繁忙期明け空室対策。学生向け物件の空室はどう対処すべきか
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2023.5.22 (月)Posted by
■繁忙期を超えて空いている学生物件をどう対処すべきか
これまで、長いコロナ禍で、キャンパスは賑わいが少なく、オンライン授業が増え、部活や卒業旅行が自粛ムード。学生向けの物件が、なかなか空室が埋まらないという苦戦を強いられました。
ようやく、この春は、コロナ禍もピークを乗り越え、いつものように学生物件が満室になるかと思われましたが、各地で「学生物件に空きが出ている」という話を聞きます。なにが起こっていて、これからどうすべきなのでしょうか?
新型コロナ感染拡大期、大学選びにおいて、学生の地元志向は高まりました。感染が拡大する首都圏にわざわざ受験に行くのは地方の学生も親にとっても怖かったのです。すると、首都圏への進学より地元への進学、すなわち自宅からの通学を意識する高校生が増え、合格者数が同じでも、各大学の地元比率が高まり、学生物件の入居は苦戦していました。この春、この傾向が改善されるという期待がオーナーには広がりましたが、なかなかうまく行かない物件も多かったようです。
■学びたい学部がどちらにもあるなら親元を離れて、無理をして通わないという傾向は実はコロナ前からあった
実は、「学びたい学部がどちらにもあるなら、首都圏の大学より地元の大学」という地元志向は、コロナ前から進んでいました。文部科学省の学校基本調査によると、東京都内の大学生において地方出身者が占める割合は、1990年の39%から2019年には30.7%まで低下していました。
シンプルにいえば、コロナの前から、地方出身者の合格者割合が減っていたため、学生物件の空室が目立っていました。これは地元志向・安定志向・居心地の良さ志向が背景にあったのです。
18歳人口は長く減少傾向にあり、一方で大学の定員は増加。結果、4割の私立大学は定員割れをしています。
■先輩も進学していないので受験対象から外れていく
そこにコロナ感染拡大が拍車をかけました。地方学生が、コロナ感染のリスクを冒してまで都心の大学を受験しなくてもいいではないか。家族も心配するから、自宅から通える大学に進学しようという傾向です。となるとここ2年間、自分の高校から、わざわざ下宿して首都圏の大学に行った先輩がいない。しかもこの間も、18歳人口は減っていました。
となると「知っている先輩は首都圏へ進学していない」。こうして、「部屋を借りて遠隔地の大学に進学しよう」という学生は、よほどの難関校でないと減ってしまったのです。
「さあコロナも収まったのでどうぞ、受験して」と言われても、魅力が減退してしまっていたため、受験生の割合において、遠隔地の学生が減っていたのです。結果的に、学生物件の空室が目立つというわけです。
■現況空室で考えたい
①社会人単身入居
ともあれ、繁忙期を終えて空いてしまっている空室は、学生物件の場合、次の受験機会まで待つのは収益確保としては期間が長すぎます。できれば、早く入居してもらいたいものです。そんなとき、社会人が入居してくれれば嬉しいですね。こう考えるには、立地と交通機関、そして駐車場は重要です。
山間部などで、大学のキャンパスだけがポツンとあるように立地では、「社会人もOKですよ」と言ってもそう簡単に入居者は決まりません。また、毎日の通勤を考えると、駅に近いとか、駐車場があるかなどは社会人の部屋選びでは重要となります。「大学のキャンパスに近い」という好立地が社会人には最適とは限りませんので、ここは注意が必要です。
②外国人留学生入居
社会人入居が難しいとすれば、外国人留学生の入居をどんどん受け入れていきましょう。定員割れが続いて困っているのは我々収益物件オーナーだけでなく、大学経営も同様です。そこで、国は積極的に海外からの留学生を受け入れる方針をコロナ前から打ち出していました。
収益物件オーナーとしては、外国人留学生を積極的に受け入れ、現況の空室を埋めていく事が安定経営につながります。アフターコロナの施策で、入国制限が緩和されたのは旅行者だけでなく、留学生も同様です。
かつて、留学生に入居させて、「もう懲りた」というオーナーもいらっしゃるかもしれません。滞納や母国への突然の帰国、あるいは同居人がいて大変だったなど、文化の違いによるリスクを経験すると、受け入れがたいという方も多いかもしれません。しかし、今は留学生専門の家賃保証会社が登場したり、不動産会社の社員が外国人という企業も出てきたりしています。世の中はグローバル時代。もう一度外国人留学生の入居も検討しましょう。入学時期が日本とは違うため、早期に収益改善する上でも有効でしょう。
③新入生ではなく、在校生を狙う
在校生へのアプローチも有効です。「来年の新入生を待っていられない」というこちらの事情を考えると、学生の転居を狙うというのは正しいアプローチです。
実は、在校生もここ数年コロナ禍で、部屋にこもっていました。それが現在のアフターコロナの情勢変化になると、「オンライン授業ばかりでなくリアルでの授業も増えたので、もっと通学に便利なところに引っ越ししたい」、「就職活動がそうはいってもオンライン面接なので、もっとネットのスピード環境のいい物件に移りたい」、「バイトの募集が増えたので、キャンパスから多少遠くてもバイト先に近いほうがいい」といった転居のニーズも増えてきます。
■重要なのは、設備強化
この際、強化すべきは間違いなく「設備」です。なにしろ「繁忙期に決まらなかった」のですから、周囲の物件よりは魅力が薄かったと考えるべきです。下の図は、大宮駅と高崎駅周辺の単身物件の賃料平均と、設備の装着率です。全国どこの地域でも、築5年を超えるとネット無料物件の比率が減り、築30年を超えるとバストイレ一緒の物件が増えます。温水洗浄便座は築20年を超えると減ってしまい、TVモニタフォンや防犯カメラといったセキリティ面はまだまだです。
①の社会人をターゲットと考えれば、前述した駐車場とともに、テレワークを想定した「ネット無料」は必須でしょう。半数の社会人は女性単身と考えれば、「セキュリティ面の強化」も必要です。
②の外国人留学生をターゲットと考えると、日本人ほど湯船につかる慣習はないかもしれませんから、バストイレ別のセパレート工事よりも、本国にいる家族とのやり取りを考えて、「ネット無料」が有効です。そして留学してすぐ暮らし始めますから、「家具家電付き」にしてあげるとベターです。
③の学生の転居を狙うならば、「これまで住んでいた部屋よりいい部屋」に住みたいはず。「ネット無料」でも「より高速」がいいですし、「セキュリティ強化や生活環境の充実」は必要です。
学生物件で繁忙期に決まらなかった物件を「仕方ない」とあきらめるのではなく、これまでとは違うターゲットを狙って、もう一度募集戦略を立て直してみましょう。その際には、プラスアルファーの設備強化を是非とも検討してください。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。