ。
■連合が5%の賃上げを要求。オーナー・不動産会社も5%賃上げを。
2024年10月19日の2024 春季生活闘争基本構想で、労働組合団体の「連合」は基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせて「5%以上」の賃上げを求める方針を固めました。賃上げ分 3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め 5%以上の賃上げという方針でかなり強いメッセージです。
「連合は大手の東京の労働組合」と思われるかもしれませんが、「大中小」あわせて「全国」の労働組合が「連合」して交渉しようという団体。デフレ経済からインフレ経済と変わり、労働者としても「物価上昇以上の賃上」と要求しています。
連合とは別の組織である、約185万人の組合員を持つ日本最大の労働組合の産業別組織「UAゼンセン」は、2023年11月6日「6%を基準」とした賃上げを目指す方針で調整を始めました。ビックカメラは正社員を対象に7%超のベアを実施予定。サントリーホールディングスは7%程度の賃上げをする方針。しかし、オーナーには賃上げ要求をする労働組合はありません。多くの不動産会社も、仲介手数料も管理料も家賃との連動ですから、賃上げをするための原資がありません。
やはり、なんとか物価上昇なみに家賃を上げたいものです。
■首都圏のファミリー物件では家賃上昇。 とはいえ、ローカル・単身物件で家賃をあげたい。
SUUMOのビックデータの調査によると、東京23区のファミリー物件では、2020年に反響が入った平均賃料が21.0万円。2023年では23.8万円と、4年間で13.3%上昇しています。(全国住宅新聞2023年11月6日記事より)
新築分譲マンションの価格が東京23区では、非常に高く、2010年の価格に比べて2023年では、1.9倍を超えており(国交省「不動産価格指数」より)、賃貸×ファミリー×23区となれば上昇局面です。とはいえ、なかなかその恩恵は地方では享受できません。
2023年10月発表の日管協短観によると、首都圏の賃料アップは52.5%。しかし、関西では24.6%、首都圏関西以外では33.3%と大きく差があります。首都圏でも間取りタイプ別では、2LDK以上での増加が多く、1R~1DKでは35.3%と下がります。
2023年10月発表・日管協短観
賃貸物件は、その多くが単身物件であり、23区以外にも沢山の賃貸物件が存在します。なんとか、「ローカルかつ単身」での賃料アップを期待したいものです。
■水戸モデル。 設備強化で、2000円家賃が上がった。
そんな中、「設備を強化して、少しでも募集賃料をあげていきましょう」という講演を、昨年、茨城県水戸市と島根県の松江市の住環境向上セミナーで講演させていただきました。当時はこうした講演は「そんなの無理だよ」とおしかりを受ける事もありましたが、各地域では、「ライバル物件よりも1,000円でも下げて決めるしかない」という時代が続き、オーナーも不動産会社も疲弊しており、私も講師として熱をこめて「単なる値引き合戦ではなく、物件の魅力をあげて、仲介時にも、こんな設備がついていますよと紹介されやすい物件にしましよう」とお話ししました。
実は、この2か所。2年連続で講演させて頂きましたが、その際調べたところ、どちらのエリアでもなんと、単身物件の家賃が上がったのです。
■水戸駅最寄りのワンルーム・1K・1DKの、築年別・募集賃料推移
スーモ掲載物件での、「水戸駅」最寄りの1R・1K・1DK平均賃料(一戸建てを除く)プリンシプル住まい総研調べ。2022年9月9日、2023年10月14日調査。
■松江駅最寄りのワンルーム・1K・1DKの、築年別・募集賃料推移
■人気設備を付けて物件の魅力をあげ、 築古でも少しずつ、家賃を上げて募集。
単純に、家賃を上げるだけでは物件はもちろん決まりません。水戸や松江では、オーナーや管理会社が努力して、人気の設備の装着率をあげたのです。
■水戸の単身物件での「設備装着別平均賃料」と「マーケットシェア」
スーモ掲載物件での、「水戸駅」最寄りの1R・1K・1DK平均賃料(一戸建てを除く)プリンシプル住まい総研調べ。2022年9月22日・2023年10月14日調査。
築年や立地は変えられません。しかし設備は努力次第で強化し、空室対策が可能です。そして、人気設備がついていれば、仲介時にも「こちらの物件はネット無料ですよ」とアピールしやすくなります。設備強化をしないままでは、築年・立地で比較され、価格競争に飲み込まれます。
■オーナー・不動産会社・入居者 3方よしの脱デフレ戦略。
これまでは「空室対策で大家に負担していただいて」とやや消極的に説明していた不動産会社さんも、「家賃を上げて投資回収しましょう」とプレゼンすると迫力が増します。当然、自分の会社の管理部で設備強化を提案したのですから、仲介部も「決めなければ」と意気込みも違います。
例えば、平均賃料4万円の物件で、2,000円アップに成功すれば、連合の「5%アップ」が実現します。オーナーの収支も改善しインフレ対策に貢献できます。仲介手数料も管理料も5%アップ。あと5%で目標に届かなかった営業マンも達成。従業員の給料アップも見込めます。
入居者目線では、水戸でも松江でもネット無料物件が増え、防犯カメラにより安全が守られ、宅配ボックス付きの物件も増えます。生活がより豊かになるのです。
オーナーも不動産会社も入居者も幸せなる。そんな「三方よし」の脱デフレ戦略を是非、今の時期にご検討ください。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。