9年連続一位。 ネット無料が人気設備ランキング1位を維持するわけ
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2023.11.24 (金)Posted by
■「コロナが終わったら、ネット無料は終わる?」。 そんな意見を覆す結果に
全国賃貸住宅新聞2023年10月16日号で、今年の「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても入居が決まる」ランキングが発表されました。これは毎年行われている調査なのですが、不動産会社にアンケートをとって、「どの設備があれば、家賃高くても決まる?」といった質問で集めています。「入居希望者に聞いているわけではない」のですが、不動産会社の「現場実感値」ですから、かなり「確からしい」もので、よく「人気設備ランキング」として注目されています。
一方で、「いや、このランキングではインターネット無料が一位になったけど、それはコロナ禍で、オンライン授業やテレワークだったから。ランキング、今年は変動するよ」という方もいました。結果はどうだったのでしょう。
■「コロナ禍だから、ネット無料になっただけさ」 という意見
コロナ禍ではたしかに「ステイホーム」が国策でしたし、「7割テレワークを要請」と言っていました。2020年3月の新型コロナウイルス感染症対策本部決定では、「職場への出勤について、⼈の流れを抑制する観点から、在宅勤務(テレワーク)の活⽤や休暇取得の促進等により、出勤者数の7割削減を⽬指すこと」と書かれていました。
また、2020年3月、新型コロナウイルス感染症対策本部決定では、「⼤学等については、感染防⽌と面接授業・遠隔授業の効果的実施等による学修機会の確保の両⽴に向けて適切に対応することを要請する。部活動や課外活動における感染リスクの⾼い活動の制限⼜は⾃粛」を要請していました。
2020年3月というと、クルーズ船が話題となり、まだ安倍政権。卒業式の延期が決まり、入学式などが順延となったころです。まだ最初の緊急事態宣言が出る前です。
さて、2023年。コロナも5類になり、テレワーク・オンライン授業も減ってきました。しかるに「コロナ禍でネット無料が流行った」ので「コロナが収束すれば、ネット無料ブームも収束する」という仮説です。
■9年連続、「インターネット無料」が首位 アフターコロナもネット無料が堅持
コロナ禍を乗り越え、さあランキングに大きな変動があるかと注目された、2023年の「人気設備ランキング」。やはり「インターネット無料」が一位でした。単身物件では9年連続。ファミリー物件でも8年連続。上位に大きな変動はありませんでした。
同調査では、「2023年に入ってから部屋探しの顧客の希望が大幅に増えた設備ランキング」も同時に公開しています。ここでも512社の返答した不動産会社のうち、150票の1位が「インターネット無料」。2位は「高速インターネット(1Gbps以上)」という状況でした。コロナ禍が、テレワーク・オンライン授業、あるいはネット通販・動画配信など、ネット利用の背中を押したことは事実ですが、その熱は冷めず、2023年に入ってからも、希望者が増えているのが事実です。
■経年でとらえると、コロナ前から ネット無料
「コロナ禍だからネット無料なのさ」という意見について、では「コロナ前」ではどうなのでしょう。案外調べず、先入観による決めつけであることがあります。コロナ感染拡大は、ここ数年のことで、人気の設備ランキングは9年連続1位なのですから、「コロナ禍が背中を押したのは否めない」が「急にランキングが落ちたりしないよ」と考えるのが、正しいことに気が付きます。
そこで、実際に、調べてみました。
こうして調べてみると、「コロナ禍だからネット無料」というわけではなく、「ここ10年、ネット無料が鉄板」だったというわけです。2021年から、「高速インターネット」がランキングの選択肢に追加され、オートロックと宅配ボックスの上位陣に食い込んでいるのも事実です。
また、「この設備がなければ入居が決まらないランキング」も同時に発表しています。この調査には「エアコン」が選択肢に今年から加わったため、経年比較が難しくなっていますが、コロナ禍の発生・収束とは関係なく、「インターネット無料でないと決まらない」と不動産会社が感じているという現場実感値がわかります。アフターコロナでもネット無料は決め手となっているのです。
■感染回避目的だけでない テレワークによる働き方改革
しかし、実は2021年11月には、政府は企業に一律で求めていた「出勤者数の7割削減目標」を撤廃しています。そうまだコロナが5類になる前に、「テレワーク7割」は取り下げられており、テレワークは地域差もかなりありました。在宅勤務だけではなかなか業績も上がらず、IT企業でさえ「いいかげん出社して働け」といった経営者が出るほどです。
一方、コロナ禍で、「ZOOMなどによる遠隔会議」や「自宅からオンラインで会社につないで働く」といったことは、かなり「体感」することが出来ました。よく駅の待合室や飛行場の登場前などに、オンライン会議をしているような人も見かけます。「やれば出来る」とわかったわけです。
そうなると「妊娠・出産・育児などで出社が厳しい」「介護などで自宅にいないと心配」「本人の療養中での時短勤務」など「働き方改革のひとつ」として「テレワーク」という手段が普及します。
しかし、コロナ禍が収束し経済活動が活発化すると、入国制限も撤廃され、海外からの留学生・技能実習生の入国も再開されます。日本のテレビを観るより、母国のYouTubeをみたい。高い国際電話をかけるより、無料の通信アプリで母国の家族とやりとりしたいといったニーズもあります。すると、ややこしい手続きなく、入居したらすぐネットが使える、インターネット無料物件は、魅力になるというわけです。
■就職活動は、 今後もオンラインに
人気大学の周りほど、全国どこへ行ってもネット無料物件が多くなりました。感染拡大を避けるため、各大学は積極的にオンライン授業をしたためです。しかし、アフターコロナとなりました。ほとんどロックダウン状態だったキャンパスに活気が戻り、授業も対面授業が増えました。
一方で、会社説明会や面接は、オンラインでの実施が継続して行われています。なにしろ「人事部としては、採用活動のため会場を抑えるのはコスト高」であり「学生としては、午前中東京の会社の説明会、午後は大阪の会社の面接も可能で、交通・宿泊費もかからない」というわけです。対面のみという会社は23年卒25.6%から24年卒27.4%と増加傾向にはあるものの、オンライン面接を併用する企業が大半なのです。
■分譲と賃貸で 人気設備が分かれていく
かつては、分譲物件に追随するように賃貸物件で、人気設備が変化していました。独立洗面台・システムキッチン・オートロック・ウォークインクローゼットなどは、分譲物件で普及し、賃貸物件の新築が後追いするような状況でした。
ところが、「インターネット無料の分譲物件」はありません。ネット代を払う大家さんがいないからです。今回、「ないと決まらない設備」1位となったエアコンも、分譲物件では居住者が買うのが当たり前です。
ディスポーザーやコンシェルジェ付き物件、キッズルームなどは、分譲で普及しても賃貸ではなかなか普及はしていません。投資対効果がないとそう簡単にはいかないのです。今はやりのZEHも賃貸でそう簡単に普及はできないかもしれません。
こう考えると、今は分譲と賃貸の分かれ道でもあります。「転勤で分譲マンションを使わないから、賃貸でリロケーションしよう」といった際、「ネット無料やエアコンの設置で劣位」となることも考えられます。人気設備ランキングの推移に気を付けながら、物件の付加価値を上げて行きましょう。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。